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日帰りでふらっと鎌倉~横浜に行っただけの日記

平成最後の夏、にも関わらず夏らしいことを何一つしていなかったので、せめて小旅行っぽいことをしようと思い立った。平日に休みを取り、日帰りで鎌倉に行くことにした。
どこをどう回ればいいのかなと前日に少し検索したが、大体の日帰り一人旅プランが「9:30 鎌倉駅に到着!」から始まっていたので早々に情報収集を諦め(そんなに早起きできるわけがない)、当日の気分に任せることにした。

案の定ゆっくり寝てゆっくり起き、殊更ゆっくり出かける準備をしたので結局鎌倉駅に着いたのは13時だった。
以前食べて美味しかった記憶があるので、しらす丼が食べたかった。駅前の小町通りはかなり混んでいて10分ほど並んだが、無事お店に入り、昼食にありつくことができた。

半分くらい食べた時点で気づいたのだが、私が食べたかったのは「生しらす丼」であり、通常のしらす丼(釜揚げしらす丼というらしい)ではないようだった。道理で前回ほどの感動がない。
そういえば通りのあちこちに立てられているのぼりにも「しらす」と書かれているものと「生しらす」と書かれているものがあった。ぼーっと見ていて全く気づいていなかった。私の人生にはこういうことが多すぎる。

とはいえ満腹になったので、小町通りをぶらぶらした。天然石で作った数珠状のアクセサリーなどが売られているお店(観光地によくあるやつ)で、かわいい指輪に出会ってしまった。ピンクゴールドの土台に淡いピンクの石が付いていて、値札には「ベニスイショウ」と書いてある。
紅水晶、つまりローズクォーツ!子どもの頃、新聞に挟まれて届いた宝石店のチラシをずっと眺めていた記憶が甦る。色も名前もかわいいし「紅水晶」という和名もオタク心をくすぐるものがあり、私はローズクォーツが一番好きだった。
思えば、宝石のチラシを熟読するようになったのはセーラームーンが好きだったからかもしれない。敵の名前が宝石からきていたり(武内直子先生のご実家が宝石店らしい)、「幻の銀水晶」という天才的なネーミングのアイテムが出てきたり、キラキラしたものに目が無かった当時の私の心をセーラームーンはいつでも最高にときめかせてくれた。そんなことを思い出しつつ指輪を買い、「付けていかれますか?」と訊かれたので装着して店を出た。

駅から出ているバスに乗って、有名な長谷大仏を見に行く。

大きい。せっかくなので拝観料を払って胎内(大仏の内部)にも入ってみたが、大きいな…という雑な感想しか出てこない。
圧倒的な質量の「祈り」だな、と思う。今に比べれば建造技術も方法も限られる中で、これだけ大きな像を作ろう、と決めて本当に実行してしまった人たちの、天に向けた強烈な祈りの力を感じる。
何百年、何千年の昔から、どうしようもない災いや避けがたい不安に対処するために、私たちはひたすら祈ってきたんだなと思う。

次は長谷寺に向かう。バスで一駅。

ちょっと疲れたのでお寺入り口のカフェに入り、サイダーを飲んで休憩。お地蔵さんのラベルがかわいい。別に毎夏サイダーを飲んでいるわけでもないのに、夏の味だなあと感じるのは不思議だ。こういう小さな思い込みの積み重ねが概念としての「夏」を作っているのか。

参拝を済ませ、おみくじを引いたら吉だった。大体「ちゃんとやってれば良いことあるけど心がけが悪いとダメだよ」といったようなことが書いてあったが、「勝ち負け:勝つべし」と勝負事についてだけ急にシビアな姿勢を見せてきたのでびっくりした。そりゃ勝てるものなら勝ちたい。

牡蠣の殻に願い事を書く「かきがら絵馬」というものがあったのでやってみたが、5分以上悩んだ結果、「世界平和 心願成就」というあまりにも大雑把な願いを書いてしまった。

かきがら絵馬だけでなく、境内の至る場所に大量の絵馬があった。水子や早世してしまった人を供養するためのお地蔵さんも数えきれないほど並んでいた。ここにあるのも圧倒的な質量の祈りだ。どうしても叶えたい願いや深すぎる悲しみを抱えて、皆祈っている。
こういう場所で神仏に祈ることで何かが叶う、と心から信じたことは正直あまり無い。でも、はるか昔から沢山の人が私と同じように「祈って」きていて、その積み重ねがここにあるのだ、と思うと、その事実だけで救われるように思う。
小さな女の子(名前と筆跡からの判断だが)が書いたと思われる「おいしゃさんに なれますように」という絵馬があった。絶対に、この子の願いが正当に叶う世界であってほしい。

長谷寺を散策してそこそこ体力を消耗したので、まだ明るいが鎌倉駅に戻ることにした。小町通りでお昼を食べた時に見かけた「男梅ソフトクリーム」を食べておけばよかった、という思いが強くなっていたのもある。

バスで鎌倉駅に戻り、ソフトクリーム店に直行した。男梅ソフトは男梅そのままの味がして美味しかったが、秒速で溶けて手と服と路上をボトボト汚した。来世があったらソフトクリームを上手に食べられる人間になりたい。

この後どうしようか考えていたら、ふと「今から横浜に行けばピカチュウを見られるのでは?」と気がついた。ここ数日、ピカチュウやイーブイが大行進している動画がTwitterでよく流れてきてかわいさに悶絶していたのだが、どうやら今日がイベントの最終日らしい。どうせ帰りに横浜を通るし、今から行けば夜の回に間に合いそうなので、行ってみることにした。(こういう突飛な判断をできるのが一人旅の良い所である)


電車を乗り換えてみなとみらいに到着し、ピカチュウ待ちの集団に加わる。
数十分待ってついに登場したピカチュウは、子どもたちの声援を受けながらしばらく静かに行進していたかと思ったら、突然クールな音楽に合わせて縦横無尽に踊り始めた。

あまりにもかわいくて、あまりにもシュールで、お父さんお母さんに抱きかかえられた子どもたちが「かわいい~」「ピカチュウ~」とはしゃいでいる声がまたかわいくて、笑いながらちょっと泣いてしまった。ここにも一つの祈りがあると思った。

15分ほどのショーが終わり、満足したので帰途についた。電車の中で、左手の新しい指輪を眺めていた。旅先で買ったアクセサリーは、その日の記憶と共に身につけられる所がいいなと思う。
最高の夏、と言うにはおこがましいが、こういう「まあまあ悪くない夏の一日」を、できれば毎年積み重ねていきたい。

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