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現実逃避のためではなく、現実を見つめなおすためのファンタジー『指輪物語』honyomi record#4

今、トールキンを読む。

指輪物語が素晴らしすぎた。

ファンタジーが昔から好きです。
ファンタジーに限らず、文字の作り出す世界の中に没入している間は、何の障害もなく、楽に呼吸ができる感じ。でも実際は、息をするのも忘れる感じに近いかもしれません。深い海に潜っていく感覚。

活字の世界から抜け出て、改めて現実で呼吸するとき、そのファンタジーを読む前より、読んだ後のほうがちょっと現実がキラキラした場所になっている。それは、小さいころは、あの入道雲の中に竜がいるかもしれない、と思うことだったけれど、大人になった今は、人や物の中に潜んでいる美しさを発見する目がもう一度開くということでした。

そのことを訳者の瀬田貞二さんが、「あとがき」で以下のように説明してくださっていました。

現実世界に潜在する真美に目をひらく

 トールキンによれば、ファンタジーは、現実の世界ではなく、そのうつしであって、その作家は、その造物主の業を習い手伝う立場に立ちます。現実の世界には一般に真美は顕在せず、暗示的で隠れてみえませんが、想像力のある目で見れば偉大で純粋で訴えかける驚異にみちていますから、そういう第一世界から、造物主の錯雑しつつ均衡のとれた生きた度合を破らずに、その象徴として第二世界をつくることがファンタジーとなり、そういう神話的な神秘の密度ある真美をあらわそうとするファンタジーというものは、「エルフの技」だというのです。「馬や犬や羊に目をひらくためには、セントールや竜にであう必要がある」とも端的にトールキンはいっています。

『指輪物語』旅の仲間上  

言葉が作り出す世界 -「手」はこんなに美しい-

 窓のそばを影が通り過ぎたように見えました。ホビットたちはあわてて窓に目をやりました。かれらがふたたびもとに向き直ると、後ろの戸口に、明かりに囲まれて、ゴールドベリが立っていました。かの女は片手に蝋燭を持ち、片手を焔にかざして隙間風を防いでいました。陽の光が白い貝殻を透かすように、その手を通して光が流れました。


児童文学特有のユーモア

一粒の勇気の種子は、たとえ一番でぶの一番臆病なホビットの心の中にさえ隠されていて(たしかに深く埋もれていることが多いのですが)、もうどうにもならない絶体絶命の危険が迫ってくるのを待っているあいだに、その種子が育っていくものです。

児童文学に特有のちょっとしたユーモアも好きです。
ダールの『マチルダ』と『魔女がいっぱい』は小学生の時何度も読みました。小さな物語がいっぱいちりばめてあって、ユーモアも織り交ぜてあって、それを読者がクスクス笑いながら読み進めてるうちに物語世界が脳内に構築されるようにできていました。その土台の上でさらに話の大きな筋が展開していく。だからダールの作る世界には何度でも引き込まれたし、全く退屈しなかった。

言葉が持つ重み・実現性 -トム・ボンバディルの歌-

お前の塚を空にしていけ!
闇よりも暗く埋もれて、忘れられろ。
門も、永遠にとじてあかないぞ、
この世がたちなおる時まで。
 この歌がひびいたとたんに叫び声があがり、部屋の奥の一隅が、すさまじい音とともに崩れ落ちました。ついで悲鳴が一声、長々と尾を引いて、いずことも知れぬ遠くへ消え去っていくと、そのあとはしんと静かになりました。

トムの言葉は「実現」します。言ったことがそのまま現実となるのです。
一方、この巻のクライマックスで、主人公フロドは敵である黒の乗り手に対して、精いっぱい、金切り声で、「帰れ!」と叫びますが、旅を始めたばかりの彼の言葉にはボンバディルの威力はありません。

言葉の持つ力というのは、やっぱり未だにすごく大きくて、それなのにすごく粗末に扱われますね。こういう一文を読むと、言葉を大事に扱いたいと思います。

そして、その言葉を「誰が言うか」がものすごく大事で、言葉を「実現」できる人は力を持っている。その力はその人の経験に裏付けられるものだと思います。タフに、現実を少しづつ変える経験を積んできた人の言葉ってやっぱり重みがありますよね。トム=自らの手と頭を働かせて現実に働きかけてきた人、だと私は読みました。

この世界を少しでもよいところにするために、私は私の手と頭をどういうふうに使えばいいんだろう、と、思います。

あんまり大それたことはできないような気がするから、掃除をしたり、料理をしたり、針を使ったりして、まずは家の中をよいとろころにしたい。特に掃除。家が汚すぎる。
トムのように言葉に重みがあれば子どもも片付けてくれるのかな。とっとと積み木を、片付けろ!とか言って歌えば。
というたわごとを並べて全く片付ける気がない自分を自覚してます。だから言葉に重みがないんだ!

われながらなんやねんって感じの文章になりましたが、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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