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「7日間映画チャレンジ」五日目 『マックス,モン・アムール』

チンパンジーを不倫相手にしたパリの外交官夫人とその家族の物語。突拍子もない話なんだけれど、それを透明かつ濃密なホームドラマに仕立てたのが、大島渚。

透明というのは、外交官のアンソニー・ヒギンズののっぺりした美貌とラウール・クタールの撮影。前者の何があろうと動かない表情の平坦さは、人間のある種の鈍感さが家族を追い詰め、なおかつ家族を救うんだってことを伝えて来ます。後者は、ゴダール、トリュフォーの映画を支えたカメラマンが、ここでは滑らかな光と色のアパルトマンの空間を、しかもロングで捉える古典的構図(大島自ら「松竹大船調」と表現してます)。異常な話をここまで滑らかに、平穏に描く映画があるんですね。あの大島の映画がこんなところまで来ちゃったんだって、そりゃ感動しないわけにはいきません。

濃密はもちろん、ヒロインのシャーロット・ランプリングと愛人のチンパンジー。類人猿マックスと同衾する姿を目撃されたランプリングが夫を見つめ返す、その静かで凛とした眼差しには心打たれます。どんな種類の愛だって、こんなに当たり前な確信に貫かれてなきゃならない。新たな形の異種婚姻譚。そういう意味で、この映画は大島の前作『戦場のメリークリスマス』の姉妹編と言っていい。坂本龍一とデヴィッド・ボウイ、ビートたけしの間に通い合ったものが、こんな形で受け継がれ、かつ展開するのが大島の世界なんですね。

これを子どもや家政婦を含めた家族の物語として描いているのも、さすが大島。異質なものが入り込んでくる事件を、家族がどう受け止めるのか。それを問いかけで終わらせるのでなく、現代の家に対するエールの投げかけにまでなっている。ラストのパリへの「凱旋」シーンを20年ぶりに見て、思わず涙が溢れました。

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