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2018年の映画、マイベスト26

昨年、映画館や試写会場、映画祭で見た映画は230本でした。自分なりの評価基準により設定した10項目で採点した上での順位です。同じ順位なのは、得点が同じだということです。

23位 『愛しのアイリーン』 𠮷田恵輔監督 《不器用な人間たちの予測不能な振る舞いから目が離せなくなる。原初の欲望が火山の噴火みたいに世界を破壊しつつ、神話的なカタルシスに辿り着く。木野花が、狂気から聖性にまで一気に突き進む凄まじい存在として、映画に屹立している。》

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23位 『パリ、18区、夜。』 クレール・ドゥニ監督 《親殺しの街としてのパリを、カテリーナ・ゴルベワの野生動物みたいな目が見つめる。ベルリンを天使の逍遥する空間に仕立てたヴェンダース組のスタッフが、パリを悲嘆の民の彷徨う夜の街に造形する。》

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23位 『港町』 想田和弘監督 《港の街に生きる人々の手つきと足どりが雄弁だ。身体は目的のために動く機能を備えるのみでなく、人の生きざまや思いを伝えてくるための表情を備えている。それを繊細で粘り強いカメラが捉えている。》

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23位 『山中傳奇』 キン・フー監督 《最初の25分で何も起こらないと思う人は、この映画の門から先に入ることは出来ない。アクションの彼方には何があるのか。武侠アクションの巨匠キン・フーがそれを探して、アクションの秘境に分け入っていくのだ。》

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18位 『ジャネット、ジャンヌダルクの幼年期』 ブリュノ・デュモン監督 《昨今の世界的ミュージカルブームの渦中にあって、観客に容易に呑みこまれるのを拒む異形の宗教ミュージカル。これでデュクフレ?という脱臼ものの緩いダンスに感動。》

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18位 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』 ショーン・ベイカー監督 《四六時中、ドアがノックされ、ドラマが始まる。ドアが開いて何かが始まるというコメディが、社会の底辺の人々を輝かせる。ウィレム・デフォーが良い人やると、こんなにチャーミングなのかとびっくりする。》

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18位 『万引き家族』 是枝裕和監督 《冬から夏へと一つの家族が形成され、さらに次の冬に向けてその家族が崩壊して行く。四季の移り変わりを生きることで、この家族とも呼べないつかの間の家族の暮らしの確かな手ごたえを、観客は受け取ることになる。》

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18位 『轢き殺された羊』 ペマツェテン監督 《チベットの草原や街、食堂に、詩のような夢のような復讐劇の舞台が出現する。マカロニウエスタンの即物性に象徴性が加わった演出が、楽しい。人物たちの視線の意味を測る楽しさに満ちた映画。》

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18位 『つかのまの愛人』 フィリップ・ガレル監督 《音楽を作曲するように恋愛映画を作るのが、トリュフォーとガレル。ときめきと哀しみに満ちた主題が錯綜し変奏されていく。三人の主人公=三重奏の各パートが精緻に絡み合う室内楽の名曲だ。》

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13位 『斬、』 塚本晋也監督 《殺意とは愛の謂いであると思わされるのは、斬り合いの切迫感と興奮に魅せられ捉われていく人間が、執拗に美しく描かれるからだろう。山中をどこまでも上へ上へと分け入ってゆく殺陣が、圧巻。》

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13位 『シェイプ・オブ・ウォーター』 ギレルモ・デル・トロ監督 《貴種流離譚を始めとして、様々な説話の母体を構造として持ちながら、米国B級映画のホラーやノワールの枠組みを踏襲し、なおかつ強いラブストーリーとして立っている映画。》

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13位 『東京暮色』 小津安二郎監督 《4Kによるリストアで、画面を覆う凄まじいまでの闇が見えて来る。鉄道にまつわる普通じゃない場面が多い。特に、大崎広小路の高架下から線路を見上げる場面の恐ろしい意味に、後に来る場面で気づいてぞっとさせられる。》

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13位 『パーク』 ダミアン・マニヴェル監督 《昼から夜へと暮れて行く時間の推移の中で、公園の空間がどんどん変容していき、それにつれて、少女の愛と欲望が解き放たれていく。それにつれて、現実の延長に幻想が立ち現れてくる。》

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13位 『わたしたちの家』 清原唯監督 《東京芸大から生まれた映画のスクールから、また珠玉のような才能が誕生した。この海の波の猛々しさを見よ。丈の高い草を分け入る丘のひそやかさを見よ。ライトモティーフのように鳴り続けるバッハを聞け。》

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12位 『四月の永い夢』 中川龍太郎監督 《主人公たちの細やかさ注意深さが躊躇いがちな仕草になって、ものや人と触れ合う。そのタッチの繊細さに、見ている者も感染する。親密な空間としての国立の街から富山の人や自然への移動が鮮烈だ。》

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9位 『パンとバスと2度目のハツコイ』 今泉力哉監督 《「片思いだから好き」という科白が象徴しているように、孤独の側から恋愛を眺める視点が、今泉監督の映画。孤独がひっそりと佇んでいるようなコインランドリーの場面が、寂しくも美しい。》

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9位 『ファントム・スレッド』 ポール・トーマス・アンダーソン監督 《自らのショーが行われているランウェイを鍵穴から覗き見る主人公に、この映画の世界観が集約されている。限られた視野からしか世界を見ない断固たるデザイナーの生き様の幸福と不幸に、魅入られる。》

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9位 『アイカ』 セルゲイ・ドボルツェボイ監督 《産褥に横たわるヒロインの呆気に取られる行動を追うファーストシーンから、彼女の生活のあまりの過酷さに、見ている側もへとへとになる。行動する顔だけを追うアップの映像の凄まじさ。ラストの涙には心を持っていかれる。》

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7位 『犬ケ島』 ウェス・アンダーソン監督 《正面を向いた顔が横を向く。それだけのアクションが伝えてくることの豊かさは名人芸。上・下、左・右、手前・奥と、視野を駆使する撮影テクニックの宝庫。日本の絵巻物の視線の導入技術まで取り入れられている。》

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7位 『ザ・スクエア 思いやりの聖域』 リューベン・オストルンド監督 《「自分でもどう反応していいか分からないシーンを作るのが好きです」という監督の言葉どおり、身の置き所のない居心地の悪さが、ある種快感。私たちが閉じ込められている文化という四角い枠に気づかされる。》

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5位 『寝ても覚めても』 濱口竜介監督 《玄関とか非常階段とか、単なる通過点となる空間で劇的な出来事が起こるのが濱口映画。日常の中にいるという油断が不意に壊される瞬間が、映画なのだ。転ぶ、倒れるといった場面にも、大切な何かがこめられている。》

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5位 『ヘレディタリー/継承』 アリ・アスター監督 《冒頭、死んでいるとは思えないほど生気に溢れる祖母の遺体からして、尋常ならざる恐怖世界が視覚化される。ゴーストハウス、降霊術といったクラシックな道具立てを使いつつ、新たなホラーの幕開けを告げる映画。》

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4位 『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』 ヨルゴス・ランティモス監督 《全ての場面が、肌身に迫る生理的不穏さを湛えつつ、神話的枠組みを象徴的に宿している。N・キッドマンのベッドへの横たわり方、B・コーガンのスパゲティの食べ方、R・キャシディーの歌い方など、生々しさとメタファーとの共存にくらくらする。》

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2位 『女王陛下のお気に入り』  ヨルゴス・ランティモス監督 《キューブリックの『バリー・リンドン』の本歌取りでありながら、女の闘いを生理的・身体的スラップスティック・コメディとして描く快作。紛れもなくフォックス・サーチライトの刻印の刻まれた歴史劇。》

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2位 『ロングデイズ・ジャーニー・イントゥ・ナイト』 ビー・ガン監督 《長回しショットが困難な手法とは言えなくなった今日に、驚愕すべきワンショットの世界が出現した。60分ワンショットを3Dでさらに視野を広げつつの、記憶の胎内巡り。ゲルマン?タルコフスキー?いっそフェリーニか?》

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1位 『悪魔の季節』 ラヴ・ディアス監督 《圧政に虐げられる民衆の声を届けるためのミュージカルという手法。そんな単純でオーセンティックな発想が今日でも新たな意味を持ち得る。テイク2を撮らない監督。正にワンシーンワンカットには血脈が通っているのだ。》

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