歌曲研究会・ドイツ歌曲@高声会
2018.9.17(Mon)13:00-17:30
講師:Prof. Uwe Heilmann, ウーヴェ・ハイルマン先生
カテゴリー:勉強会聴講
曲目:
R.Schumann: Dichterliebe, Op.48
- 1. Im wundershönen Monat Mai
- 2. Aus meinen Tränen sprießen
R.Strauss: Du meines Herzens Krönelein, Op.21-2
R.Strauss: Befreit, Op.39-4
J.Brahms: Vier ernste Gesänge, Op.121-1,
- Denn es gehet dem Menshen wie dem Vieh
F.Schubert: Ganymed, Op.19-3
【前提:欧米と日本(アジア)の違い】
・欧米はffの文化、日本はppがある文化。
・海外はパーソナリティをfで計る。
→日本人が主張が強くないことは、パーソナリティが強くない
ととらえられる。でも果たしてそうだろうか?
→日本人の「控えめ」「繊細さ」など は、決して弱いのではなく、
fと同じくらいの武器だ。
・オペラ歌手の地位について。欧米では、オペラ歌手の地位は誰もが到達できるものではない、憧れ。日本では…確立されていないため、一部趣味や、サブ収入のように考えられている地位。
→悲しいことだ。
【レッスン前に】
・コンサートは「音楽のめがね」と「教育のめがね」を使い分けること。
・「足す」じゃなくて、「抜く」発想。(例:飛行機の歴史とか。最初はごちゃごちゃ付いてた=飛ばなかった。だんだん無くしていった=飛んだ。)
・音楽の世界は素晴らしい!ということ。
★R.Schumann: Dichterliebe, Op.48
- 1. Im wundershönen Monat Mai
・緊張を見せるのではなく「音楽をどうするか」「言葉をどう表現するか」「音楽を感じるか」「やりたかったことを見せる」。
・前奏は大事。右手のメロディーと、左手の伴奏に見える16分音符は、別物。一緒にしない。
・前奏が鳴る前から世界観(オーラ)を作る。終わった後も世界に浸っている。
・5小節目:H-D-Fis-Gis-Aは、息を使ってレガートを見せる。
・レガートは筆(筆跡や筆の運びなど)と同じ。(例:広重)
・「息と声はチーム」人間は息で表現する。息は魂。息と芯のミックス具合をいつも考えて。
・ドイツの詩で重要なこと。
(1) 死神はいつも長調で表される。
(2) disript of nature. 大切なものはpersonに!擬人化。自然とか大切なものは人間になる。
(3) 愛のシンボル化。
1. バラ(視覚的シンボル)
2. ナイチンゲール(聴覚的シンボル)
3. 春。5月。(イタリアだと4月。季節でいうと)
→逆に冬は死を表す。
・後奏。終わりから5小節目より。歌を受けて伴奏のエネルギーを出して、ritard.でバラを出して。シューマンの音楽にはいつもピンクのバラが見える。それを表現して。
★R.Schumann: Dichterliebe, Op.48
- 2. Aus meinen Tränen sprießen
・冒頭ダイナミクスが「p」と書いてあるが、気持ちは「(f)」と「(p)」が2小節毎に交互にくる。「(f)」は涙。「(p)」は花。そしてため息。
・2小節目の「16分休符」で次の質感(世界観)を十分に作る。その後も必ず同じように。
・8小節目:ナイチンゲール(=愛)のコーラス。
・11小節目:足元に花が広がるよ。
・「音楽をするとき、どういう映像を見るか、見ているか」それを見せる。
・音が全て無くなったあとの余韻はとても大事。
★R.Strauss: Du meines Herzens Krönelein, Op.21-2
・ppと甘さは友達。
・この色が一色より、たくさんの種類があるといいね。
・Duはあなた。Goldeは金色、そしてため息。
・5-6小節目は前へ進む、進んだ先の7-8小節目には甘さが必要。8小節目にため息(Ges-B-As-Ges)。以下、同じように。
・15小節目:Glück=「『天国』の鈴ちゃん」に優しく触れるように。
・後ろから13小節目:B-Es-Des-B-Gesはレガート。
・後ろから11小節目:間奏で魔法が起こるように。
・後ろから10小節目:深い森の中。
・後ろから9小節目:動きが増える。
・後ろから7小節目:As-B-Gesはレガート。つづけて波のように押し寄せるGes-Des-B-Ges×2。
・後ろから3小節目:エネルギーFullの状態からmezza voceへグラデーション。その柔らかさを引き継いでピアノの後奏へ。遅くしない。なぜなら「純真さ」を表しているから。
・ピアノの左手に「Ich liebe dich」が当てはまりそう!
・いつも感動する。感動は子供のような心。(例:純真さ、単純さなど。)
★R.Strauss: Befreit, Op.39-4
・本当は女性の歌なんじゃないか?
・「どうやって(聴いている人の)心に入る?」かが課題。心に入っていくためには、声に紫色とか、丸さが必要ではないか?自分でも考えて。「どうやったら心に入っていけるか?」
・よく「しゃべる声で歌う」or「しゃべる声で歌わない」とどちらも言われる。でも私たちはこれに答えを出していない。話さないようにしているように見える。
・歌曲は演技のステージを自分で作る。
・そのステージで誰をまとって、パフォーマンスするのか?が問われる。
・9小節目:前へ進むエネルギー。
・11小節目:パパはお家を作った。ママは子供を産んだ。ドイツで「お家」はとても大事。
・19小節目:「60年間、この2人はナイスチームだったね!」という意味のGlück。
・22小節目:この曲の設定は90才になった夫婦。奥さんがまもなく死ぬ。だから、手を繋ぐことですら若い頃に繋ぐこととは意味が違う。でも、今は「昔のように」手を繋いで欲しいという願い。それを想像しよう。
・24小節目:「今度のツアーは一緒に行けないよ」だから、29小節目「あなたは子供の側に」
★F.Schubert: Ganymed, Op.19-3
・ガニュメデスは美しさ、自然の神様。
・ゲーテの詩に性的な意味はない。
・前奏ではピアノのペダルを使い過ぎないこと。
・13小節目:duは朝焼けのこと。春は恋人のこと。
・16-17小節目:D-Fis-G、C-E-Fはレガートで息を見せて。
・最後の方:Vaterは神様のこと。
【思ったことまとめ】
・ハイルマン先生は、作曲家が作曲した時に思ったプロセスを、演奏でやろうとしてるように感じた。例えば、休符の瞬間に空気を変えるとか。もし同じようなメロディーが割り当てられていても、詩が対比していたら、空気は変わるはず。
・オペラと歌曲の違い。なんだろう?「歌曲はオペラのように(開けっ広げに?)しない」「歌曲は内的な小宇宙を表現するんだ!」というようなことを聞いたことがあるけれど、ハイルマン先生は全然違った。そんなちっちゃなことを言ってなかった。先生がレッスンの合間に歌って見せてくれる世界は、自分が考えているものよりずっとずっと大きかった。そしてその世界に一気に引き込まれる。楽しいと思った。先生はレッスン11日目で声もつやつやではないにしても、その世界観は大きくて美しくて、信じてて、本当に映像が見えるよう。自分はそこまでやっているか、とても問われた。
・日本の声楽界をこんなにも考えている先生に出会えて、私は自分自身をとても問われた。日々の生活のためのお金じゃなくて、音楽に対する姿勢、真摯な態度、情熱、作曲家への尊敬、音楽への愛、教育への熱心さ、日本の状況の憂い…先生の想いをどう受け止めたらよいか、受け止めてどう出せるかを問われていると思った。
・「愛」というものをどう表現するか、「神様」というものをどう表現するか、西洋のものを歌う時の西洋の人がどのようにとらえているかを知る必要があるな、と思った。