ものづくりへの「見果てぬ夢」を求めて

    去る8月3日、武蔵野美術大学大学院造形構想研究科修士2年の授業「クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ」のゲスト講師として、secca inc代表 上町達也さんをお迎えした。金沢美術工芸大学卒業後、カメラメーカーのデザイン部を経て、柳井友一さん・宮田人司さんと共にアーティスト集団「secca inc(株式会社雪花)」を設立。先端3Dデジタル技術を基盤に、伝統技術を掛け合わせた独自のものづくりを展開されている。

http://secca.co.jp/

    講義では、チームの理念や体制についてご説明頂いた後、取り組まれた活動をご紹介くださった。seccaでは「価値をつくること」「体験を進化させること」を大事にし、人の心を動かす体験を通じて「ものの価値」を届けることを生業(なりわい)としている。だからデザイン事務所ではなく、自分たちで「ものをつくる」メーカーであることにこだわり、ものづくりの伝統が根付く土地・金沢に拠点を置いている。

 プロジェクトを行う上でキーワードとなっているのが「と」。自分たちだけに閉じるのではなく、様々な領域のクリエーターと協業することを積極的に行っている。そのスタンスは、seccaの最大の特長にも通じている。伝統工芸技術「と」最先端技術の掛け合わせだ。 

 漆の価値を再定義した「japan」プロジェクトでは、3Dプリンターでの再現を試み、焼き物で造ったシャンデリアを通じて、コスト競争化し職人が疲弊する焼き物市場への問題提起を行った。金沢のホテルのエントランスにオブジェを制作したプロジェクト「雨庵(UAN)」では、雨の多い金沢の降雨量データをマッピングし色分けし美しい造形に。別の金沢のホテルでのプロジェクトでは、3Dプリンターを使いアルミアルムナイで「水引(みずひき)」のオブジェを製作。

「Landscape ware」というプロジェクトでは、料理人の表現の新たな可能性を引き出すことを目的に、斬新な器をクリエイトし、作曲家・川井憲次さんと共に「国の匂いのしない」楽器を生み出した。

 多彩で一貫性が無いかのようなseccaの活動。だが、そこには、ジャンルは異なってもクリエーター(つくり手)やプロフェショナルに対する「敬意」を感じる。ホームページにはこんな言葉が紹介されている。

 その昔、美術や音楽、工芸などの文化はクライアントとクリエイターの信頼関係のもと、共同で生み出されてきた。私たちも同じく、クライアントの「ために」ではなく、クライアントと様々なプロフェッショナルと一緒に創作を行い、今までになく、そして本当に価値のあるものを生み出したい。

 その思いの原点となった体験を、講義の最後に上町さんは紹介された。キャリアの出発点となったカメラメーカーでグッドデザイン賞を受賞した商品の開発にデザイナーとして参画。だが、マーケティング部門から、1年後の化粧替えの依頼を受ける。それはまだ商品が発売される前だった。ものづくりで高度成長を遂げて来た日本からいつしか失われてしまった、ものづくりへの敬意。その時の怒りがseccaの徹底的に研ぎ澄まされた「ものづくり」の原動力になっているのだろう。そして、講義の締めくくりでこう仰った。

「価値観を変えないと日本に良いものを残せない」

 seccaのメソッドの方程式は「Technology×Experience×Sensitivity」。Sensitivityは「感度、感受性、感性あるいは情感」という多義的な意味を持つ。日本で最も、ものづくりや文化への
Sensitivityに優れた金沢に拠点を構え、発信し続けるseccaと上町さんは、まるで失われつつある日本のものづくりへの価値観に挑戦するドン・キホーテのようだ、と感じた。


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