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20年ぶりのモンドリアンとの再会

 20年前、私は大きな競合プレゼンテーションの連続にいささか疲れ、強引に夏休みをとった。とにかく日本から離れたところに行きたい。その一心でニューヨークへ向かい、1週間美術館めぐりをした。最初に訪れたのはMOMA(ニューヨーク近代美術館)。そこで最も印象に残ったのは「ブロードウェイ・ブギウギ」という作品だった。カラフルな色の直線だけでブロードウェイの活気を見事に再現し、楽し気な旋律が流れる楽譜にも見えた。その作品を描いたのがモンドリアンだった。

 緊急事態宣言が始まる前日、新装なった新宿のSOMPO美術館で「モンドリアン展-純粋な絵画を求めて」を鑑賞した。ピート・モンドリアン(1872-1944)は、その幾何学的な造形で知られるオランダ出身の画家。本展覧会はその生誕150周年を記念して開催され、初期の風景画から晩年の作品までの計70点が展示されている。

 テーマは、なぜ風景画から出発した作家が直線と面だけの幾何学的な画風に至ったか。一見、大胆な飛躍に見える。また、その時々で印象派、キュビズムといった流行の画風の影響が見られ、脈絡のない歩みのような印象を受ける。が、そこには一貫した「法則」への興味がうかがえる。初期の作品から、風景の美しさよりも自然の「造形」に関心が向けられているのがわかる。

 そんなモンドリアンの画風の変化の理由を知るカギは、当時の時代背景にある。18世紀に発生した産業革命によって技術は飛躍的な進歩を遂げ、社会に大きな価値観の変化が生まれた。特に絵画に大きな影響を与えたのが、19世紀に発明され20世紀初頭には市場に流通した写真や映画という新たな技術だった。事物を再現する唯一の手段だった絵画が、新しい表現手段に対抗して何ができるか。そんな問題意識から生まれたのが「本質」を探究することを目的とする抽象絵画という手法・・・というのは、既に美術の教科書で語られ尽くしているが。本展の作品の中にも、写真技術を意識し、人間の網膜に映る像を科学的に分析し再現しようとした意図を感じさせる作品もあった。

  本展覧会は、モンドリアンという一人の画家の歩みに焦点を当てることで、20世紀初頭の画家たちが本質を探究しようとした格闘の軌跡を浮かび上がらせている。例えば、当時のヨーロッパで流行した神智学への傾倒。聖典や啓示の解釈を通じて神や世界の秘密を探ろうとする神秘主義的な思想で、世界を構成する原理として幾何学にヒントを求めた。モンドリアンは、この神智学協会への参加を通じて、宇宙の調和を表現するためには完全に抽象的な芸術が必要だとする「新造形主義」を提唱、「コンポジション」という作風に至った。彼の代名詞となる白と黒の線、赤・青・黄色の面だけで構成された作品群だ。しかし、ヨーロッパ全体が戦場になると共に、ニューヨークに移住、4年後に亡くなった。

 本展に出展されていないのが残念だが「ブロードウェイ・ブギウギ」はヨーロッパ時代のシンプルでクールな作風とは一変して、3つの色がキャンバス全体を駆け巡っている。ニューヨークという芸術の新天地で新たな境地に至った高揚感が素直に伝わり、微笑ましい。もっと長く生きていれば、作風はどのように変化して行ったのだろう。その生涯に思いをはせた。

 さて、この写真はモンドリアンの作品ではない。我が家があるマンションのロビーにある装飾だ。本展を見た後に、それがモンドリアン風だということに気が付いた自分の迂闊(うかつ)さに苦笑するしかなかった。

#アート #モンドリアン  


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