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私が観た「国宝 鳥獣戯画のすべて」展

 東京国立博物館で開催中の「国宝 鳥獣戯画のすべて」を鑑賞した。平安時代から鎌倉時代にかけて描かれた本作品は、長く親しまれて来たが本展覧会では初となるいくつかの試みがされている。まず、これまでは最も有名だった甲巻が幾度か公開されて来たが、今回は甲乙丙丁4巻すべてが一挙公開されたこと。第2に、諸事情によって4巻から分かれた「断簡」と言われる作品群や失われた場面が摸写された作品も公開され、ほぼ完全に全貌が再現されたこと。第3に、本作品が所蔵されている高山寺を再興した明恵上人に焦点を当てたことだ。

 また、本展覧会にかける国立博物館の気合を、そこここに感じる。メインとなる甲巻原本の紹介コーナーには、ディスタンスを取りながら一人ひとりがゆったりと鑑賞できるように「動く歩道」が導入されている。図録も全作品が詳細に掲載され解説も豊富で見ごたえ十分な内容となっている。

 こうして、全貌が我々の前に初めて姿を現した鳥獣戯画。そこで描かれているのは鳥獣だけではなく、当時の庶民の姿だ。いくつかの場面では動物と人間がそっくり同じ動作をしている。つまり、動物も人間も表裏一体。時に愚かで滑稽な「生きとし生けるもの」への愛おしさを感じる。だから、現代の我々が見ても、己の姿と重ね合わせてしまい「クスっと」笑ってしまうのだろう。

 この作品が描かれた12世紀から13世紀は、平家の栄華・滅亡を経て源氏に至る動乱の時代で、真摯に帰依すれば極楽に行くことができるという浄土思想が浸透し多くの神社仏閣が創建され、仏像や仏画が奉納された。だが、鳥獣戯画はそれらとは一線を画する。4巻のタッチや描き方はそれぞれ異なり、別々の作者によるものだということが明らかにされているが、そこから受ける「クスっと」笑ってしまう魂(スピリッツ)のようなものは共通している。そして4巻とともに紹介された摸写は、それぞれオリジナルに匹敵する出来なのだが、受ける印象は微妙に異なる。一言でいえば、軽やかさが足りないのだ。

 鳥獣戯画に通底するものは何か。そのヒントは、本展覧会でクローズアップされた明恵上人にあるようだ。民衆に寄り添い動植物を愛したと言われ、会場出口そばに置かれて来場客をお見送りする愛らしい木彫りの犬は、上人が可愛がっていたペットだったそうだ。そこには、権威に奉仕する仏教や仏教美術とは異なり、民衆に寄り添う在り方が高山寺に受け継がれて来たことを示す。慈愛に満ちた仏様の視点で、人びとの姿を鳥獣の姿を借りて活写した鳥獣戯画が時代を超えて人びとの支持を集めて来た理由や、長く愛されるアートの秘密を垣間見たような本展覧会だった。

#アート #美術館 #キュレーション
 
 

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