蜘蛛の男、蜥蜴の娘

乾いた荒野に、二条の鉄軌が伸びる。
その上を疾駆する機関車が煙をたなびかせ、青空に横線を引く。
客席を挟んで、銃声が応酬する。
一方は黒衣の拳銃使い、他方はならず者集団だ。

「三号車に近付けさせるな!」

ならず者たちの後方から、大兵肥満の無頼漢が檄を飛ばす。
さらに言葉を続けようとして、頭が爆ぜた。
俯せに倒れ、床に血の薔薇が咲いた。

撃ち抜いたのは、黒衣の男の銃弾だ。
眼光鋭い灰色の瞳、表情は鉄。
右手の拳銃は、銃把に蜘蛛の巣のエングレービングが際立つ。

「今だ、撃て!」

仲間が撃たれた刹那こそ好機。
飛び出した黒い影に、ならず者たちは一斉に銃弾を浴びせる。
銃弾に跳ね踊る影――それは、男が脱ぎ捨てた外套だ。
男は、身を沈め瞬歩、ならず者たちとの間を詰めた。
腰に提げた散弾銃を抜き撃ちで二射。阿鼻叫喚。まだ動く相手に拳銃三射。
一瞬で制圧完了。遮蔽を蹴倒し、ならず者を下敷きに。
一気に、奥の客車――三号車に駆け込んだ。

「誰も助けに来てなんて頼んでないのだけれど?」

三号車には男と少女のふたり。
案内上は貨物車両だが、「積まれて」いたのは、一人の少女だ。
褐色の肌、鴉羽根めいた長髪と、黒曜の瞳。
男は彼女を一瞥し、空の弾倉に弾籠めする。

「俺も頼まれて来たわけじゃない」

黒衣の男は、拳銃に視線を落としたまま答える。
少女と男、しばし無言。

「逃がすな! 男ごと殺せ! 小娘は殺しても死なん!

後方、四号車の方から怒声。

「……足枷か」

少女の足首には錠と鉄環、鉄鎖と鉄球がある。
このままでは自由に歩くこともままならない。
男は、四号車の方を見やり――

少女に散弾銃の銃口を向けて、引金を弾いた。

「あなたって、本当にスマートじゃないわ!」
「そいつは俺の故郷じゃ習わん言葉だ」

馬上の男に抱えられる少女。その足首から先は真新しく、僅かに白い。
吹き飛ばされた足首は、鉄枷と共に列車の中だ。
黒衣の男と不死者の少女は、荒野を逃げていた。

【続く】

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