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【映画】Netflix新作「ハーフ・オブ・イット」における愛と孤独

主役はチアリーダーではない、イケイケなアメフトQBではない、悪役はいない、セックスの話も上がらない。これらだけでも型破りしたアメリカ学園モノとして称賛すべきだ。。なかなか探しても出てこないのでは?

そして本作は単なる青春学園ジャンルとして線引いてしまうには勿体ないほど古典のオマージュ、LGBTQ、言語の壁、愛、孤独…実に様々な見方ができる映画である。

福永武彦さんの『愛の試み』をちょうど読んでいることもあり、愛と孤独について考えた。

福永武彦:「人は生まれながらに彼に固有の世界を持っている。その世界は謂わば孤独というのと同意義なのだが、この世界を孤独の状態から外に迸り出させるもの、この世界をより豊かならしめる動機、それが愛である。」

孤独を意識する時に、人は必然的に愛を求め、愛によって孤独の渇きを潤そうとする。しかし、人は愛があってもなお孤独であるし、愛がある故に一層孤独なこともある。

主人公Ellie Chuが抱える孤独は冒頭の独白”Life is rational, and meaningless."から薄々と観客に伝わる:白人だらけの田舎町Squahamishの中国系移民、父親と二人暮らし、町で唯一の非キリスト教信者、貧乏、インテリジェント、周りの高校生のエッセイを代筆して家の足しにする、ボロチャリに乗って「ChuChu」とイケイケの男子に馬鹿にされる、まるで味方はいなく心を閉ざしている女の子。

一方で人気者のAster Floresは常に友達に囲まれていた。美人で社交的、彼氏はお金持ち。

そんなAsterに惚れた男の子Paulは、Aster宛のラブレターをEllieに代筆を頼む。愛にこだわりを持つEllieはもちろん断る。そんなのは自分で書かないと意味がないと。その後ひょんなことで、廊下でEllieはAsterと初めて話すことになり、お互いKazuo IshiguroのThe Remains of The Dayを読んでいたことを知る。断るつもりだったAsterはラブレターの代筆を引き受けてしまう。そしてただの一通の手紙だったはずの、テキストメッセージのやり取りへ発展し、やがてEllieはAsterの孤独に触れる。

福永武彦:「二つの異なった孤独と孤独とが接触する時に、海の上に蜃気楼のように、砂漠の中のオアシスのように、忽然と愛が生まれてくる。」

孤独に性別はない。必然的にEllieはAsterに惹かれていく…LGBTQを意識する隙間も与えられない自然な流れだった。

この映画作りも細かい。ヒッチコック並の細かさ。数字の含意、サウンド効果、小道具…なんと言っても、過去の名作を色々な形で引用している点。

例えば、Paulがラブレターを依頼したその日の夜、Ellieと父親が観た映画はCasablanca、"Louis, I think this is the beginning of a beautiful friendship."の名セリフはEllieとPaulの友情の始まりを象徴するかのようだった。

他にもWings of Desireの"Longing. Longing for a wave of love that would stir in me. That's what makes me clumsy. The absence of pleasure. Desire for love. Desire to love."

A Star is Bornの"You're like some marvelous, distant, well, queen, I guess. You're so cool and fine and always so much your own. There's a kind of beautiful purity about you, Tracy, like a statue."

The Philadelphia Story, The Picture of Dorian Gray...

オリジナルのセリフも負けていない。個人的に好きなセリフは以下のようなものがある。

Love is messy, but be bold. Love comes from the effort we put in, not the perfect half we hope to find. It’s not finding your perfect half, it’s trying and… reaching and failing. 
Love is being willing to ruin your good painting. For the chance at a great one. 
"The good thing about being different, is that no one expects you being like them." "Hasn't everyone think they are different? But, pretty much are all different at the same way."

監督のAlice Wuさんは自身がLGBTQであることを公開している。Computer Science畑出身でMicrosoftに勤務されたのちscreen writerになられた経験もユニーク。

三回泣いた。号泣。

深い。


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