the Flame Reflection

 2042年10月31日、六畳一間の安アパートの一室にて。

 片隅に設置されたWiFiルーターが熱波を発し、型落ちタブレットの画面が炎を噴き上げた。飛び出た火の塊が一つ空中に蟠ると、徐々に形を変えていく。それはやがて人の形をとり、目と口を開いた。

「こ、れ、は……」

「な、なんなんだこいつ……」

 部屋の主であるヤスシは腰を抜かしてへたり込んだ。熱い。そしてわけがわからない。

「正義、だ。人々、から、託された、悪への怒り、だ」

「なんだ、何なんだお前! 俺が悪って言いたいのか!?」

 人型の炎は次第に形を安定させ、炎が揺らめくボディスーツと黒煙めいたケープ姿の、よりソリッドな存在となった。そして深呼吸してから流暢に言葉を発した。

「その通りだ。心当たりはあるだろう」

 確かにヤスシには心当たりがあった。ここ最近彼は世論から犯罪者の如く吊し上げられている。まだ彼の素性が世間に流れてはおらず、直接名指しされてはいなかったが。しかし時間の問題だろうと思ってもいた。

……事の発端は同月22日。その日、都内X区にて未成年女子二名の遺体発見された。予め述べておくと、この事件にヤスシは一切関与していない。被害者との接点も無い。だが世間は事件とヤスシを関連付けている。

 遺体に外傷は少なく、倒れた際の打撲の他、首筋に異様な火傷が一つ。検死の結果、スタンガン等による電気ショックがその部分に埋め込まれた電脳デバイスを破壊、神経系への重篤な損傷に繋がり死に至ったことがわかった。

 この時代、未成年であっても電脳化は珍しい事では無い。必要性による場合は勿論、便利さだけを理由に気軽に手術を受ける事もある。今回の被害者も両名ともカジュアルに電脳化していた。だが、そうした行いや考え方に対する拒否感や嫌悪感も根強く、事件は電脳に対するヘイトクライムと見做されていた。

 そう、ヘイトだ。ヤスシとこの事件の関わりとは。遥か昔の、それも全く無自覚の。

【続く】

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