お姉さまがあなたを見ている

『図書室も無けりゃ本も無い。それで図書委員があるなんて変な話だ』
「うるさいな、何よ図書室って」

 頭の中に、男が住み着いた。名前は臼田澄夫。正体は多分、前世の自分。先日彼の夢を見てから、思い出した様に現れた。実際彼はただの記憶で、幽霊や別人格なんかじゃない。

 けれど私は、世界観のまるで違うその記憶を受け入れられず、自分とは別の存在だと考える事にした。と言っても、要は弾みで浮かぶこの男としての思考を、他人の物と思うだけ。他人なのでたまに話しもする。

「これでも結構忙しいの。蔵書管理とか、推薦図書の確認や告知で」
『蔵書? 何処に』
「サーバー。当然じゃない」
『ああ電子ならあるか、紙の無い時代でも』

 違う、紙はある。衛生用品だ。字や絵を書く為の物じゃない。印刷? 知らない。文章も画像も画面の中だけの物だ。

 最近、そこに違和感を持つ様になった。勿論この男のせい。

 ……男、か。私は人間に“男”が居た事さえ知らなかった。

【続く】

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