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まが鮨


 まが鮨本店はさながら回転寿司のテーマパークだ。曲津駅より徒歩一分、まが鮨本社社屋の六フロアを占める店舗は最上階に最高級寿司が味わえる金、オフィスや立駐を挟んで焼き・炙り・辛味の火、水流レーンを採用した水、ベジタリアンな木、普通の百円寿司である一般、そして地下に虫等ゲテモノの土となっている。

「実は水フロアは金までとはいかんが、ちょいとお高め贅沢指向なんだ」

 そう言う先輩に連れられ、俺達は水フロアに入店した。客入りの割に店内は静かで、心地の良い水音が聞こえてくる。調理場との境には生簀があり、活きた魚をその場で捌いている様だ。なるほどお高めになるわけだ。

「六名様ですね、此方へどうぞ」

 受付た女性店員はビキニ姿で豊満な胸を揺らしていた。

「そうそう、今は水着イベント中なんだと」

 回転寿司で必要あるのか?

 テーブル席に案内され、俺はレーン側、先輩の向かいに座った。位置的に俺が注文係だ。上方設置のタッチパネルを操作する腕が辛い。

 俺達は注文品を中心にしつつ、待ち時間や気まぐれに流れの皿を食べる様な、和やかな時間を過ごした。ちなみにこの店の寿司は透明カバーに守られており、鮮度や衛生の心配はない。

 しばらくして白いカバーを乗せた舟が現れた。俺の席はレーンの流れと対向しており、何が来るのかよく見える。

「間モナクゴ注文ノ品ガ参リマス」

 程なく音声アナウンスと画面表示があり、それが先輩の頼んだフカヒレスープなのがわかった。カバーの白は湯気による曇りだ。

「お、待ってました」

 先輩は不透明のカバーを開けた。鮫がいた。

 種類は知らないが獰猛そうな活きた小さな鮫だ。ミスか? その鮫は舟を飛び出し、先輩目掛けて突っ込んだ。

 SPLAAAAT!

 先輩は喉から血飛沫を噴き上げながら倒れた。

「え、何、えっ?」

 混乱する俺達。

 隣の広井が悲鳴を上げた。

 江敷が先輩を跨いで呼出ボタンを連打した。

 レーン上に何か見えた。

 黒くて細い物が立っている。

【続く】

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