
うるしと繕い、暮らしのひとこま / 一月
うるしの修繕は、作業の工程や使い始めるまでの時間を考えると、少し準備期間が必要になります。壊れたら直す、というのは基本ではありますが、自宅で使う物なら、あまり急ぐ必要もないかもしれません。
うるしの修繕を、準備から楽しむ時間として生活に取り入れてみるのはいかがでしょう。
冬はうるしの硬化がゆっくり進む
一月は寒さの底と乾燥で、うるしの硬化がとても遅い季節です。本職の方は風呂または室と呼ばれるうるしの乾燥室にて、年間を通じてコンスタントに仕事を進めらるように、硬化に最適な温度と湿度を24時間管理ができるようになっています。
(以下参考のためお借りしました)
そのため、家庭で漆の作業を行い、講座に途中段階のうつわを持ち寄ると、「乾いていない(硬化が進んでいない)」ことが時々あります。しかし、これを逆手に取ると、寒い季節には漆に含まれる酵素の働きがゆっくりになることや、肌の露出が少ないことから、比較的かぶれにくいという利点もあります。
また、乾燥がゆっくりな分、漆の色の変化が穏やかで、木地を仕立てる際には明るく仕上がることがあります。そのため、拭き漆にチャレンジしてみたい方には、この冬から始めるのが良いかもしれません。
春を待つうつわの支度 塗りのもの
前述のように、漆を塗ってから乾燥させ、さらに使用できるようになるまでには、十分な硬化時間を確保する必要があります。そのため、1月は春先に使ううつわの手入れを始めるのに適した時期です。春といえば、お花見や新学期に合わせてお弁当箱を新調したり、ちらし寿司を拵える季節です。
例えば、曲げわっぱや塗りのお弁当箱に擦れた跡がある場合、今のうちに拭き漆を施しておけば、暖かくなる頃には気分を新たに使い始めることができます。
さらに、白木のお箸を木地から仕立てて、お弁当箱とセットで使うのも良いアイデアかもしれません。お正月に使った重箱の角やつなぎめに傷みがあれば、一緒に補修しておくと剥がれの軽減ができます。

一度サンディングしてから拭き漆
春を待つうつわの支度 磁器小皿の欠け
寒い季節が過ぎ、少しずつ暖かくなってくると、食卓にも軽やかなうつわを使いたくなります。この機会に、皿や小皿を点検し、欠けがあれば補修を始めてみましょう。
磁器は、材料となる土の粒子が細かいため、土物に比べて漆との相性がやや弱い傾向があります。しかし、一回ごとの工程に時間をかけてゆっくり硬化を進めることで、埋めた錆漆がしっかりと硬化し、丈夫な仕上がりになります。
欠けが小さいと、研いだ際にせっかく埋めた錆がポロリと落ちてしまうことがしばし起こるのですが、時間をかけることで解消することができます。
金色で仕上げるか、銀色で仕上げるか、それとも漆塗りで仕上げるか。ゆっくりと作業を進めながら、どの仕上げにするか思いを巡らせるのも楽しいひとときです。
無理に高価な金や銀を使う必要はなく、代用品でも十分楽しむことができます。また、漆塗りで色漆を使う場合、寒い季節の方が発色が比較的鮮やかになるのが特徴です。色漆にはさまざまなバリエーションがあるので、少量ずつ揃えてみるのも良いかもしれません。
冬の作業で困ることの多い硬化の遅さですが、実は利点もあります。それでも少し硬化を早めたい場合は、身近なもので工夫してみるのも良いでしょう。
特に拭き漆は、乾かない間に埃がついてしまうことがあるため、蓋ができる段ボール箱やプラスチックボックスに保管するのがおすすめです。また、趣味用の小型の乾燥室も市販されているので、必要に応じて取り入れるのも良いかもしれません。
今年は
この時期から始めると、ちょうど良いタイミングで進められる流れを、一年を通して書き綴ってみたいと思っています。季節に合わせて、漆の作業を少しずつ進めるのも楽しいものです。
2月は寒い季節だからこそのテーマを考えています。よろしければ、ぜひお付き合いいただけますと嬉しいです。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。