CQで平和の橋を架ける:微力だが無力ではない
「人類が核兵器で自滅することのないように。そして、核兵器も戦争もない世界の人間社会を求めて共に頑張りましょう」
日本被団協(※1)の田中熙巳(たなかてるみ)代表委員は、2024年のノーベル平和賞受賞スピーチをこの言葉で締めくくりました。
被爆二世である私の脳裏には、2024年春に田中さんと交わした対話が焼き付いています。文化の知能指数(CQ)を伝える専門家でもある私は、今回の受賞を機に、「平和文化」を世界に広めるために自分に何ができるかを考える契機となりました。
被団協代表委員の田中熙巳さんとの対話
私が田中さんと最初にお会いしたのは、2017年のICANのノーベル平和賞受賞式関連イベントに参加するため、母と一緒に訪れたノルウェーのオスロでした。訪問団の被爆者たちは皆ご高齢ながらも凛とした姿が印象的で、その中でもひときわ威厳ある田中さんの姿が印象に残っています。
2度目に田中さんとお会いしたのは、国際NGOピースボートの船上でした。92歳の田中さんは第117回航海に「水先案内人(※2)」として乗船されており、船上で何度か親しくお話する機会を得ました。(※3)
私が「被爆二世として何ができますか」と尋ねた際、田中さんは次世代が語り伝えること、そして証言を記録することの大切さを丁寧に教えてくださいました。
普段はお茶目で穏やかな紳士の田中さんですが、世界の状況や政府の対応を語る時には非常に厳しい表情をされます。その表情を思い出したのは、田中さんがノーベル賞の受賞スピーチで以下のような発言をされたときでした。
その表情には、核兵器によって命を奪われた人々の無念さ、そして生涯をかけて核なき世界を訴え続けた人々を代弁する力強さが込められていました。
「微力だが無力ではない」:市民一人ひとりが実践する「平和文化」
1945年に採択されたユネスコ憲章の前文に謳われたこの言葉は、「平和文化」の理念の基盤となっています。
戦争や暴力を容認する「戦争文化」は、いまだに世界各地で続いています。そこから「平和文化」を根付かせるために、私たちは何をすれば良いのでしょうか?
「微力だが無力ではない」
この度、被爆者に同行した高校生平和大使たちは、この言葉をスローガンに掲げていました。個々の小さな行動が集まることで、社会を変える大きな力になる。この言葉は、私たちが「平和文化」を創り出す上で大きなヒントになると思います。
「平和をつくる仕事をつくる」:若手の社会起業家によるリーダーシップ論
先日、私は関西のある大学でビジネスにおけるリーダーシップ講座をサポートさせていただきました。
ゲスト講師は、広島のNPO法人Peace Culture Village(PCV)の専務理事を務める住岡健太さん。「平和をつくる仕事をつくる」をコンセプトに、学校への出前授業や修学旅行生へのガイド、オンラインツアーの企画・運営など、多岐にわたる事業を展開しています。2023年5月に開催されたG7広島サミットでは、パートナーズプログラム「次世代シンポジウム」のモデレーター兼プレゼンターも務めた若手リーダーです。
生徒は欧米など10ヶ国からの留学生。核兵器についての知識や関心がなかった生徒も、被爆三世である住岡さんのライフストーリーや、PCVでのリーダーシップとビジョンに次第に引き込まれていきます。
あなたの「平和×〇〇」は?
ワークショップでは、各自が「自分にとって平和とは何か」「自分が好きなこと、幸せにしたい人」などを内省し、共有しました。その上で、「Peace×〇〇」のテーマで自分なりの平和を創り出すアクションを考え、発表しました。
生徒たちからは、「自然が好きなので、自然ツアーを企画して平和を考える機会を提供したい」「書くことが好きなので、ブログを通して平和のストーリーを伝えていきたい」「文化相対主義を研究しているので、異なる文化の観点を伝えたい」など、多様なアイデアが出ました。
私たちは微力かも知れないけど、無力ではない。
一人ひとりが平和文化を築くために何かできる。
大きな希望を感じた時間でした。
私の「平和×CQ」
「あなたの平和×〇〇は何か?」と尋ねられたら、私は
「CQを使って文化に橋を架けること」
と答えるでしょう。
ユネスコ憲章が唱えるように、戦争が「人の心の中で生まれるもの」であるのなら、異なる価値観によって分断された世界に橋を架けることができるのも、やはり人の心に対する働きかけだと信じます。
微力かもしれないけれど、無力ではない。
被団協の田中さんや住岡さん、そして数えきれない草の根活動に関わる人々は、そのことを体現し、世界に希望を与えてくれます。
あなたの「平和×〇〇」は何でしょう?
ぜひこれを機に考えてみませんか?
CQラボ シニアパートナーフェロー
田代礼子
ヒバクシャ証言が世界に及ぼす影響と平和概念の文化的観点からの分析(Culture Impact Journal掲載 2023年 田代)
https://cultureimpactonline.wordpress.com/2024/11/11/127/
※1 日本原水爆被害者団体協議会
※2 航海中に専門的な知識や経験を共有するゲストスピーカー
※3 ピースボートは2008年より「ヒバクシャ地球一周証言の航海」を行い、被爆者とともに地球を周りながら、「核なき世界」への国際世論を高めている
▶【CQ(異文化適応力)ナレッジ講座 基礎】2024年12月、2025年1月開催。詳細・お申込みはこちらをご覧ください
▶ホフステードの6次元モデルと6つのメンタルイメージについて詳しく知りたい方は、『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』宮森千嘉子/宮林隆吉 著をご覧ください
▶一般社団法人CQラボは、ホフステードCWQの日本オフィシャルパートナーとして、カルチャーに関してトータルな学びを提供しています。CQ®(Cultural Intelligence)とは…「様々な文化的背景の中で、効果的に協働し成果を出す力」のこと。CQは21世紀を生き抜く本質的なスキルです。Googleやスターバックス、コカコーラ、米軍、ハーバード大学、英国のNHS(国民保険サービス)など、世界のトップ企業や政府/教育機関がCQ研修を取り入れ、活用されています。
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