人生100年時代のCQ戦略 ~「無形資産」形成と「るつぼ」の経験~
なぜ高校で留学? 人生100年時代に必要な「無形遺産」
私はライフワークの1つとして、これまで長年にわたり世界的な高校生の交換留学プログラムを支援しています。
その中でよく聞かれる質問の1つに「なぜ高校生なんですか?(1年間の留学は)大学受験に不利なので、大学に入ってからではダメなんですか?」というものがあります。
もちろん高校の3分の1を海外で過ごすことは当然、日本での高校生活や帰国後の大学受験にそれなりの影響はあります。そしてベストな留学のタイミングは本人が何を大切にするかや、一人ひとりのレディネスによって異なるので、1つの答えが皆に当てはまる訳ではありません。
それでも、もし本人が少しでも行きたいと迷っている場合に、私が留学を勧める理由はいくつかあります。(ちなみに、このブログは高校留学を宣伝するためではありません。ご了承を)
文化の異なるホストファミリーの「子ども」としてコミュニティーで過ごすという稀で深い体験
価値観が固定化しきっていない時期であること
若いころの「るつぼ」経験が後の人生の大きな「無形資産」になる
ということです。
リンダ・グラットンは「ライフシフトー100年時代の人生戦略」※1の中で、「世界的な長寿化の波によって、これまでの『教育→仕事→引退』という従来の3段階の生き方から、人々はより多くのステージを経験することになる」と予言しています。
特に2段階目の『仕事』の段階が20年延びることによって大切になってくるのは、目に見えない「無形資産」の形成です。無形資産には様々なものが含まれますが、その中の重要なものに「変身資産」があります。
変身資産とは「人生の途中で変化と新しいステージへの移行を成功させる意志と能力」のこと。テクノロジーや受けた教育の陳腐化をより多く経験する100年ライフに不可欠な要素です。
そして変身資産を築くカギとして注目されているのが「るつぼ」の経験です。
若いころの苦労は買ってでもせよ!? 無形資産のカギとなる「るつぼ」の経験
リーダーシップ論の研究者ウォーレン・ベニス※2らによると、大勢のリーダーに人生を振り返ってもらったところ、共通した要素として「まったく異なる価値観に触れて、自らの価値観を問い直した経験」、つまり「るつぼ」の経験があったと言います。
そしてこの経験には「違い」に対して単に本などを通して知るだけでなく、実際に人々と顔を合わせて理屈抜きの感情レベルの交流が必要です。
6年前に交換留学生としてカナダで過ごした娘の話を少しさせてください。
娘のカナダ生活は100%順風満帆とは言えませんでした。
コミュニケーションをめぐる最初のホストファミリーとの葛藤と別れ、クラスメイトの1人からのマイクロアグレッション(悪気のない些細な人種差別的な発言)など、大きく感情を揺さぶるようなチャレンジを多く経験しました。
どれも日本にいれば一生経験しなかった事かも知れません。それでも彼女は留学したことを1ミリも後悔することはないと感じています。それどころか人生の大きな糧であると。
同じ様な発言は、1年留学する予定だったのに、結局コロナ禍による入国制限によって1週間そこらで帰国せざるを得なかった留学生たちからも多く聞きました。
こういった「違い」や偶然から来る逆境を乗り越える「るつぼ」の経験を若いころに経験した彼らが今後どの様な「無形資産」を蓄積していくのかを見るのが楽しみです。
CQから見た「変身資産」の形成
私たちCQラボでは、CQ(文化的知性)を活かして、私たち一人ひとりがより良い生き方ができる社会を目指しています。世界で長寿化の最先端を走る日本では、「良い生き方」の過去のロールモデルが役に立たない時代に入り、「変身資産」の形成がますます重要になっています。
人生100年時代へのCQのアプローチは、
新しい時代に向かって変化していくための強い動機を持ち(CQドライブ)
自分や自分の国の文化や社会について強みや課題を正しく認識し(CQナレッジ)
それらを活かして効果的な戦略を立てて実行すること(CQストラテジーとアクション)
CQ戦略を立てる上で重要なポイントとして、「変身資産」の形成を妨げる日本社会の文化的な特色を理解することです。例えば、
起業や機会を認知するスキルが低くリスクを避けがちなこと、
同調圧力などに代表される目に見えにくいコミュニケーションの障壁、
違いを怖れ同化により達成を遂げようとする傾向などです。
(これらはすべてCQナレッジの一部であるホフステードの6次元モデルを使って理解することが出来ます)
特色・違いは良い悪いでなく、違うだけ
皆が自文化の特徴を正しく認識して、自分なりの形で「変身資産」を築き、幸せな人生100年時代を築ける社会になる様にお手伝いできることを私たちは心から願っています。
その中で、高校生の交換留学は「るつぼ」経験の具体例として私たちに大きなヒントを提供してくれると思います。
さあ、あなたは今からどんな「変身資産」を築きますか?
CQラボ フェロー
田代礼子
※1 リンダ・グラットン等「ライフシフトー100年時代の人生戦略」東洋経済新報社
※2 Bennis,W. and Thomas,R.”Crucibles of Leadership”, Harvard Business Review
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▶ホフステードの6次元モデルと6つのメンタルイメージについて詳しく知りたい方は、『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』宮森千嘉子/宮林隆吉 著をご覧ください
▶一般社団法人CQラボは、ホフステードCWQの日本オフィシャルパートナーとして、カルチャーに関してトータルな学びを提供しています。CQ®(Cultural Intelligence)とは…「様々な文化的背景の中で、効果的に協働し成果を出す力」のこと。CQは21世紀を生き抜く本質的なスキルです。Googleやスターバックス、コカコーラ、米軍、ハーバード大学、英国のNHS(国民保険サービス)など、世界のトップ企業や政府/教育機関がCQ研修を取り入れ、活用されています。
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