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「CQをポケットに地球一周の船旅」第6回: 世界一周後に見えた日本(いったん最終回)

さて早いもので「CQをポケットに地球一周の船旅」シリーズも第6回目になりました。

シリーズ第1回~5回では、ピースボート第117回クルーズ(2024年4月から105日間)で世界18か国を巡った際に出会った、ユニークな人々や船内自主企画についてCQ(異文化適応力)理論で分析しながらご紹介してきました。

第6回目の今回は「いったん最終回」と銘打ち、クルーズ帰国後に感じた強烈な「逆カルチャーショック」について書きたいと思います。(なお旅を通して知った文化や社会課題などについては、今後番外編としてぼちぼち書いていきます)


帰国後の「逆カルチャーショック」

船旅では各寄港地での平均滞在時間は7~12時間に限定されます。それでも五感を通して感じた各地の印象は、ちょっとしたエピソードとともに強く心に残り続けます。

アイスランドの荒涼とした大地溝帯で吸った澄み切った空気、
メキシコの港町の鮮やかな建物や果物の色彩、
アラスカ氷河の雷を思わせる凄まじい崩落の音と痛みを伴う寒さ、
コスタリカのまとわりつくような湿気とジャングルの濃い緑、
そして各地の人々の異なるふるまいや表情など…。

そして戻ってきた日本は、まるで新しい「眼鏡」をかけているかのように新鮮に見えると同時に、多くの衝撃をもたらしました。


南米コロンビアの港町 カルタヘナー色とりどりの昼間の街角と夜の摩天楼

世界一綺麗な公衆トイレー緻密な国、日本

帰国後まもなく、人もまばらな観光地の片隅にある公衆トイレを使う機会がありました。最新式のLED自動清掃機能付きのトイレで、ピカピカの白い壁にはたくさんの「注意書き」が掲示されていました。

世界一周の途中、観光地で使った公衆トイレの数々を思い出しました。
ノルウェーのベルゲンでは観光地図に載っている無料公衆トイレはなぜかすべて閉鎖されており、困った挙句にホテルのトイレを宿泊客のふりをして使わせてもらいました。

フランスの有名観光地では古い公衆トイレはあったものの便座がなく、太もものスクワット筋トレをすることに。(ガイドさんによると便座の盗難が多いので撤去されることが多いとのこと)

世界のどこでも公衆トイレというとたいてい閉まっているか、有料か、あってもあまり「綺麗」ではありませんでした。快適に使いたければカフェや店舗に入るしかありません。

ホフステードの6次元モデルのスコアをみると、日本は不確実性回避と達成志向ともに世界で突出したポジションにあります。その特徴は、緻密で完璧を求めてひたすら努力する傾向にあります。日本のハイテク公衆トイレの存在は、その「注意書き」の多さと共に日本の文化的価値観の影響を際立たせています。

米国アラスカ州スワードーのホームセンターにて:
釣り道具に並んで売られている大量の銃ー「セール価格で199ドル」

コンビニから見えてきたー優れた段取りの国、日本

旅行先では様々な国のコンビニエンス ストアを利用しましたが、日本ほど手際よく細やかなサービスを提供している国はありません。

日本ではコンビニはまさに24時間オープンの「街のインフラ」。温かい食事やちょっとした娯楽を提供するだけでなく、郵便や宅配、行政の代行など、ありとあらゆる機能を担っているのは驚くべきことです。これはまさに日本の高い不確実性回避と達成志向の成せる業です。
私たちは「サービスとは正確で優れているべき」という無意識の期待を持っていることを旅を通して気づかされました。(詳しくは第3回をご覧ください。)


ノルウェー第2の都市ベルゲンの街角でーニシンや鮭など新鮮な海産物が名物。
あちこちで妖怪トロールの姿をみかけた

「物価も賃金も安い」日本 ー失われた30年

旅の寄港地で衝撃を受けたのは、どこの国でも物価が高いことでした。まさに日本の景気の長期低迷「失われた30年」を思い知らされる旅になりました。

クルーズではアジア、アフリカ、ラテンアメリカのいわゆる「先進国ではない国」にも多く寄港しました。これらの国に於いても「物価があまり日本と変わらない」ことに驚かされました。例えばメキシコの鄙びた港町の地元民向けの食堂で食べたランチ(タコス)の値段は、9ドル(当時のレートで1449円)でした。

OECD参加国の消費者物価(2022年)は1991年と比較して平均で2.7倍に、賃金は33%上昇しました。一方で日本の消費者物価は11%、賃金は3%の上昇に留まっています。(野村証券 「世界から見た日本の平均賃金とモノ・サービスの価格」) 日本の物価も賃金も大きく「取り残されている」ことを肌で感じました。

ホルトガル リスボン(写真左はアルファマ地区)ー
ベレン地区にあるジェロニモス修道院はエッグタルトの発祥の地でもある

新しい眼鏡をかけて日本を見直す

以上、私がクルーズから帰国して最初の1週間にもっとも衝撃を感じた3つのポイントを述べました。

清潔で安全で快適な一方、サービスへの高い期待やそれに伴う働く人への負担。そして30年間上がらない日本の給与と物価。

「これが普通」として慣れてしまうと、いつの間にか「浦島太郎」の様に世界とかけ離れてしまいます。グローバル経済の中で一国だけでは立ち行かない現在、私たちは時々外に出て、新しい「眼鏡」をかけて日本を眺めてみることが必要かもしれません。

CQラボ フェロー
田代礼子

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▶ホフステードの6次元モデルと6つのメンタルイメージについて詳しく知りたい方は、『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』宮森千嘉子/宮林隆吉 著をご覧ください

一般社団法人CQラボは、ホフステードCWQの日本オフィシャルパートナーとして、カルチャーに関してトータルな学びを提供しています。CQ®(Cultural Intelligence)とは…「様々な文化的背景の中で、効果的に協働し成果を出す力」のこと。CQは21世紀を生き抜く本質的なスキルです。Googleやスターバックス、コカコーラ、米軍、ハーバード大学、英国のNHS(​​​​国民保険サービス)など、世界のトップ企業や政府/教育機関がCQ研修を取り入れ、活用されています。

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