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活動に終止符を打ったポートランドのブラックメタルバンドNONE

2015年にアメリカ合衆国オレゴン州ポートランドにて活動を開始し、2024年7月に終止符を打ったアトモスフェリック/ディプレッシヴ・ブラック・メタル・バンドNONEについて。


全アルバムのレビュー

1. NONE (2017年、1stアルバム)

3曲30分のデビュー作。早速ファズのしっかり効いたギターを主軸とするアトモスフェリック・ブラックメタルをやっているが、プレイの力感を削がない程度に音抜けを抑えたプロダクションである。こうした堅実さはいかにも21世紀のDSBMらしい点。

「Cold」は長尺であるが、変化の付け方に過不足がなく、ブラストビートへ持っていくプロセスに無理がない。本作のハイライトだろう。続く「Wither」はよりテンションの高く絶望的なヴォーカルが聴ける。かなり喉を酷使している様子だ。ラストの「Suffer」はキーボードの音色的に最も荒涼としている。

2. Life Has Gone On Long Enough (2018年、2ndアルバム)

前作よりメランコリック度、ディプレッシヴ度を上げた2nd。「A World, Dead and Gray」「Bed the Cold Earth」からもう至って題名通りな世界観。ヴォーカルの哀愁も強くなってきている。この2曲は本作のハイライトだ。

特に後者は、例によって単調なコード進行なのだが、メリハリのつけ方が成長したのがわかる。続く「Hypoxic」は静かな前半にリラックス感があるし、「Corroded」で嘆くヴォーカルを演出するギターやキーボードの音色も奥行きがある。「Desirate」までが良い出来、最後二曲は少し退屈。

3. Damp Chill of Life (2019年、3rdアルバム)

サウンドのより巧妙なレイヤー化を追求した3rd。アンビエントの要素が強まってコントラストが強固になった以外は、音楽的な方向性は変わっていない。ドローン的なピアノ、ローファイなりに密度も保持した憂鬱なパッセージ、輪郭が見えない打ち込みドラム、これらのミニマルな反復はリスナーに効果的にメランコリーや孤立感を感じさせる。

ドラムに関してはもう少しテクスチャがあっても良いかもしれないが、それが雰囲気の冷たさに一役買っているのも事実だろう。特別なことは何一つしていないが、この名盤はバンドが愚直にやって来たことを見事に結実させた結果だ。「The Damp Chill of Life」「It's Painless to Let Go」「A Chance I'd Never Have」がお気に入り。クレッシェンドをカタルシスに結節させる手法が成熟している。

4. Inevitable (2023年、4thアルバム)

一曲平均9分を超える大作志向になった4th。4年のブランクがあるが、方向性に劇的な変化はない。ヴォーカルの比重は更に下がり、アンビエントやポストロックの要素が前面に出て来たようだ。

「Reason to Be」はテンポアップがうまく絶望感につながっているし、「Locked, Empty Room」はダークアンビエントとしてアルバムのムードを強化している。後者と「My Gift」は少々長さを感じるし、アルバムの一貫性という意味ではやはり3rdには及ばない。ラストの「Rest」の破壊的なヴォーカルパフォーマンスが陰鬱な余韻を残す。

総括

NONEにおけるキャリア全体の音楽的特徴を端的にまとめてみる

・アトモスフェリック・ブラック・メタル、ディプレッシヴ・ブラック・メタルの音楽性
・絶望感や孤独感、自然との繋がりをテーマにしている
・感情的な表現力と共に、環境音やメランコリックなメロディーを組み合わせた楽曲が多い
・ボーカルには絶叫や囁きが多用され、楽曲全体が重く感情的な雰囲気を持っている
・メンバーの正体は公開されておらず、匿名性がNONEの神秘性を助長している


NONEの音楽性はXasthurほど鬱屈とした絶望感はないし、Woods of Desolationほどブラックゲイズ寄りでもないし、ColdWorldほど凍えた世界観でもない。

こうしたDSBMアーティストを踏襲した上で、各要素を絶妙な按配でハイブリッドさせている。その手堅いアプローチは、Burzumなどのノルウェー産ブラック・メタルを現代的にアップデートさせたかのようだ。

NONEの音楽には、曲構造でもサウンド面でも目新しさや驚きは皆無である。しかし、そのアプローチの徹底した堅実さにおいてブラックメタルのリスナーを惹きつけるには十分な魅力を放っていると言える。

彼ら(あるいは彼?)が活動を休止した理由は不明であるが、表現面で的を絞り過ぎ、ある程度枚数を重ねると、フィードバック的に創作意欲が削がれることもままあるのはこの手のアーティストの宿命なのかもしれない。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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