【短編小説】猫と出会った男の話4(終)
猫と妻と過ごす毎日は充実していた。
仕事から帰ってきて、妻と二人で思う存分猫を撫でるときが幸せだった。
週末には妻とともに、保護猫の世話をするボランティアに参加するようになった。
結婚して二年近くが経とうとしても、夫婦には子供がいなかったが、
猫がいたので気にならなかった。
妻と、いつか古民家を買って猫カフェを開こう、
猫には店長をしてもらおう、などと話しをしていた。
そのために貯金をしようと。
肝心の猫は二人の会話には無関心で猫ベッドで寝ていた。
ある日、いつも二人より早く起きる猫が起きてなかった。
不思議に思って猫ベッドを覗くと、猫は息をしていなかった。
猫の体は丸くなったままかたくなっていたが、朝日があたっていたからか
ほんのりあたたかった。
その日は起きない猫とともに過ごした。
食事をするときも、お風呂に入るときも、寝るときになっても
二人とも涙が止まらなかった。
次の日、猫を火葬して位牌を作った。
夫婦は位牌に向かって、おはよう、いってきます、ただいま、
おやすみ、と欠かさず声をかけた。
しばらくして、二人は古民家を買って猫カフェを開いた。
昔ながらの広い家には仏間があり、そこに猫の位牌を置いた。
保護猫を何匹か引き取って、猫カフェのスタッフとして働いてもらっている。
夫婦には子供も生まれて、猫と子供が一緒に遊んでいた。
猫、ありがとう。
お前に会えたおかげで、俺はいま幸せだ。
男は位牌をそっと撫でた。
(終わり)
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