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【短編小説】地域猫のミャアちゃん:後編(657字)

急いでタオルでミャアちゃんの身体を拭いて、ご飯と飲み水の用意をする。
実家で猫を飼っていて、何かあった時のためにこの家にも猫用品を置いていたのだ。

ご飯をもりもり食べるミャアちゃんを見て、備えていて良かったと安堵した。

それからミャアちゃんは、うちにもよく来るようになった。
外とおじいさんの家、私の家を自由気ままに往来していた。

猫好きの私はすぐにミャアちゃんの虜になり、自分の家で飼いたくなった。
しかし、外で遊びたがるミャアちゃんと、隣のおじいさんのことが気になり出来ずにいた。

そして春になった頃、ミャアちゃんは姿を消した。

いつものように、うちでひと休みをしたあと外に出たがった。まだ肌寒い日だったので、すぐにおじいさんの家か、うちに戻るだろうと思いながら外に出した。

ところが、夜になっても、一週間経っても、1ヶ月経ってもミャアちゃんは戻って来なかった。

ミャアちゃんはなぜ戻って来ないのだろう。
おじいさんが心配してミャアちゃんを呼ぶ声を何度も聞いた。

交通事故に遭ったのか。
ネズミ捕りのような、何か罠に引っ掛かってしまったのか。
いくら地域猫として愛されていても、猫が嫌いだったり、虐待する人間がいる。
それとも、ミャアちゃんがあまりに可愛いので誰かが飼うことにしたのか。
私は結局、ミャアちゃんに首輪をつけることすらしなかった。

いなくなって数日経った頃、ミャアちゃんが夢に出てきた。
幸せそうに、お腹を上にしてゴロゴロ寝そべっていた。
あれは、ミャアちゃんからの別れの挨拶だったのだろうか。

いまだにミャアちゃんの行方は分からない。

(終わり)

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