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映画嫌いがライブ音楽環境に物申す〜下 PA、観客、ドラマー〜

今回のお話は上下に別れています。「上」はこちら。かなり長いです。

 下なんですが、何故かドラマーの話が多くなっております。で、前回同様、ちょいちょい暴言が入ります。

観客と「共作」するライブ

 たぶんだけどね、ライブの音響がすごいことになってるのは客の責任もあるかもと思い当たった。

 なんせポンズのライブ本当楽しかったんだもの。見事なまでに客の声を聞いてるのかジョーの声を聞いてるのかわからないくらいだったもの。ちなみに、前の記事にも書きましたが、耳栓は持ってくるように予め言われてました。
 実はポンズはメジャーデビュー前にやったライブで、それも地元の夏祭りでジョーが観客に負けるという痛い出来事がある。これ今もYouTubeにあるのかな?2019年中野盆踊り「なんでやねん」のライブ動画を一度ご覧になってみてください。なんか色々とおかしいですから、あれ。マジでなんでやねんだから。あそこにいた観客の何割が歌ってたのかと問いたくなるレベル。なんで「かっとばせーバース!」とか言えるの?
 そういえば、メジャーデビュー直後にグリーンバックライブ(ちょうど新型コロナが国内で本格化し始めた頃だった)をやってたけど、あの時のジョーの「みんなの本当の声が聞きたいよ(´Д` )」というセリフは、やたら印象に残ってます。

 これがポルノグラフィティくらいのベテランになると本当にすごいらしい。メンバー二人とも、ステージ上にいるはずなのに、なんなら耳も塞がれているはずなのに観客の歌声や歓声がイヤモニに混じって聞こえてくる。と、ツアー後のポッドキャスト『ENCORE』で話してました(2:57あたり〜)。これじゃPAが自分の耳を頼りに仕事をするなんて無理だし、数値で見た方が早いはず。その場にいるだけでも耳が壊れるでしょう。

イギリスの国民的大合唱

 下手するとクラシックですら観客が耳を破壊されるのは必然な可能性がある。イギリスでは毎年夏にプロムスという大規模なクラシックフェスが行われるのだけど、最後の夜にはエルガーの「威風堂々」を演奏するのが慣わしなんだって。
 この曲は本来歌モノではないんだけど、エドワード7世の戴冠式のときに歌詞がついて、みんなで歌おうってことになったらしい。かれこれ100年くらい続いてる伝統みたいね。今ではいくつもの街でライブビューイングをやるもんだから、その規模も半端じゃない。当然耳栓は必須。子供はイヤーマフをつけるという。

「観客の責任」とは言ったけど、観客に非があるという意味ではなくて、たくさん観客を入れたいのならやる側は演奏とかPAよりも観客の声に気をつけろという意味。観客の歌を楽しみに観賞に来る人は多いだろうから。それを生かしてバランスを取るために、全体の音量が大きくなっている可能性がある。

 前回 Adoの話をしましたが、Adoの曲ってC&Rで盛り上げるイメージがあまりないので、PAの音は小さめでもいけるかもって思ったのかな。音響面の規制が厳しいところでもできると。

 それでも「Adoの声が低音に埋もれて聞こえなかった」に対する言い訳にはならないと思う。やっぱり私は、愛媛で聞いたあの音の意味が知りたい。

 それにもちろん、無数の金属片のように全身に迫ってくる拍手はいつ聞いても気持ちいいモノだしね。初めて聞いた時、目の前に「音が見えた」もの。黄金片が豪雨のように降り注いでいた。あの音だけは好き。

 ライブ用の耳栓は使い捨てのがいいとかなんとか言うけど、飛行機用のでも十分だと思う。それこそあの輪っかみたいなのも気になるけどね。高いから。

アイドルならではのジレンマ?

 芸歴27年で初めてイヤモニをつけたというドラマーの話を見つけてびっくりした次の日に、別のドラマーがニュースになっていた。
 ていうか、ドラマーが客席の真ん中まで来るなら、他のミュージシャンも来なさいよ。そういう問題でもなさそうだけど。アイドルって大変ね。

 アイドルから、こんな提案が出た。ポルノグラフィティの場合は、上にも書いたように、「客の声がイヤモニをしていても聞こえる」とのことだったが、例えば前のツアーみたいに観客席のど真ん中までメンバーが出てきて(しかもサポートはステージ上)ってなると、二人の耳も心配になるなぁ。

 Yahoo!ニュースのコメント欄によると、小田和正のライブでも難聴になることがあるらしい。なんか意外。

 これ系の問題になると、真っ先に打首獄門同好会(多分大澤会長)がコメントをくれるのはいいんだけど、他のミュージシャンからのコメントが出てこないのはなんで?今更Xのアカウントを作りたいとも思わないけど、作ったほうがいいかな?それこそTAKAとか、彼の弟のHIROとか、他のアイドルとか、それこそAdoの意見とかも聞きたいよ。業界内部の問題意識が可視化しないと解決しないから。

 個人的には、Adoがこのことで悩んでいるとは思いたくない。まずVtuberには、PA絡みの問題とは無縁であって欲しい。仮にアイドルだとしても、アイドルならではのジレンマはVtuberなら必要ない。それに、多分イヤモニや音響に問題があったら、あの歌い方を続けるのは無理だから。前の記事にも書いたけど、無理して喉を壊されても困るしね。言いたいことの意味はわからないならわからないでいいです。歌い手としての意見は言いにくくても、観客としての意見は聞いてみたい。

 打首については、前は「ミュージシャンの耳は保護されているが、観客の耳については配慮されていないので、耳栓を周知してほしい」と大澤会長が言っていた。

 でも大倉氏の言い分に同調してるってことは、彼自身の耳も辛うじて持ってるだけなの?大倉氏はもっと安全なイヤモニが欲しいと言っているが、観客が耳栓をつける必要性を否定しているようにも聞こえる。どっちが本音なんだろう?
 耳栓について言わないのは、観客の歓声はどうやっても抑えられないというか、まず観客の行動を制限したくないという、アイドルならではのジレンマがあるからでしょうか。上に書いたプロムスも最終的には観客に耳栓やイヤーマフをつけてもらうところに落ち着いてるわけだし。
 大澤会長も、PAについてはどうしようもないと考えているみたい。自分ではPAを聞けないからかな。でも彼が他のバンドのライブを見ることも多いでしょう。それとも、観客の声とのバランスも考慮してってことかな?打首もC&R多いもんね。「島国DNA」とか。

20年で環境は変わったのか

 やっぱPAって、大音量用の耳栓使ってるんじゃないか?だとしても、大倉氏の言い分によれば、耳栓だけだと複数人で協力してスピーカー環境を作るのは無理だろうから、彼らも密閉型のイヤモニを使う必要がある。普通 PA卓は客席の真ん中にあるからね。
 最近のライブでは、スタッフ全員がイヤモニを入れていて、会話は全部トークバックなんだとか。えー、PAも含めての話なの?PAがイヤモニとか、笑い事じゃ済まない。必要なのはわかるけど、なんか卑怯な感じ。改めて言うけど、そうなると、大音量化の悪循環に陥りそう。

 ライブハウスについては、こんなことを言うPAも。

 もしかしたら、20年で環境はかなり変わったのではないか。

 前回参考文献として紹介した本『Real Days』は、まだTamaがいた時のポルノグラフィティのライブツアー(74ers、2003〜2004)を、リハーサルの段階から終演後の食事に至るまで密着取材したもの。コンサートがいかにして出来上がるのかについて、かなり詳細に書かれています。

 著者の藤井氏はツアーの最中に晴一から勧められて、バンドメンバー3人がリハーサル中に実際に聞いているイヤモニを聴き比べたことがあるのね。密閉型のイヤモニは、当時としては最先端の技術で、ポルノグラフィティもあの形のものを使うのは初めてだったとか。(製作の様子は『ラック』の特典DVDに入っている。面白いのは、どうやら一番神経を使って型を取らなければいけない昭仁が型取りに苦戦したらしい。あれってひょっとして、失敗だったのでは)
 それどころか、このツアーは、ところどころ「コロガシ」(モニタースピーカー)も利用している。とはいえ、誰よりも率先してイヤモニをつけてたのはドラマーだった。そういえば、今コロガシ使ってるライブってある?私個人としては、もし自分が歌い手としてステージに立つのなら、コロガシもイヤモニも聞きたくないけど。頭蓋骨の中だけでなんとかしたい。だめかな?
 ドラマーのあれってイヤーマフなんだ。ドラム越しだとコロガシが聞きにくいからヘッドホンにしてもらってるのかと思ってた。ヘッドホンとイヤーマフって、パッと見じゃあんまり区別できないよね。
 上の芸歴27年のドラマーの場合、イヤモニがないのが最初は当たり前だったから、そのまんまズルズルと通していた、しかもドラマーだから多分イヤーマフ付きでってことだよね。

 藤井氏はイヤモニを特注していないので完全密閉型のものは聞いてないけど、それでも周りの音が聞こえにくくなると書いている。大倉氏の発言について今藤井氏が思うところも聞いてみたい。環境は悪化してるんですか?ライブレポを何年も続けている人たちの意見ももっと聞きたい。

 ドラマーの例ばっかり出してるけど、ドラマーだけの問題じゃないのだ。

ライブで耳を壊すのは普通のことなのか

 大倉氏は難聴になったらしい。大倉氏の同業者である堂本剛は随分前に突発性難聴のためにライブができなくなっている。元ジャニーズは特にこのあたりの問題は深刻な気がする。ジャニオタ(今はどういうのか知らんが)の意見も聞きたい。嫌だったらアンケートに書いたりとかしてる?ジャニオタに限らず、ライブ後のアンケートに「音が大きすぎる」とか、「音がこもって聞こえにくい」とかって書いたことはある?それこそ剛が突発性難聴を訴えるよりも前に。
 そういう訴えを起こせる勇気や機会が欲しい。もし次に行くライブでこの問題に出会ったら、書くつもりでいるからね。覚悟しといてよ?

 大倉氏は、観客の耳については心配だったりするのだろうか。
 大倉氏のツイートにピヤホンのピエール中野氏(この人もドラマー)も反応してるとのこと。でも中野氏はイヤモニの機械に問題があるように考えているみたいだった。やっぱりここでもPAには口出しなしか。
 観客の立場からすると、PAの方がよっぽど問題があるように聞こえるんだけど。ヤフコメもPAを責めるものが殆どだった。私も、PAを弱目にすれば歓声も控えめになるかなと思う。
 ただ、コロナ禍真っ最中のライブでPAが籠っていたのは事実。ミュージカルで、演技だけの部分と歌とで音響が大きく変わるのも事実。ミュージカルで歓声が出る場面はそんなに多くはない。PAが「大きくなければならない」みたいな感覚に囚われているとしか考えられない。それに、歓声や観客の合唱は抑える方が難しいし。
 上のライブハウス専属PAも「PAは昔神同然で口出し出来なかった」と言っているけど、彼は今のPAについてはかなり否定的。今時のPAは、アーティストから来た注文が間違っていても何も言わずに従うだけ、ということが多いらしい。「PAに口出ししてはいけない」という意見も多いけど。どっちにしても、ミュージシャンからすれば耳は塞がれてるし、たとえばライブハウス専属のPAならそれぞれのバンドの曲について全部は把握できないし、会話が面倒なのだろう。
 でも、結局は観客の第一印象って大事なんじゃないのですか?全員が率先して耳を壊されるようでいいのですか?

 「金属片の豪雨のように降り注ぐ拍手」は、どんな舞台の会場でも聞いたからね。演劇でも、オーケストラでも。あれが大音量でも、あれくらいの時間ならWHO的にも問題はないそうだし(オイ)。

 音響が籠りがちになるのは、映画の影響もあるのかなぁ。でもMOVIXさいたまで見た『関心領域』の音響は本当にショボかったからね。あの世にも悍ましいエンディング曲を含めても。『オッペンハイマー』とは天と地ほどの差があるといえば、実感できますかね。だから映画に限って言えば、やろうと思えばできるはずなのよ。
 改めて、今後のアカデミー賞音響賞ノミニーが、音響の弱い映画で満たされますように。

 そして、コンサートやミュージカルを、子どもや家族を含めてもっとたくさんの人が何気なく楽しめますように。

 本気で祈ってます。

参考文献
藤井美保『Real Days』

ここに載せた参考記事を書いてくださったたくさんの著者に感謝を申し上げます。

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