Vanishing Point

 ポケットの中にあるはずの世界が消えた
 手のひらに収まる世界が
 目の前には一つの世界しかなかった

 駅のホームで周囲を見渡す
 その世界だけに立っていたのは私だけだった
 目の前を生きているのはわたしだけだった
 
 剥奪された世界からの休息
 拍子抜けするほど長閑で
 春の陽気を浴びる人は少なく
 換気される電車内でまどろむ

 遺却された世界は喧しく
 目まぐるしく意見が行き交い
 今この時間にも罵りあっている

 声を出さない決闘場
 遠くで観戦する隣人
 空いている快速急行
 観戦チケットを忘れた私
 間延びした春

 目を閉じる
 すべての世界が消える

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