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【乳酸菌研究の第一人者 東北大学名誉教授 齋藤忠夫先生へ特別インタビュー】自分の腸に合った乳酸菌の取捨選択とは

コロナ渦の昨今、腸と健康との関わりはますます注目を浴びています。
人間が健康に生きていく為には微生物との共生が不可欠です。では、私達は健康にプラスに働く微生物をいかに取り入れ、腸内環境のバランスを整えていくべきなのでしょうか。
乳酸菌研究の第一人者である東北大学名誉教授 齋藤忠夫先生へ学術的な観点から、お話をお伺いしました。

■腸内環境改善において望ましい乳酸菌の選び方とは

乳酸菌市場では、生菌(プロバイオティクス)、死菌、菌の数、菌種の数など多様な特徴を謳った沢山の商品が存在しますが、消費者は乳酸菌の何を重視して商品を選ぶことが望ましいのでしょうか。

一般的に消費者は、TVCM(テレビコマーシャル)などのイメージが強いせいか、摂取した乳酸菌が胃酸や胆汁酸で死ぬことはなく、生きたまま腸管に届き、腸内で増殖することが一番重要であるという理解をしている方が多いと思います。

またこれも TVCMなどの影響でしょうか、乳酸菌数は多ければ多いほど効果も高いことを期待している様です。消費者は乳酸菌やビフィズス菌に沢山の種類があることや、それらに個別の効果効能があることの情報が少ないため、ほとんど理解されていないと思います。
従って、生きたまま腸管に届く乳酸菌が沢山入っている商品を選ぶ傾向にあると思います。

生菌と死菌、それぞれに充分効果があると考える方もいますが、東京大学名誉教授の微生物学者である光岡知足先生は、「バイオジェニクス」という死菌を含めた乳酸菌の菌体成分やその代謝物が腸管免疫系を刺激し、善玉菌を増やして腸内細菌叢(腸内フローラ)に好影響を与えるという学説を提唱されました。この「バイオジェニクス理論」は、学会でも多くの支持を得ています。サプリメントの開発メーカーは、それぞれ支持する学説に基づいた製品を製造・販売しているようです。

生菌や死菌が有効であるという学説は、乳酸菌を評価するひとつの目安です。消費者は、ご自身の体に耳を傾けて、ご自分の体にとって波長に合うものを体感重視で選ばれるのが一番良いと思います。

自分に合う乳酸菌を見つける為の良い方法があれば教えて下さい。

少なくとも同じヨーグルトやサプリメントを2週間ほど摂取し続け、お通じの回数の増加、下痢症状の軽減、便臭の減少などの自覚症状により「良い整腸作用」が感じられた場合は、摂取したものに含まれる菌がその方にとって波長の合う菌だと言えると思います。
たった数日の摂取では分からないと思いますので、少なくとも2週間以上の継続摂取が望ましいでしょう。

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■摂取した乳酸菌の定着性について

プロバイオティクスサプリや乳製品から摂取した乳酸菌をできるだけ腸内に定着させたいと消費者は期待しますが、定着性についてはどのように認識すればよいでしょうか。

ヒト腸管から採取した乳酸菌やビフィズス菌であれば、単なる通過菌とは考えられず、少なからずヒト腸管内定着や腸管内増殖は期待できるかと思います。しかし、遺伝子検査でヒト腸内に存在が確認される乳酸菌やビフィズス菌には、培養が出来ない難培養性菌が多いため、まだサプリメントなどには利用できないのが現状です。
一般に、ヨーグルト菌と呼ばれるブルガリア菌やサーモフィルス菌は、ヒト腸管には定着しない菌であることが知られていますが、前述の「バイオジェニクス理論」では有効な菌と言えます。

なお腸内への定着性ですが、正常な腸内環境にはすでに大量の菌が常在菌として棲みつき腸管上皮をびっしりと埋め尽くしている状態と考えられます。そのような腸内にヨーグルトや乳酸菌飲料などで少量の乳酸菌を摂っても、簡単に腸管定着性は得られないと思います。
やはり数の論理は存在しますので、サプリメントなどで継続的に大量に有用菌を摂取することは、腸管定着性のチャンスを確実に増やすことに繋がると思います。

ヨーグルトを毎日摂取なさっている方がヨーグルトに何を求めるかによりますが、ヨーグルトに含まれる菌数とサプリメントの菌数では圧倒的にサプリメントからの方が菌数を多く摂取できます。

またヒト腸管上皮細胞の表面に付着しなくても、表面を覆っている腸内細菌の菌体に付着する場合もあります。摂取菌体に何らかの吸着性があり腸管の中に留まれば、腸内で増殖しますので、代謝物として乳酸や酢酸といった有機酸を生成し、それを多くの腸内細菌が利用して最終的に「酪酸」となれば腸内pH値が下がります。その結果、酸に弱い病原菌の減少が期待でき、腸内細菌のバランスが整えられた結果として「整腸効果」を強く感じられるのではないでしょうか。

■多様な乳酸菌やビフィズス菌の菌種を摂ることの意義

消費者の一部の方は、TVCMなどの情報により、生きたまま腸に届く乳酸菌や沢山の乳酸菌数が入っている商品を好む傾向にあるとのお話ですが、乳酸菌の複数種を同時に摂ることについてメリットがありましたらお教えください。

最近の腸内細菌の研究では、腸疾患の患者さんは腸内の菌数の種類が少なく、多様性に富んでいない点が知られています。腸内には沢山の種類の菌が共存していた方が望ましい様ですから、多様な乳酸菌やビフィズス菌を摂ることは腸管の健康のためにも大きな意義があると思います。

私達も、潰瘍性大腸炎(UC)などの炎症性腸疾患の方の腸内細菌叢を調べてみましたが、極端に腸内細菌の種類が少ないのです。その理由についてはまだ解明はされていません。腸疾患を患った為に菌種が減少したのか、菌の種類が減少した為に腸疾患が誘発したのかも分かっていませんが、例外なく腸内細菌の多様性が失われています。その為なるべく多種類の良い菌をサプリメントなどで外部から取り入れることは、大きな意義があると思います。

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先生の仰る「良い菌」とはどのようなものでしょうか。

 良い菌とは三つの条件があります。「悪い酸を作らない、悪いガスを作らない、発がん性物質を作らない。」この三つをクリアしている菌というのは、腸内の中では二種類しか存在していません。それが乳酸菌とビフィズス菌なのです。
この二種類の良い菌は、日々のストレス等により常に減少する傾向にありますので、外部からヨーグルトやサプリメントとして乳酸菌とビフィズス菌を積極的に毎日摂取することは、健康な腸内環境を維持する意味では有効な方法であると言えます。

昨今、植物性乳酸菌や動物性乳酸菌、ヒト由来の乳酸菌など、◯◯由来の乳酸菌という商品の表記を良く目にします。マルチ乳酸菌Primeの場合は多種菌配合の為、植物由来・ヒト由来の乳酸菌が含まれており由来にも多様性があります。
この乳酸菌の「由来」については、意識をして選んだ方が望ましいのでしょうか。

私は、ヒト腸管由来の乳酸菌は、ほぼ例外なくヒト腸管への定着性(腸管により長くとどまる傾向)は高いことを実験的に確認したことがあります。しかし、植物由来の米ぬかや漬物由来の乳酸菌の中にも、腸管付着性の高いものもいますが、多くは低いことも確認しました。それぞれの乳酸菌は棲む場所に適応していますので、当然のことかもしれません。

例えば、ある植物性乳酸菌飲料は、非常に酸度の高い(酸っぱい)漬物由来の乳酸菌を利用しています。そのため胃酸耐性や胆汁酸耐性は非常に高く、ある程度のヒト腸管付着性はありますが、腸管で増殖してプロバイオティクスとして活躍をするかどうかは未知数です。ヒト腸管への付着性は、動物性や植物性に限らず、臨床的な実験をしてみないと正確には分かりません。

乳酸菌サプリメントの活用について、ヨーグルトやチーズから発酵食品を摂ることと、サプリメントから摂取することに、それぞれ長所や短所がありましたら教えて下さい。

発酵食品から摂る菌数とサプリメントから摂る菌数では圧倒的に後者が多いですので、はっきりと整腸作用などの効果の差が出るのはサプリメントの方だと思います。

ヨーグルトは主に乳酸菌を摂る目的の食品だと思いますが、ヨーグルト菌やチーズ中の乳酸菌はヒト腸管にはほとんど付着せず死菌として排出されると思います。しかし、光岡先生の「バイオジェニクス理論」であれば、死菌体も腸内細菌のエサとなり、作られた代謝物として酪酸は腸管上皮細胞のエネルギー源となり、微絨毛の長さを伸ばし、有害菌侵入のバリアーとなり腸管防御機能を高められると考えられます。

特に、ビフィズス菌はヨーグルトなどの乳製品からは多量の菌数は取りづらいものですので、菌数的に多いサプリメントの方が効果を十分に実感できると思います。

マルチ乳酸菌Primeは複数菌種配合のサプリメントです。自分に合う乳酸菌を見つけるにあたり、一度に複数菌種を摂取することは、一種類の乳酸菌を摂取して便通状態を観察するよりも検証の効率化になると考えて設計されています。
この考えについて先生はどのようにお考えでしょうか。

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その通りだと思います。
これだけの多種類の有用菌がブレンドされたサプリメントですので、かなりの確度で自分の腸内細菌叢に合う菌が見つかるかと思います。もしその中でも自分に合う菌が一つだった場合には、多種類の菌の摂取が無駄になるという考え方もあるかと思いますが、有用菌の選択肢は多い方が良いと思います。

マルチ乳酸菌Primeの「ビフィズス菌3種、乳酸菌9種」という配合構成に、学説的観点より評価出来る点があればお聞かせください。

まずは、その様な多種類の有用菌を一斉に生菌のレベルで大量に摂取できる商品が他にない様でしたら。その点がまずは優位性と特異性のある特徴になるかと思います。

善玉菌が生菌として腸内で増えて、悪玉菌を殺菌する成分(乳酸、酢酸、バクテリオシンなど)を分泌するために、良い菌と悪い菌の腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスが整えられるという「学説1」があります。

また、東京大学名誉教授の光岡先生の言われた死菌体でも良いというバイオジェニクス理論に基づく「学説2」があります。これは、乳酸菌の菌体成分が小腸から吸収され、リンパ球を刺激することで腸管から抗菌性の免疫グロブリンA(IgA抗体)が多く分泌され、またインターロイキンの分泌によりNK細胞が活性化し、さらにビフィズス菌が増殖することで腸内細菌叢が良好に変化するというものです。

この両学説からすれば、ビフィズス菌と乳酸菌の複数の善玉菌を大量に摂ることに対して有用性があると言えます。

なお、ビフィズス菌と乳酸菌の両方が生きた菌として入っていることは、それぞれビフィズス菌は大腸で働き、乳酸菌は小腸で働いてくれる可能性を持っているので高く評価出来る点かと思います。

海外では複数菌種のプロバイオティクスサプリが市場に多く展開されていると感じるのですが、なぜ日本ではこのようなサプリが少ないのでしょうか。

日本では特定保健用食品(トクホ)の考え方が主流で、一つの乳酸菌の生理機能を深く研究することで特異な性質が明らかになった菌を製品に使用する傾向があります。
複数の善玉菌を多量に摂取するという商品を開発する場合、どの菌がどのように効果があるかが明確にならない点がありますので、トクホや機能性表示食品の考え方からは少し異なることになります。

乳酸菌は培養をする回数が増えれば増えるほどその諸性質は変異をしますので、出来るだけ培養の回数を抑えることが望ましいです。菌株の独立した管理は各社が社運をかけて徹底されていますので、敢えて複数の菌を混ぜ合わせた研究は行っていないのが現状です。

一方でマルチ乳酸菌Primeの様に多種類の有用菌を一斉に摂取できる商品が他にないのであれば、その点はこのサプリの優位性であり特徴になるかと思います。

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知人で、夕食を食べた後からお腹の張りが強くなる方がおります。朝昼もガスは溜まるようですが、夕食後は特に症状が強いとのこと。
このように、時間帯によって腸内細菌の増減や、こういった症状を引き起こす原因等はあるのか教えて頂けますでしょうか。

この方の場合は、小腸が空になる時間が少ないからだと思います。食事と食事の間に特に糖質を含む間食を摂らないことが肝要です。小腸に絶えず食べ物が入っているとその発酵によりガス産生が起こりやすくなります。そのような時に、乳糖を含む乳および乳製品を摂るとガス産生の原因となります。この時のガスは硫化水素やメタンガスなどの悪いガスではなく水素や二酸化炭素のガスだと思いますが、このような方は、乳糖の含まれないサプリメントの方を選ばれた方が良いと思います。

■今後の乳酸菌研究について

コロナ渦で免疫力向上を目的として乳酸菌に注目が集まっていますが、今後乳酸菌研究で注目すべき点、期待されていることはありますか。

2020年度、ヨーグルトの市場規模は約4,400億円と上昇しました。この背景には、ヨーグルトで免疫力を上げて新型コロナウイルスに対抗したいという消費者心理が読み取れます。
また、台湾では「うつ病」を予防するあるいは症状を軽減する乳酸菌の研究が進み、すでにサプリメントが製造販売されています。将来的には、多様な腸疾患への効果が期待される機能性ヨーグルトやサプリメントなどの商品も市場に登場するかもしれません。

乳酸菌と腸内環境の繋がりについて学術的な観点より多角的にお話を聞くことが出来ました。腸内改善によって得られるその効果の答えは自身の腸の中に存在しており、またその腸を知るのは自分しかいません。
まずは自身の腸のことを深く理解し、そして有益な善玉菌の代表である乳酸菌やビフィズス菌について種類や役割があるということを知ることが重要です。
そのうえで自身の腸に合った菌を選び取っていくことは健康の寄与に大きく繋がっていくのではないでしょうか。

(インタビュアー 株式会社cowhappi 鈴木未奈美)


■東北大学名誉教授   齋藤 忠夫 先生 
プロフィール

東北大学名誉教授   齋藤 忠夫 先生
“ミルク科学分野において、産学官で活躍できるパイオニア的研究者。我が国における、乳酸菌研究および機能性ヨーグルト・チーズ研究の第一人者”

プロフィール:
1952年東京都生まれ。1982年東北大学大学院農学研究科博士課程修了。
農学博士。東北福祉大学講師を経て、1989年に東北大学大学院農学研究科助教授・准教授。
2001年から教授。2013年 総長特別補佐(企画担当)。2018年4月より東北大学名誉教授。2015年より、オエノンホールディングス株式会社の社外取締役。
専 門:
畜産物利用学および応用微生物学、とくに機能性乳酸菌とヨーグルトやチーズの科学に造詣が深い。専門分野において、NHK「あさイチ」、日本テレビ「世界一受けたい授業」、テレビ東京「主治医が見つかる診療所」などに出演。
学会活動:
アジア乳酸菌学会連合(AFSLAB)会長・フェロー、日本酪農科学会(JDSA)会長・顧問、日本農芸化学会(JSBBA)フェローなど。
主な著書:
 「酵素ハンドブック」「最新畜産物利用学」「畜産食品の事典」
 「ミルクの事典」「学術情報リテラシー」「動物資源利用学」
 「畜産物利用学」「ミルクの先端機能」「食料の百科事典」
 「現代チーズ学」「医科プロバイオティクス学」
 「食品機能性の科学」「チーズの科学」など約50冊。
産学連携実績:
国内では、日本で唯一のミルク科学に関する学会である日本酪農科学会の会長・フェローを務め、海外ではアジア13カ国の各国乳酸菌学会を統括するアジア乳酸菌学会連合の会長・フェローを務め、欧米の乳酸菌研究に常に一石を投じている。
東北大学在職中から、企業の研究担当役員を務め、現在に至る。企業では、味の素㈱および㈱明治の研究アドバイザーを務めた。



◇押上にある古民家カフェ「めぐる」にてインタビュー実施
営業日  月〜土 営業時間 11:00〜18:00
(6月20日まで。緊急事態宣言以降は11:00~21:00)
営団地下鉄半蔵門線、都営地下鉄浅草線「押上駅」 A1出口より徒歩8分

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