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みんなに届くものを作れる人は、届けたい人を明確に頭の中に置いている。

※この記事は、旧ブログで2016年2月・3月に公開した記事を再構成したものです。

直接会ったことがない、その人の本質が分からないのに勝手な悪意を持ったり、思い込みや憶測だけで人の悪口を書いたり言ったりしない。

ライター/編集者の仕事を始めてから、このことを常に心の片隅に置くようにしています。

 そりゃ、私だってそれなりに年齢を重ねてきたし、インタビュー取材で多くの方に接してきたから、あまり良くないオーラが漂ってる人は、直接会わずとも、人となりが何とな~く分かってしまう。

でも、やっぱり実際にお目にかかって話を聞いたり、直接話をしてみないと、その人が本当はどんな人かなんて分からないものなんですよね。

過去に、インタビュー取材で実際に話してみて、印象がすっかり変わった人なんて数え切れないほどいますから。

なぜ、あのミュージシャンが路線を変えたのか

 私が東京の編集プロダクションに勤めていた頃。今からもう20年ほど前の話になります。

まだ20代前半だった私は、第一線で活躍しているライターさんの仕事から少しでもプロのテクニックを学び取ろうと、自分の仕事ではないのにくっついていって、いろんなライターさんのインタビュー取材に同行させてもらっていました。(当時は、ライターセミナーや講座なんてほとんどなかったのです。実践で学ぶしかない時代でした)
 
ある日、某ロック・ミュージシャン(以下Aさんとします)のインタビューに同行させていただく機会がありました。でもね、私、その頃はAさんに対してあんまり好感を持っていなかったんですよね。その理由はただ一つ。
 
「メジャーデビューしたら路線をガラリと変えやがって‼︎」
 
そう。完全に私怨でございます。若かったね、私。

ただのいちリスナーで、ライヴを何度か観て雑誌インタビューをチラ見しただけ。その真意を知ろうともせず、実際に会ったことも話したこともないのにね。
で、何であんまり好きでもないのに同行したのかというと、
 
「この日和見野郎(酷っ!)がどんだけイヤなやつなのか、アタイのこの目でじっくりと見届けてやるんだからな‼︎」
 

っちゅー汚ねえ動機なの。しかも見届けるだけっていうヘタレっぷり。

まったく、イヤなやつはどっちだよ!って感じ。若い時のわけわかんないエネルギーって怖いわ(苦笑)。
 
会議室に入ってきたAさんは、音楽誌のグラビアで見るような、斜に構えた厳つい雰囲気ではありませんでした。
意外なほどにこやかで、とても柔らかい空気をまとった方。インタビュアーであるベテランの音楽ライターさんと旧知の仲だったようで、とてもリラックスした雰囲気の中でインタビューが始まりました。
ニュー・アルバム発売後の全国ツアーについて話を聞いたんだけど、本当に、とても良いインタビューだったんですよ。
 
「地方の小さな街に行くと、CDショップ自体を見つけるのも大変なんですよ。やっと小さなショップを見つけて店に入ると、日本のロックの棚に置いてあるCDの(タイトル)数がとても少ない。やっと俺たちのアルバムが1枚見つかるくらいなんですよ。それなら俺は、そんな小さな街に住んでいるロック少年たちの心を震わせるようなものを作りたいと思った」
 
要約すると、ざっとこんな内容でした。

でも文字数の関係で、そのコメントはカットされてしまったんじゃなかったかな。その時のAさんの真摯な話しぶりは、今でもはっきり覚えています。
「ああ、この人は音楽に、本当に真剣に向き合ってるんだ」と感じたし、心から音楽を愛しているリスナーのことを真面目に考えているミュージシャンなんだと感じました。
 
同時に、 はなから「日和見野郎」「裏切り者」呼ばわりしていた、自分の浅はかさをとても恥ずかしく思いました。
 

なぜ、感動するほど素晴らしい発言が取れたのか

中高生の頃は、インディーズ・バンドのアルバムやカセットテープ音源の情報を、先輩や文通仲間から苦労して手に入れたり、雑誌の通販でアルバムを購入したり。インターネットがない時代だったから、試聴なんてできない。噂と雑誌のレビューとおのれの勘を頼りに、清水の舞台から飛びおりるような気持ちで買っていたわけで。
 
まさにそのコメントに出てきたような、田舎の小さな街のロック少女だった私は、Aさんの言葉にいたく感動したのでした。ホント、単細胞なヤツですみません(笑)。
 
そのコメントを聞いて「いい人ぶりやがって!その言葉の裏に何かあるぞ」と、あまのじゃくな考えに至らなかったのは、Aさんの真摯な話しぶりもあったのだろうけど、ライターさんの質問の仕方だったり、ぶっちゃけて話せるような空気が、その場にきちんと作られていたからかもしれないですね。

Aさんとライターさんの間にある「信頼」とかお互いの「誠実さ」が、人の心を動かすような言葉を引き出したんだと思います。

一期一会の仕事であったとしても、その場その瞬間に、話したくなるような空気を作り出すのも、プロの技のひとつなんだな、って思った瞬間でした。

だからこそ、その時間に生まれた「信頼」や「誠実さ」を裏切ってはいけないよね。この「場」の空気も読者に届けたいよね。だから、気合い入れて構成して、いいインタビュー記事として仕上げたいよね。

で、このAさんの話、ホント掲載したかったよね…(涙)。

私にとっての「本当に届けたい人」は誰かな?

「届けたい人」を思い浮かべて曲を作ったからといって、「全員が必ず、絶対にうまくいくよ!」と言いたいわけではありません。それがアーティストにとって、本当に良い道なのかもわかりません。

しかし事実、このアーティストは、「届けたい人」を明確に思い浮かべて曲を作った結果、若年層の男性ファンが飛躍的に増えました。すでに彼らのキャリアは20年以上になりますが、今でも息の長い人気を誇っています。

当時、それは急な路線変更だったので、インディーズ時代から応援していたコアな女性ファン(私を含め)は混乱し、まるで潮が引くように去って行ってしまいました。「コアな女性ファンは良くないファンだ」というわけではありませんよ。たぶん、女性ファンが増えすぎてしまったロック・バンドがよく陥る悩みだったんじゃないかと思います。

思い切った結論を出すまでには、かなりの紆余曲折があったとお察しします。思い切った路線変更が功を奏した、まれなパターンといえるでしょう。それができたのも、地道に活動を続けるなかで「この人に届けたい!」と思う対象が明確になったからなのかもしれません。たぶん、ね。

人間は日々成長する生き物なので、変わることは悪いことではないと思います。もちろん、ずっと変わらず届けたい人に向けて発信し続けている人も。どこかの誰かをきっと感動させているはずです。

届けたい対象をはっきり設定すれば、「どういったものをどういう形で発信していけばいいか」が明確になります。発信しているものがわかりやすく整理されることで、「届けたいもの」がより多くの人に伝わっていくのではないでしょうか。

いいものを発信している自信があるのなら貫き通そう。

その他大勢の顔色なんて気にすることはないですよ。 

■伊豆在住フリーランス・ライター小林紀子

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こばやし・きこ/静岡県東部・伊豆(+箱根)取材2,000件突破!のフリーライターです。 プロフィールhttps://covanonwriting.themedia.jp/

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静岡県東部・伊豆(+箱根)を約10年間で2,000件以上取材して考えたことや体験したことを書いています。まだ地方で「専業のフリーライター」が珍しかった頃のお話しです。当面は、旧ブログからの転載になっております。

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