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イスラエルからmRNAワクチンの実世界での有効性が報告!(2月26日こびナビClubhouseまとめ)

木下喬弘
みなさんおはようございます。「こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース」、本日もやっていきたいと思います。
今日は論文の解説のようなことをやっていきたいと思います。
またいつも通り、私のツイッターのアカウントの固定ツイートのすぐ下のツイートに載せておりますので、本日の話題をもしご覧になられる方がいらっしゃいましたら、参考にしてください。

もう300名の方にお入りいただいております。毎朝ありがとうございます!
本日も文字起こしをお願いしておりますので、それにご同意いただける方のみご登壇いただければと思います。

今日解説する論文は昨日出たものなのですが、コロナワクチンのことに関心ある人でしたらかなり気になる論文かと思いますので、見ていきたいと思います。

(https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2101765)

みなさんご存じの通り、イスラエルではかなりの人数がコロナワクチンを接種していて、有効性がだいぶ証明されてきています。
イスラエルは全人口が900万人くらいいて、そのうち16歳未満などワクチン接種の対象にならない人が300万人くらいいます。差し引いた600万人ぐらいのコロナワクチン接種の適応のある人のうち、450万人くらいは初回を打ち終わっているそうです。
ですから、かなりコロナワクチンの接種が進んでいる国になります。
そうすると実世界で実際にワクチンを打ち始めた後のデータというのが出てきてまして、それがThe New England Journal of Medicine(以下:NEJM)という、医師なら誰でも知っている、世界で一番権威のある医学雑誌に論文として報告されたんですね。
NEJM の論文は、実はハーバード大学の医学部の図書館に編集室があるんです。そこで専門家が論文の審査を行って、論文として、研究として、非常に信頼性の高いものであると評価をされたものだけが出版されます。今回の論文も、かなり信頼性の高いデータとして、イスラエルで実世界での有効性が報告されたという話になります。

該当の論文↓
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2101765


今回の研究は、イスラエルで2020年12月20日から2021年2月1日までの期間にワクチンを打った人とそうでない人で、COVIDを発症した人の割合を比べています。ただし、ランダム化比較試験じゃないので、少し工夫がなされています。この詳細は、後の「方法」のところでお話しします。
結果的に、ワクチンを打った人596,618人を対象として、それと同数だけのワクチンを打っていない似たような特徴の人を見つけてきて、その人たちをずっと観察していったときに、どれくらい同じ期間の感染が減ったかを調べています。

今回のファイザーのワクチンは、1回目を接種してから21日後に2回目を接種します。それから7日後、つまり1回目を打ってから28日経ってから感染した人の割合がどれくらい変わったかというのを見ています。正確に言うと、1回目と2回目の間が21日の人もいれば、22日の人もいます。
つまり、2回目の接種が終わって、免疫を強化する効果が出た後の感染に対する有効性(ブースター効果)を見ていることになります。

さて、この研究では5つの効果を見ています。

まず1つ目は、「見つかったあらゆる感染」を防ぐ有効性で、これは92%だったと伝えられています。
どういう意味かといいますと、無症状の感染で見つかった人もいるし、症状が出て見つかった人もいることです。
今までも「無症状の感染に対する有効性」は、厳密にはデータとしてわかっていないという話をしていました。
この92%には無症状の感染も含まれるのですが、「感染を92%防ぐことができる」とまではまだ言い切れないんですね。
なぜかというと、定期的に全員に週1回とかでPCR検査をしていったわけじゃないので、無症状の感染が全部捕まえきれてないですし、完璧に「感染に対する有効性が92%ある」というデータではないということです。
「発症」と僕らはいつも呼んでいた、症状のある感染は94%減っていて、入院は87%、重症は92%減っています。
死亡に関しては、2回接種後7日以降の有効性のデータはまだ出ていません。初回の接種から21日から27日の間のデータは報告されていて、84%死亡が減っていました。
単純に考えて、さらに免疫が活性化されてくれば84%よりも高い数字が出るんじゃないかなと考えています。
以上がこの研究の全体像です。
治験は4万人規模で行いましたが、この研究は「ワクチン打った人」と「まだワクチンを打っていない似たような特徴の人」をそれぞれ60万人ずつ見つけ出してきてるもので、かなり大きい研究です。
どれだけ症状が出たか、感染したか、重症化したか、という比率を見ていって、どれも90%から95%くらいの有効性が証明されているという話になります。

次に、何故こんな試験をしないといけないのかというのを解説していきたいと思います。
そもそも第3相試験というのは、実験研究なんですよね。
すなわち、研究のデザインとしてかなりコントロールされています。
このような管理下におかれた研究と実世界での運用には、いくつか異なる点があるんです。
例えば、臨床試験であれば1回目を打ってから「キッチリ21日後」に2回目を打っているわけです。必ず21日後に打つというように、コントロールが効きやすいわけです。
しかし、実際の世界でやり始め、流通し始めると、ワクチンが足りなくて21日で打てなかった人とか、そもそも打ちに来なかった人とか、いろいろいるわけじゃないですか。
実際に国で運用した時にどれくらい有効か調べることは、完璧にコントロール下において行っている、承認申請のために行った4万人の試験とはまた違う価値があります。

もう一つは、非常に人数が多いので、それぞれの属性での有効性が見られることです。
例えば、男性の有効性、女性の有効性、イスラエルの研究なので、アラブ人での有効性とか、人種や性差などの有効性を見ることができます。
例えば、糖尿病の患者さんでの有効性については、糖尿病の患者さんが何万人もいる試験でないと、なかなか効果を確かめるのは難しいです。FDAの承認に使われた4万人の治験では、この辺りを完全に調べるというのはかなり厳しいんです。

今回の臨床研究の価値になるということをご理解いただいた上で、個別の属性における有効性がどのようなものだったかについて見ていきたいと思います。
今回の臨床研究では、「16歳以上でまだコロナにかかっていない人」約120万人が対象になっています。
また、今回の研究ではちょっとした工夫がなされています。
ランダム化比較試験でしたら、「今から研究に参加します」と言って来た人に、サイコロふって偶数だったらワクチン群、奇数だったらプラセボ群という感じで「ランダムに」割り振って、打った人と打ってない人の発症割合を比べていくので、総合的に見たら同じ程度の重症度、例えば似たような年齢のグループになるだろうと考えられます。
今回の研究では、例えば高齢者から打ち始めているとか、あるいは健康に対する関心の高い人から接種の希望があって打ち始めているとか、いろんな理由で、ワクチンを打ってる人と、ワクチン打っていない人の感染リスクか違うだろうというのがポイントです。
このように、ランダム化比較試験ではないので、ワクチンを先に打ちたいと思って来た人というのはどういう人か。まだワクチンを打っていない人と同じような特徴を持つ人なのかということを考えないといけないんです。
これが実世界で研究するときの一番の難しさなんですね。

先ほど申し上げた「工夫」とは、これを調整しているのです。
具体的にどういうことをやっているかというと、1人ワクチンを打った人を見つけてきて、その人を研究の中に入れるときに、その人とほぼ同じ年齢で、性別、人種、居住地域、過去5年間でインフルエンザのワクチンを打った回数、妊娠しているかどうか、そして持病の数が同じ人を見つけてきて、その人を研究対象に入れるということをやっているんですね。
要するに、ワクチン打った人とワクチン打ってない人の間で、感染のリスクや重症化のリスクが同じになるようにコントロールするために、ワクチン打った人と似た特徴を持つ人を、ワクチン打ってない人の中から1人見つけ出してきて、その人たちが感染したかどうか追跡するということをやっているんですね。

この研究が信頼性が高い雑誌に載ったと最初に説明しましたが、その一つの大きな理由は非常にうまく似たような人を見つけてきて、60万人対60万人という、かなり大規模な研究をやっているということです。
これは本当によく練り込まれた研究デザインなんです。

ただしそうすると、誰ともマッチしない人が出てくるんですよね。なので、一定数の患者さんは脱落しているわけです。つまり、ワクチンを打っているけど、似た人がいなかったので研究の対象には入っていないという人もいます。
あと、今回の研究では医療従事者は入っていないんです。医療従事者の中で、コロナ病棟で働いている人と医療事務さんでは、全然感染リスクが違うじゃないですか。しかし、医療従事者の中の細かい属性というのがデータの中にはなくて、「医療従事者」というだけでマッチさせてしまうと、その二人は全然感染のリスクが違うのに、同じ感染リスクのペアとして扱われるということになってしまうので、そういうややこしい人は除いているんです。他にも色々条件細かいところがあります。

かなり厳密に「似た人」を見つけるマッチングをやっているので、結果の信頼性は高いのですが、このように研究から除かれた人もいます。


次に今回の研究の結果を見ていきたいと思います。

まず最初に言いましたけれど、ワクチンを打った人と打っていない人が、感染のリスクが同じであるということ担保するというのがすごく大事なんですね。
この研究では、ワクチンを打った人と打っていない人で、「最初の12日間の発症」が殆ど同じであることを確認しています。

実は、年齢と性別しかマッチさせなかった場合、ワクチンを打っている人の方が最初の12日間の発症が少なかったんですよ。
つまり、ワクチンを打ちたいと思うような行動をとっている人というのは、例えば健康意識が高くて、元々コロナにかからないような生活をしていた人であったりするわけです。
ですから、年齢と性別だけ同じ人だけを比べても、ワクチンの効果というのはわからないんですね。
先ほども説明した通り、人種とか、過去5年のインフルエンザワクチン打った回数とか、そういうところまできっちりマッチさせることで、ようやく「最初の12日間の発症」がほぼ同じになったのです。
最初の12日間は発症した人の数に差がなくて、12日より後から徐々に差が開いてきているのを確認して、「これなら打った人と打ってない人の元々の感染リスクは同じですね」ということが確認できるので、ワクチンの効果を解析していこうということになります。

では、結果を見ていきたいと思います。

最初に簡単に説明したのですが、一番重要なところ、2回目のワクチン打ってから7日以降の感染や発症がどれくらい抑えられたかを見ていくと、全ての感染は92%減、症状のある感染は94%減、入院は87%、重症化は92%、死亡は、2回目から7日以降のデータはまだ無いんですけれど、その手前の21日から27日のところで84%減ったということになっています。
これが臨床試験でのデータとかなり近いということで、臨床試験がかなりいい研究デザインだったということ、今回の素晴らしい研究デザインで確認されたので、ワクチンの効果としてかなり確実性が高いものであるということがわかってきたということになります。

さらに追加で先ほど申しました、属性ごとの有効性というのも見ているんですね。
これがこの研究の一つのキーポイントになるので、一つずつ見ていきたいと思います。
数値だけ読み上げていきますと、男性は88%、女性は96%でした。
これがたまたまなのか、性別によって違うかどうかというのはちょっと議論が難しいところですけれど、とにかく解釈は一旦置いておいて数値だけ見ていきます。

16から39歳は99%、40から69歳は90%、70歳以上は98%と、実は高齢者でもかなり効くというデータになっています。
元々の基礎疾患が無い人での有効性が93%で、1つか2つの持病がある人は95%、3つ以上の持病がある人は89%というデータになっています。
この論文書いている人たちは「持病の数が増えると効果はちょっと減るかもね」ということを言っています。ただし、それでも89%の有効性があります。
肥満の人では98%、糖尿病のある人は91%でした。
実は他の研究で糖尿病のある人にはちょっと効きにくいというデータが出ていたんですけど、あんまり極端な差はなくて、約91%の有効性でした。
高血圧がある人での有効性は95%になっております。

さあ、この辺りまで解説しまして、大体この臨床試験の概要がご説明できたかなと思います。
このようなデータが出ていまして、いくつかキーポイントがあります。
今回のワクチンについて皆さん是非ご注意いただきたいのは、一回目ワクチン打ってから、すぐに感染から守られるわけでは全くないということです。そもそも最初の12日間ワクチン打った人と打ってない人が同じぐらいのスピードで発症していくというくらいまでマッチしたことを確認して、「これは打った人と打ってない人の感染リスク、同じですね」という話をしているわけです。つまり、一回目のワクチンを打ってすぐに「自分は守られている」と考えるのはかなりの誤解であるということをご理解いただきたいなと思います。
そして、今回の研究で実際の運用を開始してからの有効性を確かめたところ、理想的な条件下で行われた治験で確認された”95%”にかなり近く、現実の世界での有効性が証明されたという話になるかなと思います。

さて、もう25分僕がずっと喋り続けて結構疲れましたけど、ようやく登壇いただいている先生方にご意見をいただきたいと思います。
安川先生お願いします。

安川康介
木下先生も言っていたことなんですけれども、今までワクチンのランダム化比較試験における有効性、英語だとefficacyになるんですが、これはかなり高いということがわかっていました。
今回の論文では、effectivenessといって、より現実的な実社会の中での有効性を検討した一番大きな情報だと思います。
今回の”effectiveness”は、”efficacy”に近いもので、少なくとも2回打った後の効果というのはかなり実際の臨床試験に近かったので、これはすごくいい結果だと思います。
一方で、前々回のこびナビの clubhouse では、「1回接種でよいのか、2回受けた方がよいのか」という議論がありましたよね。
今までのいくつかの報告で、1回打った後14日から20日までの発症予防効果はかなり高いことが報告されていて、例えばファイザーの臨床試験だと、90%以上ありました。
(参考:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2036242)
しかし、今回の研究では57%の有効性と報告されています。

イスラエルという、感染がかなり流行している地域と時期で行われていたということもありますが、短期的な効果に関しても、やはり2回の方が1回よりも良いということがこの研究からいえるのではないかと思います。

木下喬弘
確かに今回の研究では、14日から20日までの効果が57%と報告されていますね。
安川先生のおっしゃる通りで、2回打ちのプロトコルで治験が行われ、実世界の運用も2回打ちで確認しているのに、1回打ちでの有効性というのを議論することそのものがかなり難しいと思います。短期的な有効性が何%であろうと、1回でいいよと言うのはかなり無理のある結論かなと思います。

すいません安川先生、途中で切ってしまいました。

安川康介
あと、やはり驚いたのは、今回の研究は120万人くらいのデータを解析しているわけなんですね。
クラリットというイスラエルの保健機構に、国民の53%の健康データを蓄積するシステムがあって、これは本当に凄いなと思いました。
今回の研究ではワクチンを受けた人と受けていない人の間で、医療機関に受診する行動を揃えるために、過去5年間に何回インフルエンザのワクチンを受けたかということまで調整していたりするのですが、こういうところは凄く驚かされました。
このようなデータ、体制があると、国民の健康に役立つ臨床試験というのが凄く行いやすいなと思いました。

木下喬弘
本当に仰る通りで、この研究はデザインが秀逸ですよね。
僕がまさにハーバードで授業を受けていたミゲル・ヘルナン (Miguel A. Hernán) という人が著者の一人に入っているんですね。
彼はこういう観察研究のデータから因果関係を推測する世界の第一人者で、本当によくできたデザインの研究だなと思いました。

また、データがないとこういう研究は出来ないということも重要です。
おそらく日本人だと過去5年間でインフルエンザのワクチンを何回打っているかという大規模なデータはないので、同じことは出来ないんですよね。
方法論的を理解していても、データが無いと解析はできないので、ご指摘の通り、データを集めるって凄く大事だなと常々思っています。

他の登壇者の方、何か…池田先生どうぞ。

池田早希
アメリカで小児感染症科医として働いている池田です。
この論文のためのデータを抽出した時に、イスラエルでは全体の80%を「B.1.1.7」というイギリスで見つかった変異ウイルスが占めていたんですよね。
今はもうイスラエルでは殆どがB.1.1.7ウイルスのようですが、その中でワクチンの effectiveness が分かったというのは、凄いことだなと思いました。

木下喬弘
ありがとうございます。もう一度補足させていただきますと、今回世界中で話題になっている変異ウイルスには3つのタイプがあって、イギリスで最初に見つかったものと、南アフリカで見つかったもの、ブラジルで見つかったものがあります。
今イスラエルの国内で流行っているのは、イギリスで見つかったB.1.1.7という変異ウイルスです。
このイギリスでの変異ウイルスに対するワクチンの有効性が92%と、アメリカでの最初の研究と同じような数値が出てきたことはすごくハッピーなことですね。
ただし、南アフリカの変異ウイルスはワクチンの効きが少し悪いんじゃないかという話が出ています。
イスラエルにはまだあまり入ってきていないので、今回の研究から南アフリカの変異ウイルスに対する効果はわからないですね。

池田先生ありがとうございました。
他、皆さんどうでしょうか。

黒川友哉
よろしいですか。

木下喬弘
はいお願いします。

黒川友哉
皆さんおはようございます。こびナビの事務局長をやっています、黑川と申します。
普段臨床試験の立案とか運用をやっている立場から見たときに、イスラエルで実際に使ったときの効果が論文として出て、治験の結果が再現されるって本当に素晴らしいことだと思うんですよね。
今回ワクチンを打った人60万人と、打っていない人60万人での結果と、治験で調べられたワクチンを打った人2万人と打っていない人2万人で比較した結果が、非常に類似しているということが、私にとって感動ポイントでした。
あと、この論文ではsupplemental figureといって、補足で付けている図表まで見ると、無症候性感染だけの有効性、効果というのを見たときに、およそ90%という数字が出ていると思うんですね。ここから、やはり感染を抑える力もかなり高いということが言えるんじゃないかなと思います。
もちろん、ワクチン打ったらすぐにマスクを外していいというわけではありません。ただ、このワクチンが今までの日常を取り戻すために、非常に期待の持てるものだということが、今回の論文で改めて証明されたのかなと思っています。

ところで、今回の論文で有害事象のことって書かれていなかったですかね。

木下喬弘
書かれていないですね。

黒川友哉
「有害事象のこと、書かれてないじゃん」ていう文句を言う人がいるかもしれません。
実社会でかなり多くの人数、数千万人とか見たときに、初めて出てくるような副反応もあり得るので、それは引き続き見ていく必要があると思います。
それと同時に、これまでのデータで「かなり安全性が高い」ということもわかっています。
もちろん副反応が出るのは知られているんですけれど、お薬等でちゃんと対処できる範囲内ですよということが示されていますよね。
総合的に見ると、このワクチンは世界を救うという可能性を、改めてここで判断してもいいんじゃないかなと思いました。以上です。

木下喬弘
はい、黑川先生ありがとうございます。
3つ論点ありましたのでまとめさせていただきたいと思います。

1つめが、ランダム化比較試験で確認されているもの、すなわちFDAの承認申請に使われた4万人の治験で確認されていた効果が今回実世界で確認されたということです。
「同じ結果なんだったら何も凄くないのでは?」と思う人もいらっしゃると思うんですが、これは全然そんなことはなくて、ランダム化比較試験で効くとされていた治療が実際に使ってみたら全然効かないことは結構ありますし、逆はもっと良くあるんですね。
理想的な環境下であるランダム化比較試験で示された効果が、実際の運用で確認されるかどうかというのは、やってみるまでわからないということです。
今回それが確認できて、「ああ、本当に95%に近いくらい効くんだ」というのが私たちの感想だということです。

2つ目は、無症状の感染に対して90%くらい効果があるというデータが確かに出ています。
ただ、これ少し注意が必要で、ワクチンを打った人は、打っていない人に比べて、無症状の時にPCR検査を受ける頻度が少ないということが指摘されているんですね。
つまり、ワクチン打った後に濃厚接触者になって、症状が無かった場合、わざわざPCR検査受けに行くかっていうと、あんま受けてないんじゃないかっていうことが言われているんです。そうすると、ワクチン打った人の中では、無症状で感染している人がちょっと少なめに見積もられているということになります。
ただし、感染自体を抑える効果が0%ということはまずあり得ないです。では、これが90%なのか、それとも80%なのかというのは、これから調べる必要があるということになると思います。

最後に副反応に関してです。今回は有効性を検討するために研究をやっているので、副反応については報告されていません。
しかし、今回のワクチンは安全性に関しても様々な方法で確認されています。
こびナビのホームページを見ていただければ、より知識が深まるかなと思います。

安川康介
先ほどの無症状の感染に関してなんですけれども、感染が確認されたが症状が記載されていなかった方が一応無症状として扱うことにこの論文ではなっているので、そこは注意が必要かなとは思います。

木下喬弘
ありがとうございます、ご指摘の通りです。本当のことを言うと、無症状の感染ってわからないんですよね。

僕たちはPCR検査までしかできないので、「PCR検査は陰性でも感染している」という人が現実にはあり得えます。
そういうことまで考えていくと、本当に感染性を抑えるかどうかは、イスラエルで集団免疫が達成されるかを見るまでわからないということになります。
峰先生お願いします。

峰宗太郎
あ!えーっと、突然ふられて笑

僕がちょっと注目しているのは、これから先どういうデータが出てくる余地があるかということです。
つまりですね、今回の研究は、効果について文句を付ける人がほとんどいないぐらい、実世界で証明された論文であると言っていいと思うんですよ。
ここがある一定のマイルストーンで、ここから先出てくるデータが何かっていうことを皆さんとお話しできたらいいなと思っています。

まず一つは、集団免疫効果ですよね。
集団免疫効果というのは、今までの試験とは違って、ワクチンを打ってない人にまで効果が出たかというのを見ていくんですよね。つまり間接的な効果を見るということになります。
直接的でない効果を見るのは、研究デザインが凄く難しくなってくるんですけど、そこを今後はイスラエルのデータから注目したいですよね。

木下喬弘
仰る通りですね。ありがとうございます。

峰宗太郎
それからもう1つは、別の臨床試験が実際に走っていますので、妊婦さんへの効果と安全性にも注目したいですよね。あと、お子さんですよね。今日モデルナから「研究対象を若い方にまで広げる」という発表がありましたけれども、お子さんにどれくらい効果があって、安全かということに注目すべきだと思います。

この3つが特に大事かなと私は思っていて、4つめはですね、やはり大量の人に打った後に出てくる超まれな副反応ですよね。
これがちゃんと検出されるかどうか注目する必要があるんですけれども、これだけの人数に打っていますので、ある程度安全と言い切っていい方にふれてしまっているわけです。
そう考えると、ここからは再現性をとっていくという話なんですよね。このイスラエルのデータが、他の国でもそうだったよーだとか、もうちょっと違う集団でもこうだったよーとかいうことがわかってくると思うので、今後出てくるデータをディスカッションしていけると楽しいですよね。

木下喬弘
ありがとうございます。やはりみんな気になるのは集団免疫と、ご指摘いただいた妊婦さんの安全性ですね。妊婦さんを対象にした臨床試験も行われています。
子供については、ファイザーもモデルナも、既に12から15歳を対象にした臨床試験をやっています。実は、12~17歳って、5歳から11歳に比べて、倍くらい感染が多いということがわかっているんですね。
(https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6939e2.htm)
私はこれで終わりだと思っていたんですが、なんとモデルナが6ヵ月から11歳までの試験も計画しているということで、この会社は本気でコロナを撲滅しにいってるんだなと思いましたね。
(https://www.nytimes.com/2021/02/12/health/covid-vaccines-children.html)

あと、峰先生に教えていただいたように、本当にまれな副反応っていうのが出てくるのかどうかってことは当然チェックしていかなければならないですし、そういった結果も出てくるでしょう。
また、南アフリカの変異ウイルスに対する有効性というのは恐らく話題になってきて、これはいい臨床研究が組めるかどうかというのがわからないですけど、できれば知りたいデータかなと思っております。
今後まだ少し研究の余地はあるところが残っていると思いますので、こういったことも順次みなさんにお伝えできればと思っております。

ようやく疫学研究の出番が来たっていうことで、40分くらい喋ってしまいました。
実世界での研究結果で、第3相試験とかなり似ている結果が出たというニュースをお伝えさせていただきました。本日はここまでにさせていただこうと思います。

このルームのタイトルにある通り「こびナビ」という啓発プロジェクトを運営しております。Twitter、Facebook、Instagramで「こびナビ」と検索していただきますと、オレンジと水色のアイコンのアカウントが出てきます。これからも最新情報をお伝えしていきますので、是非フォローしていただければと思います。また、今週は非医療従事者の皆さんにわかりやすいQ&Aということで、かなり大がかりなものを安川先生を中心に作成しました。来週は峰先生の新規企画も考えていますので、みなさま是非ご期待いただければと思います。

ということで、今日はNEJMに掲載されたイスラエルの実世界でのワクチンの有効性の論文をご紹介しました。お付き合いいただいた方、どうもありがとうございました。それでは皆さんよい一日をお過ごし下さい!

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