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【音楽×本 鑑賞録】"366日の西洋音楽" 1月28日~リヒャルト・シュトラウス 交響詩『英雄の生涯』

音楽観を鍛える鑑賞録。
1月28日 本日のテーマは、
【謎】
とりあげる作品は、
リヒャルト・シュトラウス /
交響詩『英雄の生涯』

です。

いますぐ聴きたくなる! 1日1ページでわかるクラシック音楽の魅力
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本書には、いまでも多くの人に愛好されているクラシック音楽の名曲の数々を、より深く楽しむための知識や情報を盛り込みました。366の名曲を、「音楽史」「主題」「ジャンル」「逸話」「作曲・演奏」「周辺」「謎」といった7つの共通テーマで考察・解析・推理・解説します。

リヒャルト・シュトラウスが作曲した7つの交響詩のうち、最後の作品。
1898年に作曲。ベートーヴェンの『交響曲』第3番「英雄」をしっかり意識してつくった難曲です。

構成は、
"Der Held" (The Hero/英雄)
"Des Helden Widersacher" (The Hero's Adversaries/英雄の敵)
"Des Helden Gefährtin" (The Hero's Companion/英雄の伴侶)
"Des Helden Walstatt" (The Hero at Battle/英雄の戦場)
"Des Helden Friedenswerke" (The Hero's Works of Peace/英雄の業績)
"Des Helden Weltflucht und Vollendung" (The Hero's Retirement from this World and Completion/英雄の隠遁と完成)
という6部。演奏時間は約45分。演奏するには105名から成る4管編成のオーケストラが必要で、オーケストレーションが頂点に達している曲とも言われています。これは、オーケストラの実力が試される曲としても有名だそう。

いくつか映像を観ながら聴いてみましたが、たしかにこれはエグい。
各々のタイミングを見計らうような絶妙な間合いが随所にあり、大所帯編成というのに、ひとりでもズレたらはっきり分かってしまう。
そしてコンサートマスターのヴァイオリンソロがやばい。
あの大所帯のなか、ソロパートと伴奏との併奏を繰り返す。
観た映像はトップオブトップのものであるし、手軽に観れるということは、それだけのクオリティが担保されているオーケストラだろうから、観ていてなんの違和感もないけれど、それでもビジビシと緊張感は伝わってきます。
晴れ舞台で弾くまでに経た年月と人間関係の構築物として、芸術の最高峰を観ているような崇高さがあります。

この楽曲をつくったとき、シュトラウスは34歳。
気概もイケイケでなければ、このような"Tondichtung für großes Orchester” (大管弦楽のための交響詩)という物言いもできないでしょうし、「英雄」と一口には言えないまでも、自信がなければこんな大それた曲はできない。

本人の言は、

"I'm no hero; I haven't got the necessary strength; I'm not made for battle; I much prefer to go into retreat, to be peaceful and to rest. I haven't enough genius."
「私は英雄ではない。必要な強さがない。私は戦いのためにできていないからね。むしろ静養を好み、平和で休息が好きだ。十分な才もないしね。」
Richard Strauss: A Critical Commentary on His Life and Works (Volume I)より抜粋

と述べているようですが、この「英雄の生涯」を描き切るための、作曲家としての「英雄気質」はあったのだと思います。

あらゆる点で波乱を巻き起こしながらも、この気概があったおかげで100年経っても残る一大スペクタクルの楽曲がある。
「世間になんと言われようと、オレはすごいものをつくるんだ!」という自意識は見習いたい側面がありますね。

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