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【音楽×本 鑑賞録】"366日の西洋音楽" 1月16日~リヒャルト・シュトラウス 交響詩『ドン・ファン』

音楽観を鍛える鑑賞録。
1月16日 本日のテーマは、
【主題】西洋音楽のテーマとなる宗教や神話、物語のあらすじを解説。
とりあげる作品は、
リヒャルト・シュトラウス /
交響詩『ドン・ファン』
です。

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昨日は交響詩創案者のリスト「オルフェウス」をとりあげましたが、今日はリヒャルト・シュトラウス。オルフェウスから34年後、1888年に放つ17世紀スペインの伝説的な「色事師」"ドン・ファン"をモチーフにした楽曲です。

せっかくなので、この機会に"ドン・ファン"とはどのような物語だったのかを調べてみたところ、
ドン・ファンはいわゆるプレイボーイな伝説的貴族の設定。
貴族ドン・フェルナンドの娘を誘惑したところ、その場を見られてしまい、殺害。のちに墓場の前でドン・ファンはドン・フェルナンドの石像に冗談で宴会に招いたところ、幽霊になって現れ、ドン・ファンは地獄に引きずり落とされるというようなストーリーです。
ですが、元となったニコラウス・レーナウの叙事詩では、ドン・ファンは、完璧な愛を実現してくれる女性を見つけるために放蕩を繰り返していた。上記の事件を経て、殺害されたドン・フェルナンドの息子ドン・ペドロと決闘。ドン・ファン優勢だったが、厭世的になっていたドン・ファンは剣を捨て、そのまま刺されて息絶えるというものだそうです。

"Waseda Symphony Orchestra TOKYO R.シュトラウス/交響詩「ドン・ファン」概要より"

この改変はどうして行われたのかと、情報抜きに考えてみると、
エンタメ的には、調子にのっている色男が冒涜に走り、しっかり懲らしめられてスッキリ!という内容にしたかったのではないか、と。
寓話の世界では、改変はよくあることですが、原作はなかなかに考えさせられるストーリーです。
「なんでも手に入れ、快楽を追い続けても、満足することはできない。」
なんか釈迦っぽいと思いましたが、ドン・ファンはこの現実に絶望してしまう。
時代的にも世の中の不条理さを直視してしまえば、多くの人びとが希望を失ってしまう。たしかに、色男の天国から地獄へ落ちる物語を笑っていたほうが気がラクだったことでしょう。

リヒャルト・シュトラウスは、レーナウの叙事詩のメッセージと向き合えるよう、交響詩として表現することで、大事なことを伝えられるようにしたかったのではないか、と思います。
"薪は尽きたり、炉辺は寒く暗くなれり。"
この詩の部分の表現は、聴けば感じられます。
そしてアートは、感じた「先」があります。
鑑賞が終わり、日常に戻ってもなお、心に宿る音がリマインドする。

薪は尽きた。炉辺は寒く暗くなった。
それで?(So What?)

笑って済ませられないことに向き合うには時間も根気も必要です。
しかしながら、
"あなたが人生に絶望しようとも、人生があなたに絶望することはない。何かや誰かのためにできることがきっとある。時があなたを待っている。"
(ヴィクトール・E・フランクル)

わたしたちは、絶望を克服してきた人びとのことも知っています。
音楽を聴いて、いまを気づくことができる。
そしてその音を胸に、未来に向かって少しずつでも行動していきましょう。

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