Razorlight / Olympus Sleeping (2018) 感想

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あの人は今

 2000年代はイギリスでインディーロックが華やかなりし時代でした。しかしその先駆けThe Libertinesの歌詞にあるようにシーンとはいつか消えていくもので当時のバンド達の多くは人気が落ちていき、活動休止や解散を余儀なくされました。

 このRazorlightは数あるそれらバンドの中でも当時のJohnny Borrell(Vo./Gt.)のビッグマウスとハリウッド女優とのスキャンダル、全身白のコーデといった派手なイメージから最もあの人は今、的なネタにされやすい存在になっているようです。イギリスだけで100万枚以上の売り上げを記録した2006年の2nd「Razorlight」をピークに2008年の3rd「Slipway Fires」以降徐々に人気は下降線を辿り、2013年のJohnnyソロ作「Borrell 1」は発売初週に594枚しか売れなかったことがニュースになりました。因みにソロではバンドとは全く違うジプシー音楽的な路線を追求しており、私はなかなかに好きです。新しい音楽に取り組んが影響か、歌が各段に上手くなっています。

 バンドとしてはたまに受けるインタビューでアルバムを作っているとは言うものの3rdを最後にリリースされる気配はなく、数年おきにフェスに少し出る程度でしたが、出る度にJohnny以外のメンバーが変わっていたり(しかもそこで披露される新曲がなんともキレがない)と大丈夫なんかな、という状態が続いていましたが、2018年に10年振りの4枚目となる今作がリリースされました。メンバーは何度目かの総とっかえを経ており、2nd・3rdではジャケットの写真に写っているメンバーはもうJohnny以外いません。

ロックンロールへのラブレター

 今作発売当時、Johnnyは今作を「ロックンロールへのラブレター」と説明していました。冒頭はAdam Greenによる短いナレーション。アダムグリーン、な、懐かしい…と思っていると"Got To Let The Good Times Back Into Your Life"のポップなベースとドラムが始まり、上の説明通りそこには2000年代前半、ガレージリバイバル!ロックンロール!な世界が広がっています。クランチ気味のギター、跳ねるリズム、そしてJohnnyの声…あの時代に多感な時期を過ごした人間には抗いようなく、全面降伏するしかありません。

 このバンドはアルバムを重ねるごとにソングライティングと音が洗練されていき、3rdは完全にJohnnyとバックバンドという趣で、来日公演をビルボード東京とかでやりそうな落ち着いた歌の作品でした(私は好きで今でもよく聴きます)。

 そんな前作が受けが悪かった反省からか今作にはミドルテンポの曲が一切なく、全編アップテンポなロックンロール・ガレージパンクで埋め尽くされています。"Good Night"というRazorlight史上1ハードコアな曲も。それでも聴いていて疲れないのはJohnnyの情感豊かな歌とメロディーのおかげでしょう。今作では3rd以降~ソロの経験で表現豊かになった歌唱をガレージサウンドに乗せて、原点回帰と同時に10年間の成長を見せつけることに成功した作品という印象です。

 しかしながら、彼らと言えば代表曲は"America"、"Golden Touch"といったバラードであることも確かで、やはりそう言った曲も聴きたかったとは思います。また今作の曲群は平均点こそ高めに安定していると思いますが、今後代表曲になるような曲があるかと言われると、そうは思えません。ロックバンドが少なくなった2018年のイギリスにおいて今作でRazorlightが華々しく最前線に復帰するという類の作品ではなく、あくまでも私のような当時からの根強いファンがこれだよこれ!とひっそりと愛する、正しい復活アルバムでと言えるしょう(事実、チャート的にはギリギリTop 30という少し寂しい結果に終わってしまいました)。

おススメ曲

その1:10. Olympus Sleeping

今作のタイトルトラックであり、アルバムのハイライトです。サビの「♪ユネバシュドゥゴーバッホ~ム」とブレイクの「♪ダムディバニティ~~~ャッッ!」は今作の真似して歌いたくなる箇所トップ2です。

その2:6. Japanrock

これぞ!な1stに入っていてもおかしくなさそうなガレージロック。派手すぎない感じが当時の雰囲気そのままです。早口でまくし立てるサビもギターソロに入る前のフォーウ!もかっこよくて否応なしにテンションがあがります。日本人としてはタイトルの日本ロックも気になるところですが、歌詞を読んでも意味はよくわかりませんでした。

その3:5. Carry Yourself

今作の正式なリードトラック。本当に、Franz Ferdinandとかが全盛だったあの時代に連れ戻されたような気分になる曲です。ひたすらメンバーが積み重なるMVのダサさも熱い。

点数

7.0

物足りない部分はあるものの、復活作として往年のファンは十分すぎるほど満足できる作品です。

 ところで、今作発売当時のインタビューでは新しいメンバーとのセッションを通じてまたRazorlightとしてやる気が出た、というようなことを語っていたJohnnyですが、最近またメンバーが総入れ替えになったようです。ギターにはオリジナルかつ全盛期のメンバーのBjörn Ågrenが復帰して、今年に入り新曲"Burn, Camden, Burn"(といよりBjörn脱退前に作っていた2009年の未発表曲らしいです)が公開されました。

 ギターが印象的なこの曲を聴くまで気づかなかったのですが、今作で物足りなく感じた要素の一つに、3rdに引き続きまたもや「バンド感の薄さ」もあったことに気づきました。今作ではギター、ベース、ドラム全てにおいて印象的なフレーズがほとんどなく、やはりJohnnyとバックバンド感が拭えないのです...。印象に残るのは"Olympus Sleeping"のサビ後のベースラインくらいでしょうか。歌のアルバムであった3rdと異なり全編がガレージパンク然としているためにこれは結構いただけませんが、クレジットを見るとレコーディングにフル参加した(当時の)新メンバーは1人しかいないようなのでしょうがないのかもしれません。

 逆に言うと、今作でバンド活動のカンを取り戻したはずですのでBjörn復帰、さらにRazorlight史上初のキーボードかつ女性メンバーReni Lane加入を経た次作が途中でメンバー交代をせずに出ることを祈っています。


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