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12章:The First Diet for Lifeを実現するために

The First Diet for Lifeについて考える

本書の冒頭で、母乳や授乳に関係する課題を、社会課題と捉え、母子に閉じた課題にするのではなく、男性も社会も巻き込んで解決すべき課題であると述べました。私たちはこの課題を社会で考えようとすると、「母乳」という言葉が障壁になっていると考えたので、「The First Dirt for Life」という言葉と、人生最初の食事について考えるという命題を示しました。その命題について考えるため、本書を通じて現時点で私たちが捉えている課題を社会科学と自然科学の両面から多くの人たちを巻き込んで議論できるように整理しました。
今後は、概念だけで終わるのではなく、「The First Diet for Life」をより良いものにするためにどうすれば良いかを具体化する必要があります。そのためには何をしなければならないかを整理して、本書を終わりたいと思います。。

1)経験をデータ化し、層別化することで、その時の条件を考える
子育てに関する情報は、経験に基づくものが多く、その状況、状況によって前提が変わるため、他人の経験がそのまま自分たちに当てはまるとは限りません。だからといって他人の経験が全て間違い、使えないかというと、そうでもありません。大切なことはどんな条件で、その考え方や方法が適切なのかを層別化することだと考えています。そのためには、状況を可視化し、評価できる状況を作る必要があります。デジタル社会によって、それが実現しやすい環境になってきています。しかしながら、子育てや医療という分野は、これまであまりデジタル化が進んでいなかったので、まずは様々なタイプのデータを取得し、効果を検証することから始める必要があります。
また育児を女性だけでなく、男性もする時代、赤ちゃんの健康を考えるとき、赤ちゃんの食事について男性も考えることは自然な流れです。だから、授乳について女性の感覚だけに依存するのではなく、メカニズムを科学的に理解し、科学的な方法で評価できる仕組みが重要になると考えています。赤ちゃんのことを思う気持ちは、女性も男性も変わりません。真剣に赤ちゃんの健康を考えたThe First Diet for Lifeを、どのように実現するかを考えるためには、サイエンスという視点が必要になります。
精緻なデータよりもお母さんの気持ちに寄り添う必要があります。
いろんなセンサーデバイスやアプリケーションの普及により、精緻なデータを簡単にかつ大量に取得することができるようになりました。またいろんなことを知りたいというサービス提供者の欲求から、データ提供者に対してたくさんのデータを提供することを求めがちです。子育て中のお母さんたちに、同じようにそれを求めることには疑問があります。ただでさえ、初めて子育ては不安なことだらけで、常に緊張状態であり、目の前の赤ちゃんの対応が最優先であるので、データを収集して何かを知るということは優先順位としては低位になるからです。その低位なことに必死になっても本末転倒だと思うからです。だから、何かお母さんにデータを提供してもらう時は、必要最小限に抑え、最大の効果を得る方法を模索する必要があります。

2)本能を信じる
ヒトも哺乳類であり、動物です。ヒトだけが特別な存在ではありません。
特に、出産という行動は、ヒトが別のヒトを生み出すという行為であり、非常に神秘的で、不思議なことばかりです。そして本書でも胎児の成長について説明した通り、最初は1つの細胞から体がだんだんと出来上がっていき、外部での生活ができるようになった時点で、お腹から出てきますが、他の動物に比べてヒトは時間をかけて自立するように作られています。赤ちゃんが持つ本能を信じて、自然に任せてみるということも大事だと思います。また、大人は外部からの情報で知識を得るために、「◯◯すべき」「〇〇しなければならない」などということに、気がいきがちですが、小さな赤ちゃんが愛おしく思えば、自然に抱っこしたくなるし、頭で考えずに、自然にスキンシップをどんどんして、自分が感じることを大事にすればよいと思います。

3)ゼロベースで考える
本書で「母乳」という言葉が出てきた背景を紹介しましたが、過去からずっとあった言葉ではありません。その言葉が出てきた背景を考えると、社会環境の影響が多く作用していることがわかったのではないでしょうか。
育児に関するさまざまな考え方や方法はきっちりとしたエビデンスと再現性が確保されたものは少なく、ほとんどが経験によるものから派生したものです。知らず知らずにそれはあたかもずっと存在し、みんなそう考えているという勝手な思い込みが、目の前の現実とのギャップとなり、呪いをかけられ、悩む原因となっています。
今、工業社会から情報社会へ変化し、人々のライフスタイルやワークスタイも変化しています。新しい社会環境における前提をもとに新しい考え方を創る時期であり、転換点だと思います。だから私たちは、過去の社会環境をベースにできたいろいろな考え方や呪縛を一度リセットし、ゼロベースで考える好機だと思っています。

4)必要なものは新しく作ればよい
育児がはじまると、自分の思う通りにならないことがたくさんあり、いろんな不満や不足しているものが気になります。ただその不満や不足を嘆くだけではなく、自分たちで解決する方法を考えて、作ればよいと思っています。なぜなら、何かを新しく作るための手段が多様化しているし、ネットの普及で共感や協力を得ることが簡単になったからです。またビジネスやサービスがデジタル化することで、ニーズに合わせたサービスを簡単に作れるようになってきています。これはリアルだけのビジネスで他社と協業しようとすると、いろいろ大変でしたが、デジタルであれば簡単に他社のサービスと連携することが可能になります。多様なニーズに対して、フレキシブルに対応することが求められる時代であるので、自分たちが必要なものは自分たちで作ればよいと考えています。
私たちは、多くのお母さんたちが母乳の状態を気にして悩んでいるという課題に対して、健康かどうかを評価する仕組みを作ろうと取り組んでいます。きっかけは現代の医療では母乳の状態を評価する基準がないため、医療では評価することができないことを知ったからです。そして、自分たちでアカデミアの協力を得て、その基準を作り、評価できるようにしようと活動を始めました。
母乳の状態をデータだけに注目するのではなく、お母さんが気になるという感覚を大事にしたいと考えているので、母乳だけでなく、お母さんたちのライフログのデータも集めながら、感覚をデータ化することでいろいろな関係を紐解き、基準値を作り、将来は評価できる仕組みを作り上げたいと考えています。
そのような基準ができれば、現代のお母さんたちが感覚的に漠然とした不安から悩んでいることが、未来のお母さんたちは基準とのギャップを見ることができ、感覚的な漠然とした不安で悩むことがなくなることを期待しています。

5)社会で考える
子育てを、家族さらには母子だけで考えるようになったのは直近の100年くらいの話です。それ以前の大昔から人は社会(コミュニティ)で子育てを考えていて、社会で子育てを支援し、子育てを支援するネットワークが存在していました。それがいつの間にかネットワークが希薄化し、さらには子どもの数が減少してきたことで、子どもの時に自分よりも小さい子どもの世話をする経験や誰かが世話をしていることをみる経験がなくなり、自分が親になった時に初めて子育てを経験する人が増えていることで、現代社会の様々な課題を引き起こしています。これを解決する方法の1つが、子育てに関する教育を年齢にあった内容で小さい時から段階的に行うことが必要と考えています。またもう1つは、子育てに関する課題や悩みを専門家とコミュニケーションが取れるネットワークを創出することであると考えています。そしてその専門家は経験だけに依存するのではなく、データを蓄積することで、科学的にアウトカムを検証し、タイプ別に対応ができるようにする仕組みを作り上げることで、より不安や悩みの少ない、楽しい子育てが実現できるようになると考えています。

The First Diet for Lifeを考える意義

The First Diet for Life、人生最初の食事をテーマに、私たちはそのデータを解析し、データを分析することをビジネスにしようとしています。このデータは現時点の状態を評価するためだけに活用するのではなく、その母乳を飲んで育った赤ちゃんがその後どのように成長していくのかを追跡することも重要なことで、新たな発見や課題解決のきっかけになる可能性が多いにあるだろうと考えています。そのためには、中長期にお母さんやお父さん、子どもと良好な関係を築く必要があります。これを実現するためには、いろいろな人たちとのコラボレーションがポイントとなるます。

是非、私たちの考えやコンセプトに共感頂いた方がいれば、ご連絡下さい。
コラボレーションしながら、現場で試行錯誤して、社会課題を一緒に解決していきたいと考えているので。

最後に、私たちは母乳や授乳に関する課題をビジネスとして解決しようと考えているので、短期的な収益も大事だということは理解していますが、それ以上に自分たちがその課題に気づいたのだから、ライフワークとして活動を継続することが、社会にとって中長期的に重要であると勝手に使命感なるものを感じていたりします。

だから、私たちも従来のビジネスモデルや考え方に縛られずに、新しいタイプのビジネスモルとして作りあげる必要があるのだろうと考えています。

参考文献

(書籍)
森臨太郎、森亨子「ほんとに確かなことから考える妊娠・出産の話 コクランレビューからひもとく」医学書院(2018)

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