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「粉砕。そして新たな生きがい。」

さかのぼること約8年前。
今までブログなどでは一切語らなかった事実があります。
( 今回の記事には生々しい表現があります。苦手な方はこの記事は読み飛ばしてください。 )

僕がコスモテックに入社して一番つらかった出来事。
それは、まぎれもなく 『 箔押しの匠 佐藤勇の片手の指が、箔押し機で粉砕された日 』 のことです。

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この出来事は、僕が死ぬまで忘れられないし、忘れてはならないことです。

当時使用していた古い箔押し機には安全装置がなく、一枚一枚の紙を手作業で機械にセットし、ペダルを踏むことで、セットされた熱々の金属版が上下して箔を紙に熱圧着させていました。何トンという圧がかかります。

匠の片手の指は一瞬で粉砕。あっという間の出来事でした。
匠は救急車で運ばれ、そのまま手術、長期入院です。
今でも忘れられない言葉は 「 情けない。みっともない。 」「 お客さんに迷惑かけられねぇ。 」 の言葉しか匠から出てこなかったこと。

「 この人は自分の身に起こったことを理解しているのか? 」
「 こんな中でも自分よりも仕事やお客さんを案ずるのか? 」
と驚かされました。

匠の希望により、事故のことは周囲へは伏せることになりました。
匠は長期休暇を取っているということにして、残された作業に没頭しました。溢れた現場仕事は休日も出勤して、箔押し機の調整だけは職人にしてもらい、全く経験のない僕まで一枚一枚箔押し加工することさえありました。たった一人の匠が抜けた穴はあまりにも大きく、猫の手も借りたい日々でした。

やはり慣れない仕事ですし、作業スピードも遅く、匠の事故が頭をよぎって怖かった記憶があります。それでも、お客様に迷惑をかけられないという一心、そして何よりも匠がまた戻って来られる現場にしておきたくて必死な毎日でした。

匠はしばらくの休養を経て、にこにこしながら現場に復帰しました。
片手の3本もの指を失ったにもかかわらず、清々しい笑顔で、働く喜びに満ち溢れていました。

そして、偶然にもこの直後 『 デザインのひきだし11 』( 2010年10月 )名工の肖像のインタビューに掲載されました。

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名工の肖像のインタビューには救われました。
今でも本当に感謝してます。写真の匠の顔も満面の笑顔です。

「 まだまだ頑張らなくちゃ行けないよね 」「 まだまだやれるよね 」って、匠も僕も、何よりコスモテックがこのインタビューに助けられました。

怪我の後、匠はひとつも弱音を吐きませんでしたが、仕事と向き合うのと同時に、きっと自分の身体とも戦っていたのだと思います。

長年その仕事を支えてきた指を失い、今までと同じようには出来ない作業もあったはずです。笑顔の裏にはかなりのストレスを抱えていたことでしょう。

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それでもお客様がいるから、前へ前へ、前進あるのみ。
お客様から任せて頂ける仕事のおかげで本当に助けられました。
救われました。

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安心安全な環境づくり

箔押し機に限らず、機械を操作する職人の多くは危険と隣合わせです。
本当に命がけです。仕事中の事故で大怪我をしたり、亡くなってしまうニュースを耳にするたび、コスモテックでも二度とあってはいけないことだと気持ちを引き締めます。

事故を二度と繰り返さないためにも、匠の願いや思いを汲む上でも、コスモテックが新台箔押し機を導入した一番の理由は安全面にあります。

新台箔押し機には安全装置が完備されております。
十分な経験のある匠ですら事故を起こすことがあるのだから、経験の浅い職人はなおさら安全に配慮すべきです。匠の事故の前から計画していたことではありましたが、若い職人が安心して安全に働けるために、安全装置付きの新しい箔押し機との入れ替えはどうしても必要不可欠なことだったのです。

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コスモテックサンプル直売所(WEB STORE)で皆さんが製品を購入し、コスモテックがお預かりした皆さんのお金を全額投じて新台の箔押し機を購入させて頂いた理由には、実はこういういきさつがあったのです。おかげさまで、今のコスモテックの箔押し機には全て安全装置が完備されており、安心して働ける環境が整いました。

新しい職人が入らなければ、後世に技術を継承することは出来ませんし、会社も続きません。新しい職人が働きたいと思えるような器を持つ努力や、安心して末永く働くことが出来る環境を準備することは必要不可欠です。


匠の怪我については、今までこうして文章に書いたことはありませんでした。本人から何か言われていたわけではないのですが、わざわざ書くことでもありませんでした。今回あえて書こうと思った理由は、 「 こんな思いで仕事をしていた一人の職人がいたのだ 」 と知って欲しく、今だからこそ伝えておかなくちゃと思ったからです。


下の写真はフォトグラファー三宅英文さんによるもの。 PORT 様のプロジェクトに参加させて頂いた際に撮影されたものです。匠のお気に入りの一枚。

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