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ふくわうち

今日、読んでいた本に素敵な言葉を見つけた。
「不苦者有知」

『日日是好日』で有名な森下典子さんの
『好日絵巻』の中に彼女が紹介している言葉だ。
彼女が20代の終わりに出会った言葉で、
その頃、お茶のお稽古に出かけたときに、
お茶の先生が掛け軸に書かれていたこの言葉を
なんと読むか、生徒さんに問いかける。
誰も答えられないところで、これはね
「フ・ク・ワ・ウ・チ」と種を明かす。
ここまでなら、ありそうな謎かけだけど、
先生はこうも読めると思うのよと披露する。

「苦と思わざる者に、知あり」

話はここで終わっているけれど、
僕はなるほどと膝を打った。
胸の奥にすっと沁みてきたのだ。
言葉が体の中に入るのに抵抗はまるでなかった。

「ふくわうち」は「福は内、鬼は外」の「福は内」、
節分の時の掛け声だ。そのことしか頭になかった。
それで調べてみると、これは江戸時代の儒者の言葉で
「福は内、鬼は外」に語呂を合わせた
「遠仁者疎道(おにはそと)不苦者有智(ふくはうち)」
という言葉が出処らしい。
意味は、仁に遠き者(思いやりのない人)は
人の道に疎く、苦を超えた人は人の悟りの智慧を持つ。

ここでも、なるほどなと唸った。
奥深い教えだと思った。
節分の掛け声に端を発する話で季節外れではあるが、
「遠仁者疎道、不苦者有智」に至っては
日々の暮らしの中で、生きる言葉ではないだろうか。

昨今、世知辛くなった世の中に
「遠仁者疎道」の人が増え、
「不苦者有智」であることがかようにも
尊い言葉だと知る。

未知の恐怖感も異様な暑さも人を狂わす。
人としての有り様は、こんなときにこそ顔を現す。
平静であると思っても過信しないことが大切だ。


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