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風の記憶、時の雫

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note をはじめてみようと思う。 秋晴れの空を眺めていたら、風がやってきて、 そのときにふと思ったわけです。
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2018年9月の記事一覧

嘘の石

嘘をつくたびに 心のなかに小石を飲み込んだ。 はじめは軽い小石が一つや二つ 飲み込んだところで 歩けなくなることなんてなかった。 次第にその重さにも慣れて 少年は大人になった。 体は大きくなり、立派な体格を手に入れた。 その片隅で小石のことは すっかり忘れてしまっていた。 やがて大きな嘘をつくことを覚えた。 それはとても甘美なもので 青年は満足な顔をして 窮地な場を何度も乗り切った。 飲み込んだ石は一回りも大きなものだった。 それさえ立派な体にはまだ余裕があった。 気も

降りゆく

遠い山々の峰に雪ふりつむ 深い記憶の海に雪ふりゆく 生まれてこのかた 両眼で見てきた風景は 頭の中で交差して 記憶の海にずっと降りついできた 溶けて消える記憶もあれば いつまでも漂いながら いつか拾い上げてくれるのを ただ待っている思いもある   漂流とともに薄れゆく   真実はどこに流れ着くのか   誰も望まない真実と   皆が喜ぶ虚構が入れ替わる   祭りごとが絶え間なく   世にもバカバカしくつくられる   この世の真実が形見になる前に   終末の岸辺に流れ

あのひとを思う

あのひとのことを思うとき 私はとても幸せな気持ちになる 秋の風が入る誰もいない部屋で 誰も通らない通学路の傍で 寄せる波が静かな海の側で みんなが寝静まった月夜の窓辺で いつだってあのひとのことを思うとき 私は幸せな気分に包まれる あのひとの気持ちがどこにいようと あのひとが何を考えていようと あのひとに何が起ころうと 私の心はあのひとにとらわれている 今すぐ会えないことより 溢れるばかりの思いが幸せだから 切なさに押しつぶされることよりも あのひとを大切に思うことを

そらはあきのいろ

 そらをながめている  くもをみている あめがあがり かおをみせた そらのあお どこかにいった おもいくも あおにしろが うかんでいる ゆったり よこになって のんきに あくびをしている かぜはせなかのはねを なでるように あきはこころのなかに はいりこむように ていこうもなく ぼくをそらに おしあげる とうめいなはねに あのしろを ぬりこめば あきはそらに うかぶあおになる ぼくはそらに あそぶはねになる  そらからながめている  ぼくをみている

車窓に映る時間

車窓に刺す日差しは斜めで、 眩しいと感じてブラインドを降ろす。 いつもなら窓枠の下まで降ろすのだが、 今日は景色が見える程度に留めておいた。 酷く雨の降った翌日は空気が澄んでいて、 景色は色味を増す。 それをただ見ていたかった。 ローカル線の各駅停車を1時間、 ただ家に帰るためだけならこれもいい。 日の入りまではまだ十分時間はある。 斜陽がつくる影はもう長くなっていて、 ホームを歩く人も日陰を探すほど暑くはない。 単線の各駅停車は所々の駅で長い時間止まる。 特急や急行に線路を

秋麗(あきうらら)

惜しむ夏に別れを告げて 暦の変わり目に秋がやってきました。 接近する台風21号の影響もありますが、 確かに朝夕の空気は変わりましたね。 風も涼しさを運んできます。 こうなるとついこの間までの 肌を刺すような日差しも、 やさしい眼差しのように 変わって感じるから不思議です。 まだだと思う人もすぐそうなります。 片陰を求めて歩いた日から そぞろ歩きもできる日になってきています。 このままの日々が続けば 「秋麗」ともいえる穏やかな秋晴れが 感じられるようになります。 春麗とい