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宇宙に関わる人の想い・魅力を言葉にして世の中に新たな価値伝える

林 公代(はやし きみよ)

【プロフィール】
神戸大学文学部英米文学科卒業

サンケイリビング新聞社、日本宇宙少年団情報誌編集長を経て
2000年からフリーライターに。
書籍、雑誌、ウエブサイトで宇宙関連の記事を企画、執筆、編集。
30年以上にわたって、宇宙飛行士、宇宙関係者へのインタビュー、
NASA、ロシア、日本でのロケット打ち上げ、
皆既日食、すばる望遠鏡(ハワイ)、アルマ望遠鏡(南米チリ)など
宇宙関連施設、関係者への取材を続けている。


【仕事について】取材でわかる人の「想い」と価値ある「情報」を1人でも多くの方に届けたい。
大事にしているのは信頼関係。

ー今のお仕事内容をお聞かせください

宇宙や天文分野を中心としたライターです。

宇宙開発や天文台などの現場に直接足を運んで取材をし、そこで聞いた話や体験したことを文章にして世の中にわかりやすく伝えることが仕事です。

新聞・雑誌・WEB・書籍など、色々な媒体で記事を書かせてもらっていて、今はありがたいことに連載も持たせてもらっています。

宇宙に限定してるわけではないのですが、30年近く宇宙分野に関わっていることもあって宇宙・天文分野を中心にご依頼いただくことが多いです。
これまで日本人の宇宙飛行士や、宇宙に関わるエンジニア、サイエンティストの方々など、宇宙に関わるさまざまな職種の方に取材をさせていただきました。

ー1日のスケジュールは?

フリーランスなので特に決まったスケジュールはありませんが、
だいたいの流れはこのようになります。

AM6:30  起床
     家事をしながら、宇宙関連のニュースなど一通りチェック
AM8:30 パソコンを開いて作業開始
     取材のための下調べ、テープ起こし、執筆など
PM7:30 終了 夕飯の支度

ただ、NASAなど海外の記者会見や中継は日本時間の夜遅くに始まることもあるので、
夜や土日も含めてイレギュラーな対応の方が多いです。

取材のために国内・海外出張に行くこともあります。
ロケット打ち上げ場のある種子島や内之浦、アメリカやロシアにも取材で行きました。
天文関係では、ハワイや南米チリの天文台、オーストラリアの皆既日食にも行きました。

▲ NASAジョンソン宇宙センターのISSモックアップ内にて

ーやりがいのあることは?

誰も聞いたことのないような話・誰も見たことのないような風景を言語化し、できるだけ早く世の中に伝えることです。

情報のスピードばかりが大事にされる傾向があるように思いますが、
伝えるべき内容はもっとたくさんあると思っています。

例えば、「新しい天体の発見」という事実だけではなく、
発見にまつわる秘話や発見者の想い・熱量など、取材をするからこそわかることがたくさん隠れていると思うのです。

わたしが発信した情報が、誰か一人に対してだったとしても、その人の心にちゃんと届いていることが大切です。
それが生きる希望になったり、新しい価値観の発見になればと思って仕事をしています。

ー大事にされていることを教えてください

仕事で大事にしていることは、信頼関係です。

例えば、宇宙飛行士の方は15分〜20分刻みで連続して取材が入っていたりするのですが、比較的同じような質問を受けることが多いと思います。
せめて自分の時間は、他にはない新しい切り口で、相手の方にも新しい気づきになるような質問をしようと意識しています。

単に、取材をする人・取材を受ける人という関係ではなく、
お互いが成長していく関係になるように日々努力しています。

ー大変なことは何ですか?

日本宇宙少年団で情報誌の仕事をスタートしたときは、
なかなか記者会見会場に入れてもらえませんでした。
当時は、記者会見は報道だけに限られていました。

取材は、第1次取材(情報元へ直接取材すること)が大事だと思っています。
自分がその場にいるからこそ、第1次取材で得ることができる事実や感動のストーリー、その価値を伝えられると思っています。
なので、記者会見会場にも入れない状況はもどかしい気持ちでした。

粘り強く何度も何度も主催者と交渉し、やっと会見場への入場を許可してもらったと思ったら、質問はNG(後に時間があいたら最後に一問)という条件付きということもありました。

それでもめげずにいい質問をして、一生懸命記事を書き続けて、コツコツ信頼を作ることで、徐々に枠が広がってきました。

宇宙業界も柔軟になってきたので、今はそんなことないと思いますが、
どんな分野でも新参者が道を切り開くのは大変だと体感しました。

▲  ロシア・ツープ管制センターでの取材


【きっかけ】子供たちと一緒に経験したロケット発射の取材で宇宙の魅力を知ることができた

ー今の仕事についたきっかけについて聞かせてください

海外旅行が大好きで、将来は世界中を旅して記事を書く旅行ライターになりたいと思っていました。

原稿を書く力をつけようと、出版社をたくさん受けたのですが全部うまくいかず、仕方なくフリーペーパーの営業職に就きました。
営業職なので、自分が記事を書く機会は全くなかったです。

どうしたら編集の仕事に就けるだろうかと考えて、年賀状に「編集の仕事を探してます」と書いて送ってみたんです。
その中のおひとりから日本宇宙少年団のお仕事をご紹介いただき、子供向けの宇宙情報誌に関わることになりました。

最初から宇宙に興味があったわけではなかったのですが、
子供たちと一緒に宇宙関係の方にたくさん取材をする中で、宇宙の魅力に引きこまれていきました。

当時は、まだ日本に国産のロケットもなく、日本人宇宙飛行士も宇宙に飛んでいない時代だったのですが、とにかく宇宙に関わる人の情熱に感動し、話を聞いていておもしろかったです。

これだけ人を夢中にさせる宇宙ってどういうものなのだろう、と興味がわきました。

ー日本宇宙少年団の時の話を聞かせてください

情報誌の取材には、できるだけ宇宙少年団の子供たちを連れていくようにしていました。

子供たちの質問ってストレートで的を射ていることが多いので、子供たちに教えてもらったことも多いです。

特に印象に残っているのは種子島の打ち上げの取材です。
全国から集まった子供たち6名と一緒に、打ち上げ前から取材をしました。

子供たちと駐車場に寝転んで、一緒に天の川や流れ星を見て。
子供たち同士も仲良くなって、どんどん団結力も高まっていくんですね。

夜も遅くまで取材した内容をまとめて努力をしていました。
取材のスキルも上がり、大人顔負けのレベルの高い質問もできるようになっていました。

打ち上げが成功したときは、抱き合って一緒に喜んだのを覚えています。

打ち上げ前に、裏で支えているエンジニアの方の様子も取材していたので、
ロケットの打ち上げとは、みんなの苦労や思いが一緒に打ち上がる現場なのだと、感動と一体感を共有できたことが心に残っています。

そのあと、アメリカやロシアでロケットの発射もたくさん見に行きましたが、
子供たちと見た種子島での経験が1番心に残っています。


【プライベートについて】趣味でも新しい世界にチャレンジをするようにしています。

ーリフレッシュ方法やオフの過ごし方を教えてください。

1年前から、ダイビングのために水泳を習い始めました。

2012年に皆既日食観賞でオーストラリアのケアンズに行ったときに、グレートバリアリーフでシュノーケリングをしました。
海底に魚がたくさんいるのですが、シュノーケリングだから水面から眺めるしかなくて。
海底でダイバー達が、魚たちの近くで楽しんでるのをみて、「わたしもやりたい」と感じるようになりました。

ただ、水に対しての恐怖があったので、
まず最低限泳げるようにはなりたいなと思い、ゆっくりですけど練習しています。

▲ 娘さんとオーストラリアでの体験ダイビング

ー子育てと仕事の両立について聞かせてください。

子供が3人いることもあり、特に子供が小さい頃はバタバタとした毎日でした。

洗濯機を回している間にテープを起こして、洗濯物を干して、また下書きを書いてというような感じで、仕事の合間に家事・育児をしていました。

子供が原稿をぐちゃぐちゃにしちゃったり、パソコンのキーボードの上に乗ってきたり。
朝ご飯のお皿をそのままにして保育園に子供を送って、夕方家に帰ってきたら、家にアリの行列ができていたこともありました。

フリーランスだからこそできる働き方だと思いますが、今思い出しても必死だったなと思います。

ー子育てで大事にされていることを教えてください。

なるべく子供たちが興味を持ったことは、経験させてあげるようにしていました。

あとは、外の世界に目を向けられるように意識していました。
プラネタリウムに連れて行ったり、若田さんの講演会に連れて行ったり。

子供は子供なりの小さい世界の中で大変だと思うのですよね。
今見ている世界だけが全てじゃない、ということがわかるように、さまざまな世界を経験させたいなと思ってきました。

ーちなみに、お子さんは宇宙関係の仕事をされているのでしょうか?

それが、三人とも宇宙の仕事にはついていません。笑
ただ興味はあるようで、宇宙関係のニュースや特集があると連絡をくれたりします。


【これから宇宙を目指す方へ】いろんな視点から宇宙を考えて伝える人が増えてほしい。

ー今後の目標をきかせてください。

特に興味があるのはダイバーシティやインクルーシブデザインの分野です。
誰もが自分らしく生きられる社会のために、何か宇宙を活用できないかなと思っています。

たとえば昨年、ESA(欧州宇宙期間)が身体に障害のある方にも、宇宙飛行士募集の枠を広げました。
障害を持ってる方に、宇宙は可能性を広げてくれる場所だと考えています。
例えば足が不自由であっても、無重力状態の宇宙船内では主に手を使って移動するので、問題ありません。

ほかにも様々な手段で、地上の社会では生きづらさを抱えている人の力になりたいと思っています。

ー宇宙業界を目指している方へのメッセージ

宇宙ライターに興味を持ってくださっている方には、ぜひ幅広い視点を持って欲しいなと思います。

まず、読者の視点。
自分だったら、どんな記事を読みたいか考えてみることが大事です。

そして、
今まで誰も伝えていない視点は何か、という新しい視点。
この社会をよくするにはどんな記事が必要なのか、という社会の視点。
世の中に求められていることは何だろう、という世の中の視点。

さまざまな視点から宇宙を考えてみることが大事だと思っています。

今の宇宙報道は少し一面的な気がしています。

これから参入してくる方だからこその柔らかい発想や表現で、宇宙の情報を世の中に伝えて欲しいなと期待しています。

宇宙はこれから身近になっていく分野で、チャンスは無限にあります。
まずは、自分が好きなことや興味があることからでいいと思いますので、小さな一歩をまず踏み出してみてください。

わたしもまだまだチャレンジします!一緒に頑張りましょう。


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〇宇宙のお仕事図鑑とは?

このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。
宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。
文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで、「宇宙のお仕事」をこのnoteで発信していきます。

〇コスモ女子とは?

「コスモ女子」は、宇宙業界で活躍したい女性中心のコミュニティです。

宇宙に関する知識を身につける「宇宙の基礎講座」や、宇宙に詳しくなくても楽しめる交流会などのイベントを毎月開催!

コスモ女子から発足した、コスモ女子アマチュア無線クラブが人工衛星を2024年に打ち上げる予定です。

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