ヒューマン・ヴォイス

久しぶりに感動する映画を見た

アルモドバルはオールアバウト・マイマザー、ボルベールなど見ていたが、これほどスタイリッシュな映画を作るとは思わなかった
短編なのでひとつでも見逃すまいと画面に集中した

心を動かされたのは皮肉にも、最愛の男に愛想尽かされた女が、電話相手に発するエモーショナルなセリフ、コクトーにインスピレーションされたヒューマンボイスではなく、30分に凝縮された卓越したアートセンスと舞台設定だった。

冒頭、倉庫内を静かに歩く真っ赤なイブニングを纏ったスウィントン。孤独に置かれた椅子に心もとない表情で座る。
次に室内にカメラが移り、
グリーンの壁を背景に、いかにも厳選され、洗練された家具に置物、絵画、照明、道具類がここぞと言わんばかりに並ぶ。バランス、配置、色合いの美しさで、それぞれ強烈な個性をもつにも関わらず、ひとつもうるさく感じない。
ため息が出たところで、突然、カメラは上部から俯瞰し、間仕切りされた彼女の住まい全体を映す

それは広い倉庫内に設置された部屋という舞台だった。

はて!どっかで見たぞ?
フォントリアーの限りなく実験映画に近い『ドックビル』だったか、これも炎に包まれて終わる。消防隊が来て舞台が現実に繋がっていく流れは、唐十郎や平成中村座の勘三郎の舞台演出をも彷彿とさせる。

女が斧を買う道具屋では一糸乱れず整然と展示されてる商品、彼女の衣装の色との対比が素晴らしい。スタッフロールのデザインを見ても分かるように、日曜大工道具はこの映画の大切なモチーフのようだ

数年前になるがスペインのホテルに泊まったとき、ヨーロッパ固有のアンティークと現代アートが程よく収まったインテリアと徹底した近代的設備が備わった部屋に感動したことがある。
単純に居心地いいし、センスの良さに刺激を受ける。そんな体験をふと思い出した

追記
乱雑に置かれた本の中に『キルビル』があったのは微笑ましい
監督はタランティーノも眼中に入れてるようだ

シャネル・バックに留まらず、上質なニット、オートクチュール、パンツスーツ、極めつけはラスト身につけていた黒革ジャンと銀のゆるパンツ、ハイファッションからカジュアルまで着こなすティルダ・スウィントンは、もうさすが!としか言いようがない。


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