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2016年のライブ日記「ダニー・マッキャスリンカルテット」

久し振りにヴィレッジヴァンガードへ。「ヴィレッジヴァンガード」とは、ウェストヴィレッジにある老舗の名門ジャズクラブである。ここを訪れるのは何年振りだったか思い出せないくらいに時が過ぎ去ってしまっていた。

ドアを開けると、身に憶えのあるジャズクラブの匂いが一気に変性意識へと誘う。お目当ての演奏は、「ダニー・マッキャスリンカルテット」

実は彼の音楽をすごく聴いていたわけではなかったのだけど、

何だか珍しく直感が働いて観に行ってみようという気になって、

不思議と観に行ける環境も整ったので行く事になった。

メンバーは、
Donny McCaslin(Tenor sax)
ダニー・マッキャスリン(テナー・サックス)
Mark Guiliana(ds)
マーク・ジュリアナ(ドラムス)
Nate Wood(b)
ネイト・ウッド(ベース)
Jason Lindner(key)
ジェイソン・リンドナー(キーボード)

マッキャスリンは40代くらいかなと勝手に思っていたのだけど、意外にも66年生まれの50歳で結構いい年齢であることに驚いた。LA出身で、1991年にNYに進出後、エディ・ゴメスのバンドやマイケル・ブレッカーの後継としてのステップス・アヘッドでの活動、
ギル・エヴァンス・オーケストラやジョージ・グルンツ・コンサート・バンド、ダニーロ・ペレス・カルテット、マリア・シュナイダー・ジャズ・オーケストラなどで活動を続けながら、デヴィッド・ビニーやジェイソン・リンドナー、カート・ローゼンウィンケルなどの当時の新進気鋭のミュージシャン達との交流も温める中で、ジェイソン・リンドナーが率いているNOW V.S. NOWというトリオのサウンドに感銘を受け、現在の彼のカルテットにジェイソン・リンドナーとマーク・ジュリアナを起用するに至ったようである。このグループが後に、デヴィッド・ボウイの遺作アルバムに参加するという衝撃の展開があるわけなのですが、マッキャスリン自身が「彼らと演奏し始めた時にはすぐにバンドが別次元に行ったような気がした。」と語っているように、マッキャスリンがイメージしていたよりも遥かに凄い化学反応を起こしていたのだろうと想像する。

私はまず、彼らがヴィレッジヴァンガードに出演すること自体が驚きだった。

そして、デヴィッド・ボウイまたはデヴィッドのプロデューサーが彼らを何故起用したのか、それらの疑問を晴らすためにも一度演奏を聴いてみたかった。

客層をザッと見渡してみても年齢層は高めであるし、ニューヨークでジャズを聴くならまずはここに来るだろうという観光客が集まる中でどんな演奏をするのかとても興味深かった。

いざ演奏が始まり、いきなりプログレロックジャズみたいなナンバーで、正直言って、果たしてリスナーがついていけているのかちょっとハラハラしつつ観ていたら、大きな拍手と歓声が飛び交っていて、その盛り上がりにもとても驚いていた。

例えば、神戸で言えば「ソネ」という老舗ジャズクラブに来るようなお客が彼らの演奏を聴いたら、「これはジャズではない」と言うかも知れないと思うし、私自身も一体これは何なんだろう?どのジャンルにも当てはまらないジャンルレスでボーダーレスで、「ジャズ」という狭いカテゴリーから彼らは完全に脱却している。もう終いにはジャズなのかどうかなど考えること自体がもう古いのではないかと思えてきた。

それに、フロントとサイドの境界線が限りなく曖昧であることにも彼らの特徴として現れていた。名目上ではマッキャスリンのカルテットで、彼がリーダーとして動いていると思うのだけれども、音楽上では誰が権力を握るわけでもない、上下の関係ではなくて限りなく水平の関係なのですね。最近聴いた吉田美奈子さんのライブ盤でも同じような事を感じていたことを思い出した。あくまでも四人で創ったサウンドと、そう言ってみれば当たり前の事かも知れないけど、これからの時代は、こうして上下関係や分割が限りなく曖昧になっていって良い意味でブレンドしてゆくのかなと、演奏を聴きながら考えていた。

彼らの音楽は私に「新しい時代の到来」をはっきりと目に見える形で証明してみせてくれた。

デヴィッド・ボウイもきっとその事に気付いたに違いないと思う。

おそらく最後になるであろう自身のアルバムに彼らを起用した理由がその時はっきりとわかった。

そして観客がその新しい音楽を受け入れている。

まあ、ここ何年かは演奏を観に行くこともなかった私だったから、その変化に衝撃を受けたのかも知れないけれど、考えてみれば20代の頃にビル・エバンスの「サンディ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」を大阪のワンルームマンションで夜更けに聴きながら、いつかニューヨークに住んでみたいなぁと何となく夢見ていた頃と、その後10年近く経って夢が現実になって初めてヴィレッジヴァンガードに行った時にエリック・アレキサンダーを観ていた自分と、ダニー・マッキャスリンを聴いている今の自分を照らし合わせてみて、ここ20年ほどのニューヨークに纏わる自分の歴史を振り返り、時がもたらす大変化に否が応でも気付かされる。

音楽に対して以前のように熱狂の渦に飲み込まれることもなく、冷たい泉に素足を浸すようななんだかもの凄く冷静でニュートラルな自分を感じていた。

やはりニューヨークというのは、ジャズミュージックシーンに於いていつもその中心を担っているのだと改めて思う。

そのニューヨークに居て、「新しい時代の幕開けの目撃者」としてその瞬間を共有出来ることに深い感謝の念を感じていた。

それと共に、これほど世界が身近に感じられる世の中になって、もう何処に住んでいるかなど、以前の様にはもう重要でないのかも知れない。

言い換えれば、ここにずっと住み続ける理由など何処にもない、というある種の自由さを、身軽になっている自分を感じていた。

ここからの20年をどう過ごすのか深く考えさせられる。

昔、人に言われたことがある。

「あなたは同じところに留まっていてはいけない。同じところにいると腐ってしまう。だから水のように流れ続けなきゃ。」

ヴィレッジヴァンガードを出る頃には、澄み切った夜空に心が研ぎ澄まされたような気がした。


#ニューヨーク #ヴィレッジ・ヴァンガード #ダニー・マッキャスリン

#マーク・ジュリアナ #ジェイソン・リンドナー #ネイト・ウッド



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2003年音楽修行の為にニューヨークへ渡る。 ジャズに関する執筆活動を経て2005年にニューヨークに移住。 現地で音楽ライターや様々な仕事の経験を積み2017年に帰国。Life Vibes Records 主宰:cosmicblues528@gmail.com
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