夜の散歩が怖くないのは、それを上回る不安や恐怖が私の中にあるからだ

ペダルを漕いだ。目的地は、さて、どこでしょう。わからないけど必死だった。それでも全然追いつけないような気がして、地面を掘るようにペダルを踏んだ。夜風を全身で受ける、というよりは食べに行くよう。口を大きく広げて、Tシャツの隙間、全身の毛穴、コンタクトの裏側ずっと奥深く、マニキュアが剥がれて出来た爪の凸凹、ありとあらゆる隙間をこの風で埋めなければと思った。
それは初めての間隔。
たとえデートの帰りでも、こんなことは今まで一度もなかった。
街灯もない真っ暗な道。先を教えてくれるのは私の拳よりも小さいライトだけ。だが、不思議と恐怖は感じない。それよりも前に進む、進みたくて仕方がないこの気持ちが、私の体力を無視して突っ走っていた。
“はやくつかまえなくては”
どこからか聞こえてきたあの声はいったい誰だったんだろう。


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翌朝の私を、柔らかいベットはずっと抱きしめてくれた。真っ白な太陽が強烈に赤い夕日に変わるまで、それがどんなに穏やかで幸せな時間だったか。昨日とは正反対の静かな心臓。本当に同じ持ち主なんだろうか、と自分のことがわからなくなる。その夜は生まれて初めて、羊ではなく星を1粒ずつ数えていた。
“明日からまた始まるよ”
またあの声が聞こえて、心の中が燃え始める。その火がどこか知らない人のところへ飛んで行ってしまわないように瞼で蓋をした。

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