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2020年に読んだ中で2021年も楽しみな新刊漫画29選

新年、明けましておめでとうございます。ころく( @coromonta )です。

2020年、特に前半はNetflixやAmazonPrimeでドラマをたくさん観たり、映画館にも足を運んだり、漫画以外の作品にも幅広く触れたなぁと思いつつも、やっぱり漫画にまみれた一年だったなぁと思います。ということで、毎年恒例の一年で読んでおもしろいと思った漫画まとめを書こうと思っていたら年を越してしまいましたが、無事に執筆できたので公開します。

今年は、一年で読んだ数百冊の漫画の中から2020年に新刊第一巻が出た作品で、今後も追いかけるであろう作品をいくつかピックアップしてみたいと思います。

※僕は漫画編集者として仕事をしている立場ではありますが、毎年のこのnoteにおいては一読者として漫画を楽しみ、その時期にどんな作品のどんな部分に興味を持ったのかを記録するために書いています

『スーパーベイビー』(丸顔めめ/芳文社)

漫画ジャンルとして確立されつつある「ギャル」ジャンルにさっそうと現れた新星。ちょっとエッチで歯に衣着せぬ物言いをして豪快で大胆で……というギャルのステレオタイプを露骨に見せるものが多い中で、本作はたしかに大胆で豪快なんだけどすごく相手を思いやるし、それ故に男をつけあがらせてしまうというところまで描いているのが素敵です。

『オレが私になるまで』(佐藤はつき/KADOKAWA)

やんちゃな男の子が性別が逆転してしまう病気にかかり、女子として生きていく中で戸惑いながらも「女としての自分」に少しずつ自覚が芽生えていく物語。性別逆転ものは結構色物扱いされがちですが、本作はきっかけは病気とはいえ、「自分が女だったら」ということにわりと真摯に向き合いながら男女の違いを理解しようとしていくので考えさせられる心情描写が多くておもしろいです。

『adabana 徒花』(NON/集英社)

『ハレ婚。』のNONさんの新作漫画。女子高生が親友を殺したシーンから始まるショッキングな物語で、その後も親友の叔父によるレイプ未遂、殺人、ストーカー疑惑のある親友の元カレの存在など気持ちが休まる瞬間があまりなく、センセ ーショナルな展開にどんどんハマっていきます。上中下巻の上巻が発売済みで、もうすぐ中巻が出るとのことで楽しみです。

『一線こせないカテキョと生徒』(地球のお魚ぽんちゃん/ナンバーナイン)

ギャグ漫画家・地球のお魚ぽんちゃんさんの“らしさ”であるカミソリのようなキレ味鋭いギャグは健在でありつつも、物語性のある恋愛を真剣に描こうとしている意欲作。ギャグ漫画家さんが描くラブコメって意外となくて、その意味で新鮮さもあります。主人公の家庭教師・ほのかと生徒の高木がどう頑張っても一線こせないという難題を抱えてはいますが、意外と着実に歩を進めている二人が愛おしくてたまりません。
※ころく担当作

『抜刀』(ザビエラー長谷川/講談社)

「抜刀」と呼ばれる、日本刀を使ってスパッと人を真っ二つに斬る殺し屋の話。その正体は家の前を通る女子高生を見ながらオナニーしすぎて右手がムキムキになったニートなんですが、あることで覚醒しその右手と「日本刀」と呼ばれる切れ味のベルトで世直ししていきます。また、Twitterでも注目されていた同氏の短編『僕はアナタに殴られたい』も収録されていて、こちらがめちゃくちゃ良かったのでぜひ読んでいただきたいです。『殺し屋1』好きにオススメ。

『セクシー田中さん』(芦原妃名子/小学館) 

『砂時計』『Piece』など名作を輩出する芦原妃名子さんの新作は、アラフォー女が主人公。優秀な経理部員でアラフォー地味女、だけど実はベリーダンサーという裏の顔を持つ田中さんをめぐり、婚活に励む23歳キラキラOL・朱里、その朱里の腐れ縁男・進吾、頑張る田中さんをナチュラルにディスるイケメン婚活こじらせ男・笙野によるいい大人たちの恋愛すれ違いストーリーが軽快で楽しいです。

『WORST外伝 ゼットン先生』(高橋ヒロシ/鈴木大/山本真太朗/秋田書店) 

武装戦線・河内鉄生、鳳仙軍団、鈴蘭史上最強のチャラ男・グリコ、そして自身では完全オリジナルの『ジャンク・ランク・ファミリー』など、現在進行系で多くの連載を抱える高橋ヒロシさんの新たな『WORST外伝』。これまでの高橋ヒロシ作品群のように喧嘩に明け暮れる不良たちを描くだけでなく、ゼットンが先生の夢を叶え、高校でくすぶる不良たちを更生する側に回るというG○O的ストーリー展開があってそれもそれで楽しめます。カイジといいクローズ・WORSTといい、スピンオフでファミリーに経済を回すという意味では非常に素晴らしいなと考えが芽生えてきました。

『友達として大好き』(ゆうち巳くみ/講談社) 

同級生の彼氏を男子トイレでフェラするビッチな女子高生の沙愛子と、社会を生き抜くために規則(校則含む)を徹底して守る男子高校生の結糸。永遠に平行線をたどる、フィジカルな結びつきを求める人間と徹底したルール至上主義の人間の会話だが、学校の施錠時間を過ぎても沙愛子を匿ったり、「友達として大好き」と言い不意にキスをされたり、「守るべきルールとは、倫理とはなにか」など考えてしまう良作となっています。めちゃくちゃ好きですね。

『ショジョ恋。─処女のしょう子さん─』(山科ティナ/主婦と友社)

これ読み始めたタイミングが、テラスハウスが悲しい事件がきっかけで番組終了となってしまった頃と重なった事もあって、自分の中で失われたテラスハウスを補完してくれているのがハマった理由です。普段は読まない少女漫画のピュアよりの恋愛が読んでいてドキドキしちゃうというのも、新しい扉を開かせてくれそう。そして絵がとてもきれいです。

『満州アヘンスクワッド』(鹿子/門馬司/講談社)

昭和12年の満州国を舞台にした、アヘンをめぐる歴史ピカレスクロマン。妙なリアリティや迫力がどこからきているのか、読み始めた時は不思議だったが、原作者さんが結構同時代の歴史を学んで物語にリアリティをもたせているという話を聞いて納得しました。アングラでハードボイルドな骨太漫画が好きな人は絶対好き。つまり僕が好きな漫画のわりとど真ん中にありました。

『刷ったもんだ』(染谷みのる/講談社)

印刷会社に新卒入社したヤンキー上がりのヲタク女性社員が、印刷会社のやっていることの凄さやそこで働く一人ひとりのこだわりやプロフェッショナリズムに触れながら奮闘する職業漫画。業界内でも一部話題になっていましたが、おもしろいです。

『数学ゴールデン』(藏丸竜彦/白泉社)

数学オリンピックを目指す高校生が主人公の本作。あまり聞き慣れない世界だし、一見すると地味な数学を漫画化することのハードルの高さって結構あると思っていますが(『はじめアルゴリズム』も良かった)、こちらはものすごく数学に対する情熱や愛が作品からほとばしっているのと、数学オリンピックを題材にした青春スポ根漫画と言っても過言ではないところがとても興奮しました。はやく2巻出てほしい。

『結婚するって、本当ですか』(若木民喜/小学館)

旅行会社に勤めるおとなしめな独身男女が、シベリアへの転勤をどうしても避けるために偽装結婚を企む物語。お互いの目的達成のために結婚をするというのは、『逃げるは恥だが役に立つ』に通づるものもあり、本作も注目を集めています。もともとおとなしかった二人が「結婚」を通して会話するようになり、惹かれ合うというのは分かりやすいですがときめきますね。

『夏目アラタの結婚』(乃木坂太郎/小学館)

とある殺人事件の遺体の首から上が見つからず、犯人から在り処を聞き出してほしいと言われ、犯人と面会すべく拘置所に通い出した夏目アラタが、連続殺人犯・品川真珠との駆け引きの末に「結婚する」と口走ったところから発展していく物語。面会時間という限られた時間でお互いの腹を探り合い、興味を引き続けるために瞬時に何を話すか判断していく心理戦に引き込まれるのですが、とにかく品川真珠の不気味さが癖になります。内容もさすが『医龍』作者というだけあって骨太です。

『望郷太郎』(山田芳裕/講談社)

金持ちが冷凍保存で長い眠りについてる間に文明が崩壊し、周りに誰もいないところから始まる作品。『へうげもの』作者・山田芳裕さんの新作ってだけでも胸アツなんですが、既刊3巻でとうとう貨幣的な何かが登場し始め、原始時代に戻ったような世界に文明を知る人間が降り立ち世界を再構築していく展開は、山田版「ウォーキング・デッド」感がどんどん増してきているのもグッときます。

『放課後のサロメ』(星窪朱子/双葉社)

「放課後、絵描くん手伝ってくれへん?」異彩を放つ転校生・ナオミに誘われ人気のない美術倉庫で創作のアシスタントをすることになった努力型の秀才・レンジ。天才の奔放な才能を前に、他者評価ばかり気にするレンジは卑屈になるも、徐々に彼女の才能に魅入られていく。そして、次第に自身の創作と向き合っていき……。大阪の美術高校を舞台にした、アートなボーイミーツガール作。『かくかくしかじか』や『ブルーピリオド』など、美術系の漫画は名作が多いので今後も追いかけたいです。

『おかえりアリス』(押見修造/講談社)

押見修造氏の最新作。中学の時のイケメン男友達が途中で引っ越し、高校の時に戻ってきたと思ったら女装して美少女になって帰ってきたというのが1巻の大きな流れ。相変わらず、思春期の性への目覚めや揺らぎをテーマにしているけど、今回はこれまでとひと味違うような気がします。LGBTがテーマというよりも、一方的に押し付けられる性別への抵抗という印象。『悪の華』ぶりの大ヒットの予感がしています。

『無能の鷹』(はんざき朝未/講談社)

お仕事漫画ではあるんですが、主人公の鷹野さんが文字通り無能なんですね。どのくらい無能かというと、「エクセル」という単語を知らない、指示したことを覚えられない、資料作るなんてもってのほか、といったところ。マジで無能なんですよ。でも、「デキるビジネスパーソン」の雰囲気だけは天下一品だし、できないことも胸を張って「できないんですよね」という風に言っちゃうような人です。とにかく笑っちゃうくらい仕事ができないし内容も浅いしみんなお手上げだけど悪いやつじゃない鷹野さんに、みんな夢中になるに違いありません。

『ある奴隷少女に起こった出来事』(ハリエット・A・ジェイコブズ/あらいまりこ/双葉社)

本作は1820年代にリンダという黒人奴隷だった女性によって書かれた手記として発見されるも、衝撃的な内容のあまり長い間「フィクション」として扱われていました。それが実話だと判明するやいなや、たちまち世界的ベストセラーにまで上り詰めた珍しい作品が原作となって描かれたのが、この漫画です。現在も黒人差別問題に立ち向かうべく多くの方が #BlackLivesMatter のハッシュタグのもとに活動や声明を発表している中、しっかりと歴史に目を向けるいい機会になりました。こうした作品は一巻完結ものが多いイメージですが、ちゃんと連載されているので続刊も引き続き追いかけていきたいと思います。

『夏の魔物』(ノムラララ/双葉社)

『夏の魔物』は、思春期を迎えた中学生の村田くんと佐藤さんが、何故か惹かれ合うけどその理由が実は両性具有だったからで、お互いがそれに気づき、二人だけの秘密を共有しつつ性を貪り合う……という一話から始まります。両性具有の物語と聞くと、何か言葉を多く語りたくなってしまいそうなもんですが、とにかく言葉少なめに、時に男として、時に女として、それぞれが性欲をぶつけ合うのが非常に印象的です。絵のテイストも爽やかで、セックスの描写もいやらしいわけでもなく、むしろ瑞々しさすら感じられるのは作者の筆力の賜物でしょう。これまたちょっと新しい物語に出合えたかな、と嬉しい気持ちになったのでおすそ分けしました。

『あなたはブンちゃんの恋』(宮崎夏次系/講談社)

最近の宮崎夏次系さんは短編ではなく長編物語も発表されていて、物語の構成力も引き込まれる展開力も、ギュンギュン上がってきているように思えます。恋は人におかしな行動を取らせるものですが、ブンちゃんの行動は予測不能。しまいには出家してしまうレベル。思わず吹き出してしまいそうなブンちゃんの行動ですが、すごく心に沁みるものがあるのは、宮崎夏次系さんの繊細なイラストタッチであり、そのトリッキーな行動を笑わない純粋さであるのかもしれません。普通の恋愛漫画に物足りなさを感じて読んでみても良いと思いますが、読んでみると意外と王道の片思い漫画だったりします。

『ひとりでしにたい』(ドネリー美咲/カレー沢薫/講談社)

就活、恋活、婚活、妊活、パパ活、ママ活……。様々ある○活の中で今後より注目を集めるかもしれないテーマが「終活」だと思っています。婚活に奔走する主人公が伯母の死をきっかけに孤独死と向き合う姿は可笑くもシリアス。結婚しない、孤独に生きるということの先にどういうことが起きるのかが生々しく描写されるこの物語の、主人公の終焉はどのように描かれるのか気になります。

『往生際の意味を知れ』(米代恭/小学館)

『あげくの果てのカノン』の米代恭さんの連載作なんですが、めちゃくちゃ面白いです。めちゃくちゃ面白い理由は不倫SFという前人未到のジャンルを描いた米代さんらしいユニークな物語設定とか、登場人物たちの狂気性とか、キレキレのセリフとか色々あるんですけど、多分僕が日和(ヒロイン)のことが好きになっちゃうタイプだから無条件にこの作品が好きなんだろうなぁと思ってしまう僕も僕でやばい。

『地図にない場所』(安藤ゆき/小学館)

『町田くんの世界』の安藤ゆきさんの最新作。イケメンの弟と優秀な兄に挟まれる平凡でコンプレックスにまみれた土屋悠人と、怪我で突如引退し実家があった悠人のマンションの隣に越して来た世界的バレエダンサー・宮本琥珀の不思議な交流を描く。「30歳、身寄りのない独身、無職」という世間から憐れまれるのを意に介さず「ふつうの暮らし」を楽しむ琥珀を見ていると、「人生は長いから新しく何かを始めるのに早いも遅いもない」という当たり前のことを思い出させてくれます。一巻しか読んでなかった『町田くんの世界』も読んでみようと思います。

『葬送のフリーレン』(山田鐘人/アベツカサ/小学館)

「おもしろい」と噂には聞いていたものの、異世界・ファンタジーの物語にあまり感情移入できないため食わず嫌いをしていましたが、ついに年末読んでしまった。そしたらまぁおもしろい。魔王を倒した勇者のパーティに参加していたエルフが、勇者たち亡き後も生き続け、そのパーティに参加していた勇者らの後継者とも言える若者たちと旅を続ける本作。人間より長生きするエルフを主人公に置くことで、時代の変遷とともに薄れる物語がどう語り継がれ、その意志が受け継がれていくのかが鮮やかに描かれています。

『女の園の星』(和山やま/祥伝社)

僕は高校生の頃男5人、女35人のクラスで3年間過ごしたこともあって、クラスの中身は女子校みたいなもんだったんだなというのが本作を読んで理解できました。和山さんの作品にはユニークな人たちがたくさん出てきますが、誰一人悪い人間がいないのも大きな特徴で、不快さがまるでないのが素晴らしいです。息抜き的な読み方もできるし、じつはコマ割りやセリフ回しの細かい技巧に目がクラクラさせられたりもするし、生きた人間を感じられるので人間観察的な読み方もできるし、最強なんですよね。

『怪獣8号』(松本直也/集英社)

一話目がおもしろいものがTwitterでバズる流れができて久しい気がしますが、本作もTwitterで知り、少年ジャンプ+で読んで衝撃を受けた作品です。怪獣と戦う隊員に憧れるも試験に受からず燻ってたらまさかの自らが怪獣になってしまうというのが1話目に詰まっていて、そこから読者を飽きさせない展開が毎話続いているのはさすがとしか言いようがない。お手本にしたい1話。集英社の層の厚さを思い知らされた作品です。

『チ。―地球の運動について―』(魚豊/小学館)

まだ天動説が世界の王道で、地動説を唱えることは神道に背くこととされていた時代に、地動説について研究し、布教していこうとする物語。と聞いて、本作のように過激な描写が続くとは誰も思わないのではないでしょうか。バレたら拷問の末死刑。そんな極限の中で真実を導き出すというのは斯くもエキサイティングなのかというのが本作を読めば伝わります。一話目が美しすぎたのですが、『怪獣8号』のような派手さや教科書的なうまさとはまた違った魅力です。そして一巻の終わりもまたバッチリ新しい展開を見せてくれて期待させるんですよ。

『BLUE GIANT EXPLORER』(石塚真一/小学館)

もう言うまでもないですが、『BLUE GIANT』シリーズ最新作です。主人公の宮本大がJAZZを始め、若くして日本のJAZZ界に衝撃を与えた第一部。世界を知る第二部。そして第三部となる本作は、おそらく世界を獲る物語になるでしょう。第二部で終わると踏んでいたので驚きはありつつも、前述のような解釈をすれば、「世界一のサックスプレーヤーになる」と言い続ける宮本大の物語は世界一になるまで描かれなければならないというのは自明でした。悔しいけど、また大の大冒険が読めるのが嬉しくてたまりません。

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以上です。あー、2020年も漫画読んだなぁ。今年も楽しみです。最後になりますが、よろしければ僕のTwitterも覗いてみてください。

【番外編】2020年に一気読み(再読あり)した完結漫画


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