説明

ロゴマークデザイン、実例用いてプロセスを説明します。演劇とデザインの話。

先日、ロゴマークのコンテストにエントリーしました。結果、箸にも棒にもかからなかったワケですが、それはそれとして、すべてのプロセスをお見せしたいと思います。

コンペ負けしたけどガッツリ語っちゃうんだから☆

書くことはデザインでご飯食べてる人のモノヅクリなので強ち間違ってはいないと思います。いかんせん美大もデザイン系の学校もデザイン系の会社も出ていないデザイナーだから、セオリーだとかなんだとかまともに語れないんだけど、デザイン初心者さんには参考になると思う。

※追って本文中に画像追加します!しばしお待ちを!

00.はじめに・ロゴデザイン経験

ロゴマークデザイン経験値の話。私、ロゴをデザインした経験はほぼありません。「アイキャッチ・アイコン的なちょっとしたビジュアル」を制作する機会はこれまでにもあったのですが、いわゆる「ロゴマーク」はたぶん2度目だったと思う。ちなみに1度目は職業訓練校時代に何だったかのソフトで作った自分の名前ハンコでした。はい、正直ロゴとは呼べない「それっぽい何か」でした。つまり、ロゴについては完全に初心者です。

01.コンペ・コンテストが大嫌い

これは、先だってのnoteでの投稿やTwitterでも少しお話ししているのですが、私はコンペやコンテストが嫌いです。実際の作品とは別のところで嫌な思いをしたり、クリエイターを馬鹿にするような案件を見る機会が幾度となくあった、そんなところが理由です。とにかくまあいい印象がありません。

02.コンテスト嫌いなのにエントリーした理由

ロゴマークデザインは「いずれ技術として身には付けたいが、急ぎでやらねばならないという分野・案件ではない」ということから後手に回していました。しかし今回は「ロゴ制作に挑むタイミングなのだな」と思い、エントリーすることに決めました。「今がその時!」というタイミングでお題があって、しかもそれが自分の好きな演劇というジャンルに関わる話だったから。

03.お題はこちら(内容・特徴)

過去の投稿や今回の冒頭の繰り返しになりますが、今一度、コンテストの内容・特徴を簡単に記しておきます。とてもカジュアル。

Sweet Arrow Theatricals(スイート・アロウ・シアトリカルズ)
ロゴマークデザイン コンテスト概要

◉大人数でのミュージカルを作るために立ち上げられた企画
◉オリジナルミュージカルや海外作品の翻訳劇を上演する予定である
◉団体名は「真実の矢を射る時は、その先端を蜜に浸せ」というアラビアのことわざに由来

◉複数案のエントリー可
◉キーワード・アイテムなどの縛りは一切なし
◉Twitterで公式アカウントをフォロー&作品の「画像+指定されたハッシュタグ」を添付して投稿することでエントリー完了

◉審査は誰でも簡単に参加できるWeb投票

04.慣れない私が最初にやったこと(概論)

いかんせん初心者だものですから、「ロゴマークとは」をGoogle先生に聞くところからスタートしました。「シンボルマーク?ロゴタイプ?あ、でもロゴマークデザインコンテストって言っているからロゴマークか。」とか、モゴモゴ言いつつ。

これ、図解じゃないとわかりにくい話だと思います。解説してくださっているすばらしサイト様は世の中にたくさんあるから各自そちらでご確認ください。検索能力も技能のうち。

05.概論インプットと同時にやったこと(肩慣らし)

ロゴマーク制作の経験が乏しい私は「ロゴマークを作る手の動き」がこの時点では身についていませんでした。アイデアスケッチのサイズ感も、線一本を引く動作にも馴染みがない。なので、細かいパーツや線を引く感覚をつかむべく、ちょっとした図形や線を描くようにしました。この時点では「腕の動きに慣れる」ことが目的であるので特にデザインぽい要素は意識していませんでした。

また、「デザインに着手するよりも先に手を動かす」ことで緊張感をほぐし、心理的なハードルを下げる意味合いもありました。

06.分解と咀嚼(要素の抽出と理解)

さて、ここからようやくデザインぽいステップに入ってきます。お題や関連する事項の分解に着手。アイデア・キーワード・関連・イメージ、そういったものを片っ端から書き出しました。

こんな感じ。

S、A、T、ミュージカル、音楽、音、蜜、花、甘さ、弓矢、弦、矢羽、矢絣、一直線、一方方向、双方向、コミュニケーション、放つ、届ける、伝える、劇場、人、大人数、集合、個性、声、心、思い、趣味、好み、個性、色彩、言葉、団体、個人、蜂、光、陰影、太陽、命、自然、あたたかさ、温度、手ざわり、耳ざわり、黄色、山吹、橙、金、銀、白、羽、世界、国境、人種、大地、文化、自然、発展、循環、……。

連想ゲームのようなもの。

とにかく、イメージしたものを片っ端から文字にして書き出してゆきます。実際関連があるかどうかは問題ではなく、どんな世界をイメージしているのか、色や温度や匂いを確認するような作業です。

書き出したものを眺め、自身がどんなイメージでとらえているのかをざっくりと把握、その上で「なぜそのキーワードが浮かんだのか」を思考。この作業を通して本当に関連付いているのか、あるいは単なる思いつきなのかを振り分け。関連付いているものは残し、それをソースにして発展させてゆきます。

07.コンセプト

要素の抽出と理解をある程度まとめたところで、コンセプトをまとめてゆきます。方向性が定まらないと、せっかく抽出した要素も生かせないからね。

今回で言うと、特に意識したのは下記の項目。

◉「真実の矢を射る時は、その先端を蜜に浸せ」
◉海外作品の翻訳劇も上演する予定
◉大人数でのミュージカル

企画団体名の由来となったことわざの意味は絶対に外せないし、ミュージカル団体名にこのことわざが起用されたことの意味や思いを探り掘り下げなければ価値がないし、大人数のミュージカルであること、海外作品の翻訳も視野に入れられていることをしっかり理解しなければ、ただ見映えを重視しただけのハリボテになってしまう。

ま、かといってそれを長ったらしく語ったって仕方ないですからね。無粋になってもイケませんし、イケてませんし。多くを語らなくとも物語り届く・届けるものがロゴマーク!ってね。

08.アイデアスケッチ

まだまだ思考をまとめる段階、次はアイデアスケッチ。抽出した要素・キーワードとコンセプトを元に、思いついたデザインを簡単に書き出してゆきます。スケッチなのでラフもラフ、手が滑って線が狂ってもよし、書きかけて「違うな」と途中でやめてもよし。とにかく数を書きました。ある程度の形までにしたものだけで100個近くになったので、下書きの下書きみたいなのまで含めると実際は150個くらいは書いているんじゃなかろうか。いや、勝手がわからないこともあり、今回はもしかするともっと書いていたかもしれない。

主なモチーフは次の通り。音楽・蜜・矢・劇場・個性ゆたかな大勢のひとびと・イニシャル。

★あとでアイデアスケッチの画像を追加するよ★

09.ピックアップ(シンボルマーク)

アイデアスケッチの中から、実際にデータ作成してゆくものをピックアップ。今回の場合は大きく分けて4つの視点でチェック。

◉企画制作者(主宰・クライアント)
◉ユーザー(観劇という形で応援してくださるお客様)
◉投票者(投票のみの層、ミュージカル・演劇に興味がない方)
◉自分(演劇好きのデザイナー)

取り扱う商品である「ミュージカル・音楽・演劇」を第一に(一見して「音楽」を用いた活動であることが伝わるように)考えながら、どんな見え方がするかを思考・想像し選定。

言葉にするならば「音楽という蜜でやさしさを纏ったきらめく弓矢。心・真実・核心、優しさも厳しさも。大勢の人々に大勢の人々がで切なものを迷いなく届ける。」そんなイメージ。

ちなみに冒頭でご紹介した通り、今回は要項がかなりザックリしていました。良く言えば自由、悪く言えば丸投げという状況であったのでクライアントの意向が全くつかめず、テイスト違いで複数案をピックアップするに至りました。(結局今も誰が何を求めていたのかもわからないまま……。)

10.トレース(シンボルマーク)

今回はアイデアスケッチをスキャンし、Illustratorでパスを引きました。起こしてみたいデザインはそれなりの数に上りましたが、結果的に時間の都合で9案にとどまりました。残りのデザインは手習いがてら隙を見てトレースしようと思います。

デザインほか、制作・創作活動に携わる方であれば、ここまでの流れでお分かりいただけるかと思うのですが「段取り八分」というようなものでして、実際、データ作成の時間よりプランとアイデア出しのための時間の方が圧倒的に長いし重要視しています。

データ作成作業に関しては、エントリーの時点でそこまで丁寧には作り込まなかったからという理由もあります。もしも採用になったらその時には墨だまりの加減をもうちょっと整えよう、とか、そんな具合。そのまま使っても問題無いけど、微調整でもっと良くなるというレベルで上げています。本当ならしっかり納得いくまで作り込んでから出したいけれど、不確定要素に対してつぎ込む労力が多くなり過ぎることを回避しました。なぜならコンテストだから。いや、コンテストの割に既にかなり手間掛けすぎなんだけどさ。それはまぁ、題材が自分が好きな「演劇分野であること」「主催者の行動力を素晴らしいと思っていること」に他なりません。他のコンテストだったらここまで作り込まないし、そもそもプランだってもっとずっと軽く考えていたと思う。

11.文字まわり(ロゴタイプ)

当初、サンセリフでクラシックな感じをイメージしていました。が。演劇のロゴとなると「小さく使われる機会も多い」「文字数が極端に多い」などの理由からサンセリフを選択。「雰囲気はあるけどごちゃごちゃしていて読みにくい」では本末転倒ですからね。

視認性・可読性・判読性、超大事!

オーソドックス、流行り廃りに左右されない普遍的な雰囲気を持ちながらも古臭くなく、それどころかなんならちょっと新しさとかわいらしさ、親しみやすさを醸せる文字。そんな基準で処理しています。文字についてもシンボルマークと同様で、そのまま使っても問題無いけど最終的には調整でどんぴしゃを見つけたいというレベルで上げています。文字間とか縦横比とかウエイトとか色とかシンボルとの距離とか。

それから、取り回しについてちょこっと。今回は要項が曖昧だったこともあり、文字の取り回しについてはそこまでガッツリ手を掛けませんでした。本当はシンボルマークとロゴタイプとして考えたいところだったのだけど、正直そこまで手が回らんかった。そしてまた、投票結果を見るに、やはりそこまで重要視されていなかったのだなと思った次第。演劇業界だとロゴタイプとして使うことは滅多にないのかしら。どうなのかしら。宣伝美術なんていう演劇に携わるデザイン仕事をする機会がある人間であってもまだまだ謎はある。それが演劇業界……。

今回、「私は書体に関する権利の知識が不足しているな」と気付きました。「このフォントはロゴマークとして使ってOKなフォント?NGなフォント?」という疑問が湧いてきて、いろいろ調べながらの作成になりました。権利・規約・規定関係もそうだし、もっとしっかり「文字に関する勉強」をする必要があるなと感じました。やる。

12.レイアウト&調整(ロゴマーク)

シンボルマークと書体の選定が出来たところでこれらを組み合わせ、いわゆるロゴマークとしてバランスを取ってゆきます。今回はシンボルもフォントも扱いやすいデザインを選んでいるので、なんら難しいことはありませんでした。

難しいことはなかったのですが、前述の通り、文字間やシンボルとの距離、またカラーリングがわずかに違うだけでかなり印象が変わってくるので、複数案を試して比べてみるととても面白いですし、デザインの現場では避けて通れない作業です。これが個別発注であったのならばクライアントと一緒に気が済むまでやいやいやりたいところです。

※今回、エントリーにあたってのカラーリングは「方向性だけ合わせてザックリ」でした。これはスマホやPCなど、閲覧者の環境によって差が出やすい部分であるので(もしも採用されたら)厳密には紙焼き・目視での確認・合意が必須だと考えていたから。

デザイン初心者さんでまだやったことがないという方には実際に試してみることをおすすめします。かなり印象が変わるからおもしろいですし、比較して思考することでデザインの違和感に気付きやすくなり力がつきます。

13.コンセプト説明用ビジュアル作成

これは、ロゴマークのデザインと共に掲出したシートなのだけれど、ユーザーが見て嫌悪感を感じない程度のボリュームを意識し、非デザイナーにも伝わりやすい言葉で、可能な限り簡単に重要なポイントまとめたつもりです。(前述 07.コンセプト の項目をビジュアル化したものになります。)

パッと見て必要なところに目がとまる、サクっと読める文字量、簡単に理解できる言葉。そんな感じ、必要最低限にとどめています。無粋になるのは嫌だけど、まるっきり説明がないのも不親切だし、視覚的に面白みのない文章を読むのも苦痛だしね。「なんとなくたのしく読める」を目指した結果です。実際はこういう説明要素にもデザインが必要だと思うよ。特にコンペなどプレゼンの場では差別化を図るひとつのポイントになる。

んまぁ、タイトルの文字間調整まで手が回っていないところとか、「TYPOGRAPHY」という表記になっているあたりに疲れが見て取れますけども。許して。(エントリー直前に駆け込みで作った)

14.エントリー(Twitter)

このコンテストのエントリー方法は、「指定されたハッシュタグをつけたツイートにロゴマーク画像を添付」という方法でした。添付する画像に関しては特に指定もなく、トリミングやレイアウトのサイズも自由、バリエーションやコンセプトなどは付けてもよし付けなくともよし、でした。

コンセプトをツイート本文で補い、メインの画像をどーんと1枚で投稿する方もいれば、メイン+バリエーション+コンセプト+説明で4枚の画像を作り込んでいらっしゃる方も。そんな中で私はメイン+バリエーション+コンセプトという3枚の画像でエントリー。

これには理由がありまして。はい、スマホ対応が目的です。

1~2枚だと情報が補いきれず、4枚だとスマホから見た時にインパクトが弱まるから3枚という選択。メインの1枚が大きく表示され、サブの2枚は小さめ2段表示になるので緩急がつくのです。PCから見ていると3枚も4枚も大して差がないのだけれど、Twitterはスマホから見ている人の方が圧倒的に多いですし(※今回の投票についてはデスクトップ 24%:モバイル 76% とのこと)、それを考えるとモバイルから見た時の印象というのが重要になってきます。

実際どれだけの効果があったかは不明ですが、エントリー作品をTwitter上でチェックしてくださった方なら少なからず見やすかったと思っていただけたのではないかしら?なんて思っています。どんなデザインを作るかも大切だけど、作ったデザインをどんな風に見せるか、それも同じくらい大切です。

15.さいごに

タイミングとは不思議なもので、本当によく挑んだものだなぁと、エントリーから随分と時間が経った今でも思います。「いつかはやらなきゃなあ」と思っていた勉強を、「大っ嫌い!」と思っていたコンテストという形式で取り組み、「間に合わないかも!」と言いながらも押し込みまさかの9案エントリー、そして掠りもしない惨敗っぷり。

作っている間、とても苦しかったけど、たのしかったです。

色々ギリギリ過ぎ&レギュラーワークに支障が出る寸前だったので、この感じは二度と味わいたくない感覚だったけど!だけれども。今後、ご指名でロゴマークの発注が来たらそれは積極的にお受けしようと思いました。思えました。そういう意味ではとても良い経験だったなと感謝しています。

そして本当の最後に、この記事を書いた理由を。

今回の投稿は、自分含めるデザイナーへ向けた記事という意味もありますが、単にプロセス開示のためだけに書いたのではありません。実際にデザイナーにデザインを発注し、しっかりガッツリ作ろうと思ったらこれだけの手数と作業が発生するということをお伝えしたかったためです。

単なるコンテストであるのに、制作に対してここまで手と時間を掛けたのにはそういった理由がありました。「思いつきでなんとなくいい感じのヤツ1個」だったらこんなに手間も時間も掛かりません。ですが、商品やサービスとじっくり向き合い思いを乗せたロゴマークを作ろうと思ったらそんな簡単に済む話ではありません。

「デザインて、なんでそんなに高いの?」

日頃デザインに縁がない方からよく言われる言葉です。その理由を少しでもご理解いただけたらと思って制作しnoteに記しました。デザインソフトやアプリが普及し、誰でも簡単にそれっぽいオシャレなデザインが出来る時代になったからこそお話ししておきたかった。

「見映えがよくて綺麗なビジュアル=デザイン」ではありません。丁寧なコミュニケーションを重ねた末に出来上がり、それをきっかけにして新たなコミュニケーションが生まれる、それこそがデザインの本質だと考えています。

ですから、仕事を発注する際には見映えや値段にばかり気を取られず、そのデザイナーがどんな姿勢で臨んでいるのかにも目を向けてみてください。発注者がそこに目を向けるか否か、デザイナーに愛があるか否かで作り手の商品・サービスへの愛着、お客様・ユーザーとの関係、そういった部分に影響し、少なからず未来が変わってくるはずです。

最後、ちょっと理想論になってしまったかな、思想っぽくなってしまったかな、などと思いつつしかし本音であり大切にしたい部分であるので撤回はしません。デザインを通して一人でも多くの人がしあわせになれることを願いつつ、今回はこのあたりで。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

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