バルミューダのスマートフォンについて思うこと

話題になっているバルミューダ社製スマートフォンについて、あくまで個人的な意見として書きます。サービスデザインの観点から考察すると既存のスマートフォン市場において売れる=幅広く顧客に受容されていく、ことは容易ではないと思います。(無理だ、とは言っていません)

これまでバルミューダ社が市場において好評を博したトースターや電子レンジのような製品群と、今回のスマートフォンの違いをすごく極端にいうと、(ある程度の年齢になってから)「一生に数回しか買わないもの」と、「比較的頻繁に買い換える必要があるもの」との差異が挙げられます。

トースターや電子レンジなどの比較的シンプルな機能を期待されてつくられたプロダクト(そして主たる機能・役割は時代が変わってもさほど変化したりしない)の場合は、製品そのものの「モノ」としての質感や美観、ダイヤルなどを操作する際の”気持ちよさ”などの感性的な品質を極度に高めることで、毎日その製品を使うことが楽しい、快適である、気分がいい、というユーザーにとっての価値を長期にわたって享受できます。そういった製品には、使用期間と享受する価値を考慮しても相応に高額な投資をする妥当性があるでしょう。しかし、スマートフォンのように、期待される主たる機能や役割が時代や技術の変化・進化に伴って高頻度で変化し、筐体の美しさや質感だけでなく、中身であるソフトウェア、そしてサードパーティが供給するアプリなどが複雑で複合的に組み合わさることでユーザーに対して価値を提供・実現する製品(でありシステム)の場合、売出し(ローンチ)時点での設計、製造、デザインを担う企業1社が、長期にわたってそれらのシステム的なエコシステムや、ユーザーにとっての価値を一企業が独占的に定義し、メンテナンスやアップデートなどの運用を保障しつづけることは難しいのでないでしょうか。しかも、スマートフォンの心臓そのものであるOSをAndoirdというGoogle製のものに依拠している時点で、支配権はGoogleにある、という構造を打破できません。

そういった環境を背景に考えると、既存のスマートフォン市場をバルミューダが今回リリースした端末とサービスで席巻することは難しいのではないか、というのがデザインに関わる立場としての個人的な考察です。

もしくは、バルミューダが社会において提案しようとする価値が、既存のスマートフォン市場において人々が期待している価値ではない新しい意味をもった価値であれば、スマートフォン市場にイノベーションを起こす可能性はもちろんあると思います。ただその場合は、もはや今『スマートフォン』と言われているモノ、サービス、市場ではない新たなものを作るということになるでしょう。
そのような可能性に関しては、バルミューダ社が大きな展望をもって新たに立ち上げられたブランド「BALMUDA Technologies」に大いに期待したいところです。

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