欧州のSXSW「Tech Open Air(TOA)」2019オフィシャルツアーを通した私的解釈

今回自身が所属する会社がキュレーション、オーガナイズしたTOAオフィシャルツアー2019に一添乗員役として参画しました。
(TOAとはなんぞや?TOAオフィシャルツアーってなに?という前提は上述リンク先、およびTOAのオフィシャルサイトをご参照ください。すっとばします)
本稿はオフィシャルツアーのレポート作成にあたり、欧州、特にベルリンのイノベーションムーブメントから私たちが学べることは何か?についてまとめた私的解釈の転載です。

ベルリンにおけるイノベーションムーブメントの現場を1週間弱、様々な場所、ひと、動きを集中して見、感じ、対話を重ねた率直な印象として感じたことは、従来の近代的価値観と社会システムへの疑問と批判、そして再構築を国家レベル、社会レベル、産業レベルで本気でやろうとしている、ということでした。
産業革命によって生まれた工業化社会と、それを下支えしている貨幣価値を基軸とした資本主義によってつくられた社会システムは、すでに全世界的に老朽化し、一部崩壊を始めています。

顕著な現れがSDGsを始めとする地球レベルでの持続可能性を前提とした社会構造や、シェアリングエコノミーや信用経済に代表される「お金と物質」以外の通貨的価値によって成立する次世代型価値システムの誕生でしょう。
それは多くのイノベーションを生み出そうとしているスタートアップにおいても例外ではありません。
「完璧であるより、出荷することに価値がある」が象徴するように、不確実で正解がない課題に対してスピードと知恵で早い段階での失敗も厭わずあたらしいことを生み出す文化自体は変わらぬものの、テクノロジーによるイノベーションの領域が医療、バイオ、食品など、人間の生命活動や日常生活の維持に近い領域に徐々に拡がりつつある昨今、「スピードは早いが、不完全である」ことが命にかかわる影響を及ぼしかねない場合もあります。
「完璧よりスピード」というある意味シリコンバレーに代表される米国型スタートアップカルチャーに対し、ベルリンをはじめとする欧州のスタートアップシーンではアンチテーゼを突きつけ始めています。
エグジットとリターンを前提とした外部資本の獲得を前提に、短期の成果・成功を一攫千金的に狙う従来のスタートアップ文化ではなく、より長期的な利益視点で、かつ社会における価値創出・価値共有の持続可能なシステム思考を基盤としてスタートアップを興していく動きがますます活発になるでしょう。
(ベルリン市内にある自律的な形成・運営街区のホルツマルクトは彼らの土地を借り受けている保有者と75年という常識では考えられない長期スパンでの賃貸契約を結んでいます。)


なぜベルリンではそれが可能になりつつあるのでしょう?

あくまで個人的な解釈ですが、それはドイツという国がこの100年にも満たない短期間に、2度もの国家システムの崩壊・転換を経験してきたからではないでしょうか?
第二次大戦で国が解体され世界に大して大きな責任を負わされ、そして1989年には文字通り壁が崩壊し社会のシステムや価値観や倫理観の拠り所が完全に変わってしまいました。
「国ですら、拠り所にはならない」という、ニヒリズムともいうべき諦観と同時に、一人ひとりの個人がそれぞれの拠り所を持ち、「審美性」とも言えるこだわりを持つことによって、理想の環境を自ら作り上げなければならないという決意をしたのではないでしょうか。
このような成熟した市民性と個の強さが、いまの発展と、工業化社会かつ資本主義によって構成されてきた社会システムではないアプローチで社会をとらえ、構築していく動きを支えているのかもしれません。
そのようなベルリナーたちの炎のように、熱く、しかしすべてを見透かすようにひんやりと冷めた目には、効率よくつくられた社会や価値観に、人間が合わせることを強いられる世の中ではなく、豊かな人間性が最大限に尊重される社会とはどうあるべきか?の青写真がおぼろげながらも映っているのではないかと感じました。
長年続いた「虚構の近代」にさよならを告げ、人間性中心の社会システムを再構築しようとしているベルリンという街から、わたしたちが学べることは決して少なくないでしょう。


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