僕は結婚ができない。

めずらしく、とてもプライベートなことを書く。ずっと書こうか悩んでいたテーマだ。なぜ今書くのかということに明確な理由はとくになく、夜中の4時に眠れないので、せっかくだから書いてみようと思った、という程度のことでもある。


僕は結婚ができない。結婚をしたくない。

いつの間にやら35才になり、それなりの身分を持つようにもなり、「どうして結婚しないんですか?」と聞かれることがたくさんある。実にたくさんある。

だけどその質問は、まったくリアリティのない異国からやってきた質問に聞こえてしまう。「どうして野球をしないんですか?」とか「どうしてナイジェリアに行かないんですか?」とか「どうしてあいみょんを聞かないんですか?」というくらい滑稽な質問に思えてしまう。そんなこと、ひとそれぞれじゃないんでしょうか。

ありがたいことに、僕は人生の中で「同調圧力」というものをほとんど感じたことがない。唯一感じる同調圧力が「結婚」だ。誰もがみんな「結婚を当たり前に目指すゴール」として設定しているように思えるときがある。その圧力にときたま少し苦しくなる。

結婚という制度に関して、「なにやらこの仕組みは自分のものではなさそうだ」と思ったのは物心ついた中学校くらいからだった。そこから一貫して変わっていない。

多くの人から「まあ今はそうかもしれないけど、周りが結婚して子どもができる頃になったら、牧野も変わるんだよ」と言われつづけてきた。その可能性を頭の片隅に置いていたのだけど、実際にその歳になるにつれ、この傾向は強まるばかりだった。

ああ、どうやら自分には致命的な欠陥が存在しているらしい。

そのことに明確に気づいたのは30歳を超えてからだったその事実を受け入れるには、さすがにすこし時間がかかってしまった。

その結果、付き合っていた人とは別れることになった。大好きだったし、とても大切な人だったし、心から尊敬していたし、たぶん相性もよかった(と僕は思っていた)。だけど、自分が「結婚という概念をどうしても受け入れらない」という社会的欠陥により別れざるを得なくなった。本当に本当に本当に申し訳ないと思っている。

実は、自分が「結婚できない/したくない」理由は、結婚そのものではなく、その先にあることもわかっている。僕は「家族」という存在を、きちんと受け入れることができない。なぜこうなってしまったのかは自分でもいまだにわからない。ただ、僕にとって「家族」という存在が「近すぎる存在」であり、その距離感が僕にとっては、とにかく「近すぎて」居心地が悪くなってしまうのだ。

近すぎるがゆえに、嫌悪してしまう。周りの仲間や知り合いには絶対に抱かない感情を抱いてしまう。例えば、僕は誰が遅刻しようが絶対に気にしないが、家族が遅刻をするとものすごく心が荒む。その怒りが、精神的な距離が近すぎることにより起きていることはわかっていて、それは僕にとってものすごく居心地の悪い、気持ちの悪い距離なのだ。

僕は人生の中で「寂しい」と思ったことが一度もない。「愛情がほしい」と思ったことも一度もない。たくさんの人たちがたくさんの愛情をくれていることを知っているし、それで満たされている。だから寂しくもない。「結婚しないと歳とったときに一人で寂しいよ」という人がいる。僕は歳をとったときに家族しか周りにいないような人生ならいらないと思っている。

「週末結婚ならいいんじゃない?」「別居婚ならいいんじゃない?」「事実婚なら・・」と説得してくる人がたくさんいる。なにやらみんな「何が何でも他人を結婚させようとする」というプログラムがインストールされているように思える。もしくは一人結婚させるたびにインセンティブがもらえる仕組みがどこかにあるのかもしれない。しかしそれらのありがたいご助言に対する言葉はひとつしかない。「余計なお世話」だ。

こんな風に書いたけれど、別にものすごく困っているということでもない。たまに低気圧くらいの圧力を感じる程度だ。そういう意味で、僕が抱えるマイノリティや欠陥は、生きていく上でそれほど大きな支障が生んでいるわけでもない。恵まれている人生であることは確かだ。

もちろん、結婚したい人はすればいいし、それは幸せなことなのだと思う。ひとの結婚は祝福する。ただ、僕はそうじゃなかった、というだけの話だ。だからどうか、俺に何かを押し付けないでくれ。

この文章に意味があるのかどうかは正直わからない。書く必要なんてなかったのかもしれないし、結婚を大切にしている人に不快な思いをさせてしまっているかもしれない。そうだとしたら、ごめんなさい。

ただ、もしかしたら、自分と同じような傾向を持っている人がいるかもしれない。そういう人たちには、あなただけじゃないし、別にそれは間違っていることじゃないよ、と伝えたいと思った、というのは綺麗な方の理由で、やっぱり、一度吐き出してしまいたかったのだと思う。

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