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この一枚のポスターは、日本を変えるかもしれない。

2018年7月。13日の金曜日。不吉だと言われるこの日の朝、国会議事堂前駅の周辺は、異様な空気に包まれた。その原因は一枚のポスターだった。

公的文書(ようにみえるもの)の上に、不都合な表現を隠すために使われる「黒塗り」と「DAMN.」の四文字。日本語で言えば「クソがっ」という意味で使われるスラングだ。文書の中には「==学園」や「日本レ====協会」という言葉を見ることができる。言うまでもなく、日本の政治を取り巻く問題を皮肉っている。「霞ヶ関」や「国会議事堂前」の駅にはりだされWEBメディアやSNSで瞬く間に話題となった。それは勇気ある政治家からのメッセージではなく、「#ケンドリック来日」を伝えるためのポスターだった。

ケンドリック・ラマーはアメリカを中心に、世界中で圧倒的な人気を誇るラッパーだ。犯罪率・貧困率が高い地域として知られる米カリフォルニア州コンプトンで生まれ、人種差別に起因した事故や犯罪、警察による暴行などを多く見て育ったと言う。ゆえに、貧困や差別、社会的マイノリティへの無理解に対する強い抵抗を音楽を通して表現しつづけている。批判を恐れず、権力や社会の不合理に立ち向かうその姿勢が多くの人に支持され、グラミー賞5冠/2017年米年間売り上げチャート1位を記録。さらにはジャーナリズムにおける最も権威あるピューリッツァー賞を獲得した。その世界的な熱狂に比べ、日本にはまだまだ熱が届いていない。今回のポスターは、彼の来日をより盛り上げるためにつくられた、ただの広告にすぎなかった。「DAMN.」はアルバムのタイトルそのものだ。

しかしこの広告は、2つの点で大きなエポックとなった。

CREATIVE × PR の成功

一つ目は、広告クリエイティブ×PRの理想形を実現し、低予算で圧倒的な広告効果を発揮した。ポスターの掲載はほんの数カ所だが、CINRA.netの記事は数万シェアをされ、Twitter上では「国会議事堂前」「ケンドリックラマー」が数時間トレンド入りし、様々なメディアがこれを「事件」としてとりあげた。その結果、ケンドリック・ラマーの日本における存在感を高めること、フジロックへの参加という情報を広めること、さらには彼のパーソナリティまで伝えることを達成した。多額のお金をメディアにつぎこんだところで、そのほとんどが誰の目に止まることなく消えていく中で、それは本当に奇跡的なことだ。

ブランド・ジャーナリズムの体現

もう一つは、広告に新たな価値を付加したことにある。ただの広告ポスターが、社会や国や政治に対して、強くメッセージを残すことができるのだと証明した。女性の社会進出への問題にアプローチした「Fearless Girl」のように、「ブランド・ジャーナリズム」を体現した。これは、日本の広告業界において、大きな進歩だといえる。企業の広告は、ただモノゴトを売るためだけにあるのではなく、企業の意思や姿勢を表明するための場でもある。この広告が実現されたことで、日本の広告のあり方が一歩前に進んだ。

もちろん賛があれば否もあった。「ケンドリック・ラマー本人が行ったことではない」「広告プランナーの意見を押し付けるな」しかしそれらの批判はあまり的を射ていない。確かにアイデアは広告を担当したプランナーが出したのかもしれない。しかし実現の決断をしたのは、間違いなくケンドリック・ラマー側(事務所やマネージャー)の方々のはずだ。われわれ企画者は、テーブルの上に企画というカードを並べることしかできない。

広告の社会的な意義について

これに関しては個人的な妄想になることを断りつつ書く。トランプ政権に対し「モラルと品格がない」と痛烈に批判している彼に、日本という国の今の状態を伝えたら、やっぱりその言葉を使うのではないだろうか。

DAMN.

日本には、破格に売却された謎の国有地があるんだ。

DAMN.

日本には、52年ぶりに新設された謎の獣医学部があるんだ。

DAMN.

日本では、それらに関して、公式文書が改ざんされたりもするんだ。

DAMN.

日本では、記録的な自然災害のなか、カジノ法案の審議と水道民営化関連法案の話をしていて、災害対策がおざなりにされたんだ。

DAMN.

いま、この国は、おかしなことになっている。

DAMN.

だからこそ、この企画は世にでることとなった。彼の個性、姿勢を表現した広告として、これ以上の広告があり得ただろうか。ただの来日を伝える広告ではなく、彼のパーソナリティを活かして、社会へ一石を投じることで波紋のように広がる広告となった。

僕はこの流れを心から応援し、支援したいと思う。これから先の広告は、ただただ(大差のない)商品スペックを伝えるようなものであってはならない。企業がよりよい社会のために行動し、その意思や姿勢を共感し、ファンとなってくれる人を増やす活動になるべきものだ。

この先も、誰も見ない大差のない商品広告をつくりつづける?

DAMN.

実際にユーザーでもないタレントを使って広告をつくる?

DAMN.

日本の6兆円の広告費を、ただただものを売るためだけに使う?

DAMN.

よりよい自然環境について、より差別のない過ごしやすい社会について、より生きる価値のある未来について。企業も個人も、社会の課題と真摯に向き合うことが必要だと思う。

プロダクトもサービスも広告も、すべてをつかって、すべての企業の、すべての部署の人たちが、よりよい未来に向かって仕事をしていくようになることを切に願う。ケンドリック・ラマーが音楽でそれを体現しつづけているように。

日本社会にはびこる前例主義、ご都合主義に支配されそうになったときは「DAMN.(クソが!)」と叫んで突き進むこととしよう。この広告は、その一歩になるんじゃないかと期待している。

最後に、ケンドリック・ラマーのこれからの活躍を、シンプルにとても楽しみにしている。日本に来てくれることがとてもうれしい。結局のところ、彼が来てくれることになったから、このような広告が実現したのだ。音楽や文化のもつ力を、僕なりにも応援していきたい。

とある事情で、フジロックにはいけないことだけが残念・・・

DAMN!

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文鳥社とカラスという会社(通称バードグループ)の代表とエードットの役員をやっています。企画、デザイン、会社経営のことなどについて書いていければと思います。

コメント2件

先ずは表現の自由ね!それから政治をドウニカしなければ?!私はエッセイ『電子投票・・・それから』を考えるものです?!https://note.mu/michizane/n/nacaf429062d4
ツイデニ私は岡山理科大学OBです!エッセイ『加計学園』参照!https://note.mu/michizane/n/n94f0b2e60960
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