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「文章のリズムが悪い」とはどういうことか

先日「文章を書くから考える」といった投稿をした際に、友人さんから「『20歳の自分に受けさせたい文章講義』にも同じようなことが書いてある」とコメントをいただき、早速読みました。

本書は、後に「嫌われる勇気」がベストセラーとなるフリーライターの古賀史健さんが2012年に文章術について書かれた本です。

本書の「はじめに」に「書くこととは、考えることである」と書かれていて、自分がぼんやりと考えていたことが解像度高く解説されており、学びが多かった一冊です。

その中でも特に、第1講の「文章は『リズム』で決まる」に書かれている「『リズムの悪い文章』はなぜ読みにくのか」が特に刺さりましたのでご紹介します。

早速ですが、以下の文章を読んでみてください。
「企業のリストラが進み、日本の終身雇用制度は崩壊した。能力主義の浸透は、若手にとっては大きなチャンスである。若い世代の前途は明るい。学生たちは自信を持って就職活動に励んでほしい」

どうでしょうか。個人的にはとても読みづらかったです。内容自体はありがちな文章ですが、喉に魚の骨が刺さったような違和感があります。その理由はなぜでしょうか。分解してみると、ヒントが見えてきます。

「企業のリストラが進み、日本の終身雇用制度は崩壊した。」
「能力主義の浸透は、若手にとっては大きなチャンスである。」
「若い世代の前途は明るい。」
「学生たちは自信を持って就職活動に励んでほしい」

上記のように、個々の文章自体は明らかに間違っているという内容ではありません。

しかしながら、文と文が論理的にはつながっていないにも関わらず、あたかもつながっているように元の文章は書かれているので、リズムが悪く感じます。

例えば、「企業のリストラが進み、日本の終身雇用制度は崩壊した」ことがそのまま能力主義の浸透につながるわけではな必ずしもありません。仮にそうなるならば、その説明が必要ですが、上記の文章はその説明がなく、あたかも当然のように終身雇用の崩壊が能力主義につながるという論理展開をしております。換言すると、議論のすり替えが行われていると言えます。実際、上記のような文章は世に溢れています。

このように、「文章のリズム」とは、結局のところ、論理展開の精度といえます。論理展開がしっかりしているほリズムが良く、論理展開がめちゃくちゃな場合は、必然的にはリズムは悪くなります。上記の例では、個々の文章を論理展開の説明なしにつなげているため、読んでいてリズムが悪く、すっと頭に入ってこないという状況になっています。

もちろん、ライターの糸井重里さんのように意図的に読者に解釈の余地を与えて、考えさせるという文章もあります。例えば、かつてハーバードビジネスレビューに掲載された、糸井重里さんが述べた資本市場とほぼ日との関係の記事は、一度読んだだけでは糸井さんの意図が簡単には理解できず、必ずしも読みやすい内容ではないものの、考えさせられる文章(厳密にはインタビュー)になっています。

しかし、このような文章スタイルは明らかに上級者だから書けるものであり、書くにあたっては深い思考と卓越した文章力が必要です。素人が一朝一夕にかけるものではないのは言うまでもありません。

現代において、人間は人類史上かつてない程の量の文章を読んでいます。日々のメールはもちろんとのこと、SNSの投稿やwebの記事等、文章を読む機会が明らかに10年前よりも増えています。と同時に、SNSを通じて書き手が増えたこともあり、読みにくい文章が増えていることも事実です。

自戒も込めてですが、私自身リズムが良い文章、すなわち論理展開の解像度が高い文章を書けているとは思えません。すぐに読みやすい文章が書けるとは思いませんが、まずは上述したような読みにくい文章は書かないよう、トレーニングを積んでいきたいですね。

以上、文章を書くから考えるの続きとなる、文章とリズムについてでした。

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