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会社のミッションはなんのためにある? 「毎日の料理を楽しみにする」クックパッドのとらえ方(後編)

クックパッドはこれまで、料理レシピサービス「クックパッド」をはじめ、生鮮食品EC「クックパッドマート」、料理マルシェアプリ「Komerco -コメルコ- 」など、テクノロジーの力を使いつつ、つくり手の課題によりそったサービス開発をテクノロジーの力を使って開発して進めてきました。

自社のあるべき具体的な姿や果たす役割をミッションに掲げる企業が多い中、なぜクックパッドは、「毎日の料理を楽しみにする」という抽象的なとも思えるミッションを掲げているのか。また、どのような世界を目指して取り組みを進めているのか。その世界が実現した先には、どのような未来が待っているのか。

2010年からクックパッドで組織の変遷と歴史を長く見守り、自らも作り上げてきた執行役CTOの成田一生に聞きました。

前編はこちら

※写真は撮影時のみマスクを外しています

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「毎日の料理を楽しみにする」人が増えると、世界が変わる

──クックパッドのミッションが達成されると、具体的にどのような世界になるのでしょうか?

料理を家で楽しむ人が増えると、経済が変わるんです。

たとえば、外食を中心に食事をする人が人口の8割という社会では、経済も流通もそれを前提に作られます。料理をする人が少ないと、個人向けのスーパーは成り立ちませんよね。代わりに安くておいしい外食の店が増えて、個人向けに卸す生産者は減っていき、統廃合が進んで生産が集中していきます。このとき、生産者の主なビジネスの相手は企業になるので、どれだけ安定した品質で大量に作れるかが大切になります。

逆に、人口の8割が家で毎食とも料理する社会において、料理をする人がそれぞれのこだわりに合った食材を求めるようになると、小規模な生産者や彼らがつくる食材にも焦点が当たり、食材や流通、料理の楽しみ方に多様性が生まれるんじゃないかと考えています。

料理をする人が増えると、食べるものを自身でコントロールできる人が増え、環境や身体に優しい食材や、その生産過程に興味が沸く人が増えます。環境や身体に良い食材の需要が増すと、その生産量が増え、環境問題や人々の健康に良い影響が起きます。健康寿命が伸びるでしょうし、おそらくは家族で食卓を囲む頻度が増え、子どもの心の発達にも良い影響を与えます。
このように、食に多様性を生み出し、料理を楽しみにすることが、様々な社会課題を改善するきっかけになると思っているんです。

食の良循環マップ

食の良循環マップ

エゴイスティックに世の中を変えていく

──世界の未来を変えたいということですか。それはエゴイスティックな考えでもありますよね。

そうですね。クックパッドは、いまの社会の流れと戦って、料理の力でエゴイスティックに世の中を変えようとしている組織です。それが、僕たちの信じるより良い世界につながっているんです。

そして、料理で世界が良くなるということに加えてもう一つ信じているのは、料理で良くなったであろう世界は、疑いようがなく良いということです。なぜなら、料理が楽しみになって困る人はいないからです。僕たちはミッションに基づいて事業を進めていき、うしろめたさなく世の中を良くできるんです。

ひたすら「毎日の料理を楽しみにする」ことに集中すれば、誰かを苦しめることがなく、必ず良い方向に向かうだろうと信じられる。これは、僕たちのミッションの強みだと思います。

──多くの人にとって、料理レシピサービス「クックパッド」は楽しみよりも便利というイメージが強いと思いますが、そちらもミッションに基づいているのでしょうか?

そもそも料理レシピサービス「クックパッド」は、「今日なに作ろう」とレシピを探す人に向けて始めたものではないんです。

日本の家庭では、料理の工夫をノートに書き留めて、子どもが結婚するときにそのノートを持たせるといったことが昔から行われていました。そういう家庭の料理の知恵が家だけで引き継がれるのではなく、インターネットを介して社会に広がっていけばいい。そうしたら、楽しみに気づく人が増えたり、工夫がかけ合わされて新しい発見ができたりして、料理をもっと楽しみなものに進化させていける。そんな考えが、サービスの原点です。つまり、投稿することを楽しむ人ためのサービスとして始まりました。

でも、ユーザーに投稿してもらうことで自然とレシピ数が増えて、検索する人にも使いやすいサービスになりました。結果的に、「今日なに作ろう」という課題の解決にレシピ検索がマッチしたことでサービスが成長しましたが、元々は、家庭の知恵を共有することからスタートしているんです。

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クックパッド」初期のPCトップ画像(2000年11月時点)

レシピ投稿者のクリエイティビティに向き合う事業をつくる

──投稿を通して、毎日の料理を楽しむということですか。

そうです。でも、レシピは便利なものとして消費されていくものなんですね。時短レシピが知りたいとか、もっと新しいレシピが欲しいとか。

「毎日の料理を楽しみにする」という観点で言うと、消費されていくコンテンツを扱っていることよりも、投稿を楽しむ人のクリエイティビティに向き合う事業をしていくことが重要だと思っています。

「つくり手*」をもっと生み出したり支援したりをどれだけできるかが事業課題としてあって、近年注力しているクックパッドマートは、その課題を解決するうえで食材のつくり手にフォーカスしているサービスなんです。

僕にパン作りが面白いということを教えてくれた友人のように、楽しみのきっかけを生み出す人を支援できるようなサービスをどう生み出していけるかに、この数年はトライしていくつもりです。

──これまで、他にはどんなチャレンジをしてきましたか?

僕が携わっていた事業の1つに、スマートキッチン事業というのがあります。

ここ数年、スマートキッチンが世界中で研究開発されたり、キッチンにあるものをインターネットにつなげて何ができるかということを、各社でやり始めています。

その中、クックパッドでは、レシピ情報を使って、料理を楽しむ物理的な支援ができるかというチャレンジをしています。以前、醤油、酒、みりん、酒、酢の4種類がレシピに合わせて配合されて出てくる、インターネットにつながった調味料サーバーというのをつくってみました。実際にハードウェアを作って、日々の料理で自分達で使ったり、モニターの方にも使ってもらったりして、どんな料理の楽しさや工夫、気づきが生まれていくかを研究していました。

ハードウェアを実際に自作して、自分たちの生活の中で使うという、僕たちのサービス開発でも新しいチャレンジをすることができるようになったのは良かったですね。

調味料サーバー OiCy Taste

レシピ連動調味料サーバー「Oicy」を開発


組織のレベルを上げることが成長の鍵

──組織面で、ミッションに基づいた取り組みはありますか?

2021年5月、横浜にオフィスを移転しました。この周辺地域にはクックパッドマートにとって重要な食材の生産者の方が大勢いらっしゃいます。

それ以外にも、横浜は歴史があって、その土地ならではのものが生み出されている場所なんです。このオフィスの周りに住んで、買い物をして、ごはんを食べて生活をする社員が増えていくことで、生産者や食の新たな楽しみを生み出している人たちとの距離が自然と縮まり、事業が前に進んでいくんじゃないかと思っています。そのために、オフィスの近くに住む人には住宅補助を行っています。

──ミッションドリブンな企業だということは分かりましたが、現在の組織ではどのような人が活躍しているのでしょうか?

自分が持つパッションを持ち込んでくる人ですね。自分がやりたい人生のテーマのために、クックパッドの思想とか仕組みを利用する人が、クックパッドの事業を前に進める人材だと思っています。

ミッションに従順で決められたことをひたすらやるタイプの人より、自分自身が世の中に対して成し遂げたいテーマをもっていて、それを成し遂げるためにクックパッドが必要だという動機をもって入ってくる人が、クックパッドを成長させるんじゃないかと思っています。

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──最後に、ミッション達成のために、クックパッドに必要なことを教えてください。

ミッションを達成するためには、組織のレベルを何倍にも上げる必要があります。

一人ひとりが世界トップレベルの欲望を持って入社すると、クックパッドの可能性が広がります。情熱的で、物事を自分の力で進めていくリーダーシップをもった才能が集まると、さらにそういう人たちを呼び寄せて、組織のレベルが自発的に上がっていくと思うんです。そうすると、今はできないようなことができるようになったり、今思い付いていない課題や世界を見つけ出したりということが、新しい人材の採用によって起こっていくと思います。

次の楽しみを見つけてくれる才能を採用することが、ミッション達成のために必要だと思っています。

(文:菊地紗矢香)

クックパッドの働き方は、クックパッド採用サイトの社員インタビューでも紹介しています。

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