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料理本トレンド観察 〜Twitter, YouTuber本が変えたこと〜

記事の見出し画像に挙げたのは、2020年上半期に話題になった料理本。
一部これから出る本も混じっていますが、いずれも今年前半に著者デビューし、販売が好調だったため第2弾の発売が決定しているというからすごいですよね。
勢いがあります。
そんな料理本たちを見ていきましょう。

料理YouTuber界のアイドル

例えば、You Tuber料理家さんの中ではアイドル的位置づけのはるあんちゃん。

はるあんちゃんも2冊め出版が決定です。

また徹底的に作り方を簡略化&おいしいを実現していると評判のてぬキッチンさんはデビュー作の『材料2つから作れる! 魔法のてぬきおやつ』(ワニブックス)が好評のあまり第2弾を9月18日に発売予定。

これらは書店で平積みになっている本も多いので、一度は目にしている方も多いかと思います。
そうです、TwitterやYou Tubeを主な活躍の場とする著者の本が急激に脚光を浴びました。2020年の料理本トレンドは彼らが作っている、といっても過言ではないと思います。

そのカギは、著者への共感。
ってこれはネット発信の料理家が次々とデビューするようになった2005年前後から続く動きなので、珍しくもなんでもありませんね。
ですが、当時は匿名で顔出しほぼなしだったのが現代は当たり前ように顔を晒し、読者/視聴者に語りかけています。
素のまま。
そこにファンがついて、一大コミュニティが出来上がっています。
コミュニティのトップが本を出したらファンは「応援」したくて躊躇なく買う
私もそういう動機で買うこと、珍しくありません。

ただごめんなさい!
私、このおふたりの本は購入していませんので本の内容について書けません。
書店で手にとってご確認くださいね。

「理論派」「技術派」の両輪が今年は吉

もうひとつ、明らかになったのが料理界モードが「女性脳」から「男性脳」へ転換したこと。
これは何かというと、誤解を恐れずにざっくりまとめるならば、これまでの世界観重視の「女性脳」的な料理家の時代から、理論と技術に基づいた「男性脳」的な料理家の時代になった、ということです。

背景にはもちろんwithコロナの新しい生活様式があります。これまで料理に興味がなかった人たちが否応無しに自炊に取り組まざるを得なくなりました。
そんな人たちにとっては、材料や手順が少なく、言われた通りに作ればおいしいが保証されていることは絶対条件
素敵な料理写真で「おいしそー」と目を引くものよりも、今すぐ作れるものかどうか。また、レシピに「お好みで」とか「塩で味を調えて」と書かれていても「わかりません!」てなります。

すると140字でまとまった、いえ140字でまとまる料理が「神」

今年2月に発売になり、Twitterのリツイート・いいね数、You Tubeの再生回数はうなぎ登りのだれウマさんの「極上」なのに「ずぼら」が実現する料理。
料理するご本人の鍛え上げた逞しい腕も鑑賞ポイント。

7月に出たこちらはTwitterで動画を流すことで、もっともっととっつきやすさを追求したリロ氏。 ←正確にはリロ氏

そもそも自らが発信して話題になった「絶望的に頭が悪い料理」という強烈コピーに加え、ホットサンドメーカーでなんでも作っちゃうという目ウロコ的な調理方法は目を引く要素たっぷり。

そしてこの二人の共通点は、平成生まれの若い世代だということ。
思い込みゼロ。
軽やかで気持ち良いです。

あ、つい新刊を見出し画像に入れちゃったけれど、TwitterやYou Tubeで人気というより、近年のスパイスカレーブームの中、突如軽やかに登場した印度カリー子さんも平成生まれ。ですが、こちらは別のテーマでぜひ掘り下げたい!

さて、「めんどうなことしない」「手っ取り早くウマい酒が飲みたい!!」と大主張するふたりがそれぞれ発表したのはこちら。

ジョー。さんはTwitter、とっくんはYou Tubeをそれぞれ得意としています。
そして本の構成がとにかくわかりやすく、読みやすいです。食べたいもの、作りたいものにすぐ行き着けます。

最強の組み合わせ「動画×本」のYouTuber

文字よりも動画のほうがフィットする人にとってはYou Tubeがあります。
You Tubeは格好の学びの場。
まったくの素人の料理好きからプロの料理人まで、あらゆるレベルであらゆるジャンルの料理が学べます。
しかし、動画は見直すのが面倒という手間があったのを本が省いてくれる。
NHK教育テレビ、もといNHKEテレの講座番組がやってきたことが今やYou Tubeを舞台に行われているんですよね!

その2大巨頭とも言えるのが、プロ料理人であるこちらのお二人。

まずは6月にCOCOCORO大西哲也さんが展開する「料理×科学」で家庭料理の基礎と人気レシピを解説。

そして、調理場の風景そのものが極上のエンターテイメントになっているシェフ ロピアことイタリア料理店オーナーシェフ小林論史さんのこちら。

「極上のおうちイタリアン」を作る3つのコツをベースにプロのクォリティで仕上げる技を解説しています。どちらもYou Tubeと本とを行き来しながら確認できるのですから、最強のテキストブックですよね。

本だけ、動画だけ、ではない料理本を作るのが最強だということはどの出版社でもわかっていたことです。でも、紙の本の編集者には動画は作れない。逆もしかり。だから『きょうの料理』であり『キューピー3分クッキング』であり『おかずのクッキング』であり『上沼恵美子のおしゃべりクッキング』だったんですよね。

でも、従来のTV番組&テキストのコンセプトはあくまでも「今日何作ろうか(食べようか)」に特化したものでした。
それが2018年にリュウジさんのような強烈なキャラクターと「バズレシピ」という最強ワードの登場によって料理本の流れが変わり始めました。

つぶやきから動画で魅了、本で安心、書店・テレビで拡大

例えばリュウジさんが「至高のレシピできた!」とTwitterでさくっとつぶやいて、画像とレシピを広めてYou Tubeに誘導。
親しみやすい笑顔のリュウジさんが動画でさらに作りやすさ、おいしさを解説しながらも、TwitterとYou Tubeそれぞれ微妙に異なる利用者をざくっと取り込んでいく。
その様子をテキストブックとして出版され、リュウジさんのファンや、書店という場所でリュウジさんを知った多くの人が手に取るようになる。するとテレビ番組でも取り上げられると、また広い世代に浸透するようになる。
この循環はもう止まるところを知りません。

そんなリュウジさんの最新刊はこちら。

「バズレシピ」によるベジ飯、野菜レシピを集めた本です。

「バスレシピ」という言葉には、それまでさんざん料理本界を支配してきた「作りおき」概念からの解放がありました。やったーって思う人は多かったと思います。だって「今日食べたいものを今日作る!」がリュウジさんのコンセプトです。

そう、何日も前に作ったものより今日作ったもののほうがおいしいでしょ。
味しみを期待するにしたって「昨日のカレー」止まりにしたいでしょ。
何よりも、
「忙しいのに平日楽のためにさらに休日をつぶすなんて嫌」
そういう声をリュウジさんがオールクリア!

ツイートのような短い文言、動画というメデイアにおいては世界観より理論と技術、「役立つか役立たないか」を15秒で判断されてしまいます。
この世界を主戦場にする著者たちは、わかりやすい主張を繰り返すほうが「みんなの役に立つ」ということに早くから気づいていました。

そうなると、料理本の世界も変わります。
タイトル、キャッチ、料理写真、デザイン、そして本の構成そのものが変化してきているのが見て取れます。
料理本の制作は、短くて6か月、長いと8か月ほどかかるので、今年の6月以降に出版された本、すなわちコロナが脅威を増した3月以降に編集作業が行われていたであろう本は明らかに修正されているように見えます。

「誰がつくってもプロの味」
「家イタリアンが劇的に美味しくなる」
「世界一ラクチンなのに超美味しい」
「失敗ゼロ」

これはすべて最近のヒット本表紙に踊る文字です。

でもね、料理本ランキングをじっくり眺めると、TwitterやYou Tubeを舞台にしていない料理家さんの本の中にもよく売れているものもあるんですよ。
それらは一見女性脳的な、ソフトな色合いとフォントで優しく語りかけるタイトがついています。
しかしです。
そんな本たちであっても、料理家さん自身の世界観よりも、理論と実践が主軸になったレシピで展開されています。
ただ、読者対象を女性にしているからそういうデザインになっているだけ。
形容詞の料理じゃないっていうか…。

こちら側の本については、別途まとめていこうと思いますが、とにかく。
2020年の料理本界はTwitterとYou Tube発信の本が変えた

それと……個人的な注目ポイントではあるんですが。
KADOKAWA、ワニブックス、ライツ社の3社の動向を気にしています。
これまで料理本を出していなかった版元の新規参入も続くと思います。

ありがとうございます。新しい本の購入に使わせていただきます。夢の本屋さんに向けてGO! GO!