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売れてる料理本から透けて見えるものに、料理本のおもしろさがある。

料理の本を編集するようになって10年ほどです。
編集稼業としては30年もやってますから、料理本編集者であると言うにはぜんぜんまだまだ、駆け出しにすぎません。

大好きな世界なので夢中になって仕事に没頭していたら、時代はどっぷりと「レシピはスマホで検索するもの」で、書店に並ぶ料理本はSNS発信の人気者の本ばかりになりました。

そういう本はとてもよく売れています。
よく言われるように、その著者のファンがフォロワー数という形で具体化され、売れるであろう部数も容易に読み取ることができて、その著者の世界観が好きな読者層もはっきりしていることから販売戦略も立てやすいし、著者が一言「本がでます!」と書けばフォロワーがあっという間に画像付きで口コミしてくれるしで、SNS出身の著者は出版社にとって大変ありがたい存在です。

が。
SNS発信の料理本だからよく売れるんだ、ってことではありません。
赤字にならないように作ることができる本という意味ではその通りです。
でも、インスタ本が流行りだしてからここ3年ぐらいのSNS発信本をよーく見てみてください。
重版できているか。
2冊め、3冊めと継続して出せている人が何人いるか、と。
これ、めっちゃ意地悪な視点ですw
(自分の本をたっかーい棚の上に上げてしらんぷりして申しております)

話はそれますが、私も御多分に漏れず子どもの頃から活字中毒です。
文字が書かれているものは無意識のうちに目で追ってしまうし、文字から浮かび上がる仮想世界を目前に展開して楽しみながら読み込んでいくスタイルを好みます。
だから文芸書を読むかのごとく、料理本も「読んで」、本の上で一緒に「料理」して楽しみたいほうです。

そうしてさまざまな料理本を読んでいると、表紙を開いた時から裏表紙をとじるまでの100ページちょっとの中にストーリーが流れているのに気づきます。
昨今の料理本だと96ページ仕立てが多いかな。
そんなたった96ページの中なのに、良いストイーリーが流れている本は嫉妬してしまうほど出来の良い本だと感じることが多いんです。
そういう本はたいていの場合、とてもよく売れています。
「痩せる」とか「時短」といった昨今の料理本のパワーワードが全面になった本であっても同様です。
痩せる本だから売れるわけじゃなくて、ちゃんとストーリーが立ってる本だから売れるんだとわかります。

また、良いなあと思った料理本著者さんについて過去を遡って探して買って、さまざまな版元の本を読み比べてみると、おお、なるほど、この本は著者の思いが上手に編集されてるな、こっちはうむむ挑戦的だけど深掘りしすぎちゃったんだな、この本は急いで作ったのかなあ……などと透けて見えてきてしまうことがあって。
編集工程が透けて見えるといいますか。著者と編集者のタッグがうまくいったかいかなかったか、とも言えるかもしれません。

一般的には、料理本のレビューでは「このレシピ数でコスパが…」、とか「私の作りたいものが載ってない」「材料が多い(少ない)」「手順が多い(少ない)」ってあたりで評価されてることがほとんどですが、そこじゃない感が強いのです。
料理本は実用書に分類される本ですし、多くの人がそう考えているのもわかっています。家電の取説と一緒でしょ、と言われたらその通り。
さらに言えば、料理研究家かプロの料理人か、料理愛好家の素人かっていう立ち位置も評価に大きく関係しているかもしれません。
それら一切合切を含めて、料理を媒介に表現しようとしている世界、という視点で料理本を眺めてみると大変におもしろいんですよ、ということをお伝えしたい。

次回は料理本の実用書ではない部分について、もっと考えていこうと思います。



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