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料理本を作りたい人を応援する理由、料理本を作る目的

前回の投稿にさっそくたくさんの反応をいただいた。ありがとうございます。
料理本を出版したい。
料理をする人が、消えてしまう料理を本という形で残していきたいと考える気持ちは痛いほどわかる。

とくにコロナ禍に翻弄される今、思うように営業ができていない飲食店のシェフを応援する方法のひとつとして、料理本出版という形があってもいいと思うのだ。
例えるなら、アイドルが写真集を出すように、CDに歌声を残すように。
料理家だって、ファンになってくれる人たちのために自分のレシピを紙媒体にして、いつでも楽しんでもらえるようにしておけば、料理教室や料理イベントといったリアルな場での交流がより活発になるだろう。

ファングッズとしての料理本はありではないか。そんなことを最近よく考える。

話は飛ぶが、私が最初に本にはまったのは小学校1年生の時。
入学してすぐ体調を崩して学校を休んでいた時、入学祝いで本のセットが届いたのだ。たしか20冊ぐらいあったと思う。いわゆる名作童話シリーズとか偉人シリーズなどに混じって、『大きい1ねんせいと小さな2ねんせい』や『カエルのエルタ』『ライオンみどりのにちようび』など創作童話が入っていてすぐに夢中になった。

それからは本はいつも友達だった。
母が時々連れていってくれた東京都内の大きな書店はパラダイス。漫画にハマり、ananやOliveなどマガジンハウスの雑誌にもワクワクしながらおしゃれを学び、高校の教科書で読んだ古典をきっかけに漱石先生や鴎外先生、ゲーテなど海外ものの古典も一通り、SF世界もしっかり堪能した。椎名誠の『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』を読んでそうか、私もこっち側の人間なのかと自覚したんだった。

それなのに、就職活動をする段になってもなぜか出版社に就職するという道はまったく浮かばなかった。どこかのメーカーの社員になって、海外駐在したいぐらいのことを考えていた。

しかし、ある日突然、本当にびっくりするぐらい唐突に、「本を作る仕事」というアイディアが私の目の前に現れた。大学に入ってしばらく高校時代の親友たちに向けて「クミの●●通信」みたいな絵葉書を送っていたのを思い出したのだ。
プリントゴッコでわざわざ多色刷りして、原宿の店の情報やら新刊情報とかラジオ番組のこととか、雑多な情報を集めて書き送っていたっけなあ、あの●●通信づくり、楽しかったっけ。そうか、あれを仕事にするには編集者になればいいのか、と。

そんな私のために父が大手広告代理店にいた知人に相談したのか、その人の口利きで広告系の編集プロダクションの見習いに入ることになった。そこを1年ほど勤めた後、出版社に転職した。
それからちょうど30年働いた。
そしてわかったことがある。

本は誰かの心の火を灯す。
一方で出版社にとって本は大切な商品だが、著者がいても著者だけでは作れない。その道のプロが集まってプロの仕事を尽くして作るものだ。
そもそも出版社は大きな賭けをすることになる。
売れるか売れないか判断をしようもない段階で、著者やスタッフに支払う印税やギャラを約束しなくてはならない。ものすごい先行投資をするのだ。だから「料理本出したいです!」という声をいただくたびに、私の中の意地悪モードにスイッチが入る。

「あなたの料理、プロのカメラマンやスタイリストが関わる価値があります?」
「誰かの問題解決になります?」
「あなたのフォロワー何人?」

と無神経なフリして、嫌らしいことをしゃあしゃあと言ってのける。
だって企画会議では、もっとあからさまな言葉の集中砲火を受けるからだ。火達磨になりながらがんばるのは私だ。「いえいえ、この料理家はフォロワーが●万人いて、リアル料理教室に毎月このくらいの人が来て、類書の結果は…」とデータで武装して会議に臨む。

そんなハードな状況を跳ね飛ばして企画会議を通したところで、売れるかどうかはわからない。この本がいいと判断するのはマーケット。
売れなかったら次だ。いや、そもそもそういうキラー企画(と私が信じてる)が常に3冊から4冊ほど同時進行しているのだから、1冊に熱中する時間なんてわずかだ。売れる本を作るためには、マーケットが欲しているテーマの一歩先を探す。
そのテーマを、その人を、そのやり方を、その料理を、調理方法を欲している人に響く強い言葉を探す。その繰り返しだ。無神経でないとやってられない。

と、カッコつけてもっともらしいことを書いているが、実際のところは編集長という立場を利用して、企画会議をぶっとばして社長に直談判して作ることも多かった。ある著者に惚れ込んだら、いつもの制作チームの腕を信頼すればよかったからだ。
でも、いつだって誰かの食卓に灯りをともすために料理本を作る。そのために頑張る。だから「私の料理本を出したいんです」じゃなくて。チームの一員として、「誰かのためになる料理本を作りたい」という人のために、道を拓く応援をしたいと思っている。

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