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VOICE 2020: 1人の100%より100人の1% ~ 元PTA役員さんに聞きました

PTA、この苦い響き(笑)。今年度は実質活動休止状態で気が楽‥‥なんて声もちらほら聞きますが。そもそも、PTA役員って何をするの? 必要? 時代の変化の中、どんなあり方が望ましい? いろいろ考えたくて、福岡市内の小学校で3年前にPTA役員を経験した紅緒さん(仮称)にお話を聞いてみました。

※PTA活動は、学校や年度によってさまざまです。あくまで紅緒さん個人の経験談であることを前提にお読みくださいね。

聞き手・編集: イノウエ エミ
(2020年7月下旬取材。写真はすべて紅緒さんにご提供いただきました。)

◆ “キャラ” じゃないからこそ役員に

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―――役員になったきっかけは? 自薦、他薦‥‥

もちろん自薦じゃないですよ、そんな命知らずじゃありません(笑)。
「役員選考委員」ってわかります? 

―――次年度の役員を選ぶお仕事ですよね。初めて知ったとき驚きました、そんな委員があるのかと。

です、です。知り合いがその委員をやっていて、本当に困ってたんですよね、全然決まらなくて。何だか気の毒になって、「一年だけなら」と‥‥。
私はその数年前に関東から引っ越してきた人間で地元のしがらみもないし、なんというか、もともとPTAっぽいキャラじゃないんですよね(笑)。そういう人間が一人くらいいてもいいのかな、と思った部分もあります。

―――役割としては、どういう位置に?

副会長です。当時のうちの学校は会長が男性で、副会長は女性二人、男性一人で計三人。うち、二人は学校の外の担当です。市や区の会合に出て、伝達事項を持ち帰ったり、学校で集計したものを持って行ったり。男性は主に夜の会合ですね。

私は学校の中の仕事を担当していました。
副会長というと何だかえらそうですが、実質は雑用! 何でも屋です。

◆ 300万円分くらい働いた気がする(笑)

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―――仕事について、少し具体的に教えてもらえますか?

まず最初は入学式ですね。来賓のみなさんのおもてなし、片付け。そのあと、新体力テストの計測のお手伝い、運動会中の見回り警備などなど‥‥。

―――体力テストや運動会は学校の授業や行事ですよね。

はい。先生だけではまわらないので保護者もお手伝いするんですが、その人員を集めたり、当日の指示などはPTA役員に投げられるわけです。完全に裏方なので知らない方も多いと思いますが、学校行事のサポートだけでも相当いろいろありますね。

―――学校の行事以外にもありますか?

たとえば、地域の自治協議会から「夏休みに子どもの料理教室をやりたい」といわれたことがありました。予算はそちらが出してくれる。でもイベント自体を作るのはPTAなんです。予算内でメニューを考えて、食中毒や熱中症の対策をして‥‥。初めての行事だったので、相当大変でした。

―――ああいうのって「自治協主催」という名義だけど、実務はPTAがやっているんですね‥‥。

そうなんです~! もちろん、校区によって違いはあると思いますが。

―――今ちょっと聞いただけでも、すごい仕事量じゃないですか?

時期によっては、休みなく動いていても回らないくらい。毎朝学校に出勤してましたね。子どもも「ただいまー」ってPTA会議室に帰ってきて、夕方まで待ってるという(笑)。

―――ほぼほぼフルタイムじゃないですか!

ほんと、年間300万円分くらい仕事した気がします‥‥。

―――それはやっぱり無償ですよね?

電話やメールの通信費という名目で、年間数千円の支給があったかと思います。それから退任するとき「おつかれさまでした」とクオカードももらいましたね。確か1500円分‥‥。

―――年収1万円以下ですね‥‥。


◆ 発見にみちた社会勉強

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―――役員をやってよかったなぁという面はありますか?

先生との距離が劇的に縮まります。先生たちも「一緒に働く仲間」として受け入れてくれる感じがするし、こちらも先生のことをフラットに見られるようになりました。一言でいうと信頼関係かな。

実は私、子どもの頃から先生という存在に苦手意識をもっていたんですが、それが一切なくなりましたね。校長や教頭を含め、先生たちもそれぞれ一人の人間なんだ、って。自分の人生の中ですごい発見でした。

―――お母さん同士はどうですか?

お付き合いがとても広がりました。役員同士はもちろん、自分が担当する委員会の人たちとまめにコミュニケーションをとりますから。

正直、困ったなあということもありましたよ。女性はどうしても広い視点が持ちにくく、小さなことにこだわりがち。ここに一人でも男性がいればスムーズに進むんじゃないかと思ったり‥‥。

―――お父さんだって親なのに、PTAの仕事はお母さんばかり。変ですよね。でも「男性が入ってくるとやりにくい」という声もあったりして、難しい。

そうですね‥‥。ともかく、うまくいかないことも含めて、すご~~~く勉強になりました。

―――ある意味、仕事以上に?

仕事以上! 社会の縮図のようで。ほんとにいろんな考え方、ものの見方、受け取り方があるんだなって‥‥。

◆ 保護者は同じチーム! 興味を持って、フラットに

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―――役員も経験したうえで、PTAは必要だと思いますか? 

何らかの形で「子どものために動ける大人チーム」は必要だと思います。必ずしもPTAという団体でなくてもいいけど。

現実的に、本ッ当~に! なり手がいないですからね。こんなに嫌がられているんだから、PTAは解散して、その都度ボランティアを募る形にしたらいいのかな、と思ったりもします。
ただ、チームで動く以上、何かしら統括する人が必要な気がして、結局それってPTA役員じゃん、とか(笑)。いろいろ考えますが、答えが出ませんね‥‥。

―――その都度ボランティアを募って、本当に集まるのかな~とも思うんですよね。たとえばクラス懇談会の出席者の少なさを見ても、仕事で参加できない人、時間を割きたくない人も多い気がして‥‥。

懇談会って、4~5人しか来ませんよね(笑)。

―――そもそも、PTAを嫌がる気持ちは、どこから来ているんでしょう。

「無理やりやらされる仕事」とか、「ボランティア活動は損」のような感覚があるのかなという気がします。実際、「ヒマな専業主婦が好きでやっているんでしょう?」という目で見られている感はありました。

―――それはつらい、というか悔しい!
役員ではない保護者にお願いしたいことはありますか?

もうちょっと学校やPTAに興味を持ってほしいかな。
「毎年同じパッケージの仕事をこなしているだけ」というイメージを持たれているかもしれませんが、実際はすべてマンパワーで、日々誰かが汗水流しています。どんなことをしているのか、広報紙や総会資料に目を通して、知る努力をしてみてほしい。そして、何が必要で何が不要なのか、自分なりに考えてみてもらえたらと思います。

―――「役員・委員じゃないから関係ないや」じゃなく、ですね。

同時に、役員のほうも広く発信する意識が必要ですね。「みんな無関心だから、こちらから発信しても仕方ないよね」と思ってしまいがちなので‥‥。

―――「子どものためのPTA」という原点に立ち返れたらいいですね。
先生や自治協の下請けではなく、子どものためになる・子どもと関われると思うと、興味をもてるんじゃないかな。

本当はきっと「これってどうなの」とか「もっと〇〇だったらいいのに」みたいなことがいろいろあると思うんですよね。でも、親しい人同士の愚痴で終わっちゃってる。同じ学校の保護者なんだから、同じチームとして意見を出してもらえたら。

私はもともと女性同士のお付き合いって得意じゃなくて、割と一匹狼。でも、「表からは見えないけれどきっとアクティブな心をもったお母さんはいるはず。そういう人に何か届けたい」と思って動いていました。
そうだ! 役員も肩書をなくしちゃうといいのかも。

―――なるほど。確かに、肩書に縛られたり、先入観を持ってしまう部分ってあるかも。

結局、「副会長だから」とかじゃなく、1対1のフラットな人間同士としての絆なんですよね。肩書をもった1人が100%がんばるより、100人が1%を持ち寄れたらいいな。そう思います。

(おわり。)

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プランターや水栽培でいろんなお野菜を育てている紅緒さん。聞き手のイノウエもいただいたバジルを育てています!

編集後記

ちまたでは、「PTAの仕事をするくらいならパートに出るほうがいい」という声も聞きます。男性の参加が少ないのも「PTAや子ども会より、稼ぐ仕事のほうが価値がある」という社会の価値観が反映されているのでしょう。

もちろん、経済環境も価値観も家庭によってさまざまで、PTAの仕事をするかしないかを含め、人に何かを強制することはできません。
ただ、子ども(我が子だけでなく地域や社会の子どもたち)が育つ環境はどうあってほしいか? そのために大人としてどうかかわっていくか? いろんな人とシェアしていきたい課題です。読んだ方、よかったら体験談やお考えを教えてください!

紅緒さんのフェア・フラットであろうとする姿勢にはいつも感銘を受けています。示唆に富んだお話をありがとうございました。
イノウエ エミ

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