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『新・日本の階級社会』橋本健二 ~ 階級差の拡大にファシズムの芽が見える

2018年刊行、おおいに話題になっていた本。
現代日本は、①資本家、②高年収の管理職層(新中間階級)、③正規労働者、④自営業者(旧中間階級)、そして⑤アンダークラスという5階級構造から成っている。

このうち、主に低収入の非正規労働者から成る「アンダークラス」は、新たに出現した階層ながら、2015年時点で930万人にのぼり、就業人口の15%を占める。今や自営業者の数を上回り、しかも5階級の中で唯一激増し続けている(2002年は691万人)。

アンダークラスは貧困率が際立って高く38.7%(女性は48.5%)、また、健康状態に不安を抱えていたり、ソーシャルキャピタル(社会資本。人脈や周囲との信頼関係など)にも乏しい傾向にある。
よって、階級の上昇による状態改善の見込みが低い。

(※「アンダークラス」にリタイア層(高齢者層)やパート主婦は含まれていない。)

アンダークラス。。。わたしはいつも、彼らをどこか身近に感じて生きてきました。日本が「総じて中流」というのは、かつてデータ上はそうだったかもしれないけれど、感覚として拒否してしまうところがあります。
21世紀になり統計上はっきりと表れるようになってなお、人々の頭に「総じて中流」イメージがあるのはとてももどかしい。。。

閑話休題。

本書は、官公庁の統計や社会学者が広く共通して用いるSSM調査などをもとにデータを読み解いている。明らかになったのは

● 格差と貧困を正当化する「自己責任論」が、程度の差はあれすべての階級に浸透していること。資本家・管理職層・正規労働者の所得再分配への指向は低く、貧困層に対して冷淡であること。

●「若者が右傾化している」はごく一部の若者のこと。
排外主義の傾向は20歳代がもっとも弱く、以降、50歳代まで一直線に増加していく。
(※排外主義=特定の人種や国(日本では主に中・韓)に対して敵対的・差別的なスタンス)

● 男性のほうが明らかに排外主義の傾向が強い。
また、排外主義にも自己責任論にもっとも否定的なグループは「パート主婦」

エミ的にこれは納得。パート主婦は地域や子どもの学校、パートの職場などで、さまざまな階層・人種など多様な人々とかかわりやすい立場にある。また、結婚出産などを機に消去法的に「パート」という職につく人も多い。「誰の子どもも殺させない」は各国の母たちに通じる心性でもあるだろうし。

● 反対に、自己責任論や排外主義をもっとも強く肯定し、所得再分配に反対しているのは、自民党支持者。

これも納得。だからこそ政府与党が国会や会見でああいう態度なんだろう。

● エミ的にショックだが腑に落ちたのは、アンダークラスの人々のデータを読み解いた分析。

これまでは、
  ・平等と平和への要求が結びつき(左派)、
  ・格差容認と排外・軍備重視が結び付く(右派)
‥‥というのが論理整合的な左右の立場だった。

しかし今、アンダークラスでは別の構図が見られる。
彼らは、格差是正や所得再分配を要求しながら、同時に排外主義を叫んでいるという。

「追い詰められたアンダークラスの内部に、
 ファシズムの基盤が芽生え始めているのではないか」

と筆者は推測している。

歴史を振り返れば、昭和前半の日本のファシズムも、おそらくドイツのファシズムも、まさにそのように芽吹いたはず。そして、資本家など既得権層がそれを利用して膨れ上がっていったはず。同じことを繰り返してはいけない。と私は思う。

●「日本の歴史の中で政治的に進歩的な役割を果たしてきた「新中間階級(管理職層)」の中に、格差容認や排外主義の傾向が増加している」
というのも、ショックだが腑に落ちた分析。

自己責任論から脱し、格差縮小への合意形成」
「それらを一致点とする政党・政治勢力の結集」

を、筆者は終盤で呼びかけている。

階級間にあまりにも大きな格差がある社会、
出身階級によって所属階級が決まる社会、
階級のジャンプアップが困難な社会‥‥

本来、そんな社会はほとんどの市民にとって望ましくないはずですよね。

「女たちの階級社会」の章も読みごたえがあった。
女性たちは、男性よりさらに詳細なグルーピングが必要で、
その内実は複雑であり、グループによって規範意識にはっきりとした相関があるという。

こちらは、機会があれば別記事で紹介しますね。

データの統計的扱いが確かなのと、筆者の良識がかなりにじんでいる良書。巷で話題になったので既読の方も多いと思いますが、あらためて、リベラル系の方に強くおすすめします。

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