小説『濾過』の出版を超えて〜自費出版から考える目指すべき作家像〜
こんにちは!
遂に『濾過』発売日当日を迎えました。小説家の齋藤迅です。
本日はクラウドファンディング、出版、販売という活動を通して考えたことについて、これから小説家はどのように活動を続けていくべきかを踏まえた話を書かせていただきます。
1.自費出版の困難
さて、僕は今回めでたく小説を出版できたわけですが、今回出版ということを体験して、僕は改めて出版社の必要性を痛感しました。
具体的にお話するにあたって、まずは小説を出版するための過程というのは簡単に以下のようなものに分かれています。
①企画(出版チーム内でどのような作品を作るか打ち合わせ)
②プロット/その他の作成(登場人物の設定など、筋の部分以外もこの時点で作成しました)
③執筆
④推敲
⑤チーム内でチェック
こちらは「小説を書く」ことにだけ焦点を当てたもので、実際にはこれにクラウドファンディングに関する諸々の作業が加わります。
クラウドファンディングに関する作業ーー例えばそれはクラウドファンディングに関するページの作成、宣伝のためのツイキャス放送、各方面へ協力の要請などーーは勿論大変でしたが、仮にこれがなかったとしたら上記執筆活動だけで、出版はできるものなのか。
無論、上記5つの過程だけでは小説を出版することはできません。
今回僕たちのチームが取り組んだ、簡略的なものだけでも以下のように作業は多岐に渡ります。
①企画
②プロット作成
③執筆
④推敲
④-1.誤字/脱字/漢字の使用不使用の統一についてのチェック。
④-2.初期構想時点との相違点について話し合い。
④-3.ルビの重複がないか、また必要か不必要かについて話し合い。
④-4.ページ組み。
④-5.再び④-1,2。
⑤表紙依頼
⑤-1.イラスト/写真/その他の何にするか。
⑤-2.誰に依頼するか、依頼できそうな方々のリストアップ。
⑤-3.依頼、値段交渉など。
⑥印刷所への依頼
⑥-1.ページ組み/ページ番号/表紙などの編集
⑥-2.使用する紙の決定
⑥-3.印刷所の方との打ち合わせ
⑥-4.⑥-3を受けての修正
⑥-5.入稿
⑦書店への営業
⑦-1.資料作成
⑦-2.アポ取り
⑦-3.実際の営業
⑧完成書籍の販売
⑧-1.梱包
⑧-2.発送
⑧-3.手渡しでの販売
①〜③までは、小説を書くにあたってお馴染みの作業です。恐らく小説を書くほとんど全ての人が通る道でしょう。
問題は④以降。例えばルビの振り方1つにしても、作者である自分以外の人々にとって必要なのか不必要なのか、その判断は自分1人で行うには困難な作業です。
またページ組みなどの作業に関しては、読みやすい形に仕上げるためにはある程度専門的な知識が必要になってきます。
印刷所に依頼する時の紙の選定なども同様です。
正直な話、僕もこれらの全てを1人ではできませんでした。
作家、編集者、デザイナー、マネージャーという4人のチームで出版に立ち向かってきたからこそできたことだと思っています。
だからこそ、僕は改めて出版社の必要性を感じたのです。
無論それは、小説を完成させるまでだけの話ではありません。同時に上記⑦以降の作業を成立させるためにも、出版社というものは必要でした。
書店へ個人による営業をかけたとしても、基本的に書籍はおいてもらえません。
書店によっては「自費出版」というコーナーがあったりしますが、あれらは基本的に出版と流通を同時に依頼することによって成立しています。ですから今回僕たちが行なったような、出版だけの依頼を印刷所にした場合、書店に本を並べることはほとんど不可能になってしまいます。
また⑧に、ネットショッピングにすればいいじゃないか、と思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし書籍が傷つかないように、また少しでも購入者の方々に「買ってよかった」と思ってもらえるよう、封筒などではなくキチンと梱包作業を始めますと、大体15冊から25冊を梱包するだけで1日が潰れます。
僕は今回、お礼のメッセージカードを書き、緩衝シート(プチプチ)に書籍を包み、更にそれを和紙のような紙で包んでいます。
自身で作業工程を増やしたせいであるといえばそれまでですが、やはり郵送にて販売を行う場合、梱包材などには配慮が必要です。そうなってくると作業は大変になってしまいます。
住所を書き込むことなども、案外と時間がかかりますからね。
2.出版社で本を出すことは、飼い慣らされることではない。
そんなこんなで僕は今回、痛切に出版社の必要性を実感しました。
個人で活動できるのは基本的に、電子書籍のみです。商業作家として、筆を持って食っていくつもりであるならば、紙製の書籍を個人で出し続けることはほとんど不可能ですし、何より非効率的であると言えるでしょう。
僕はこれまで、出版社から小説を出すことについて、その印税率の低さにのみ着目して語ってきました。
大御所作家でも印税率が20%に達すれば高い方だ。つまり、1,500円の本を5,000部出した時、150万円稼げればいい方だと。
しかしそれらの小説は短くても数ヶ月、長ければ数年かかって書いたものです。それじゃあ作家は食っていけない。しかも大概の作家の印税率は10%に届くかどうかというところ。これでは小説を書くことは仕事になり得ません。
そのように考えているのは、出版の困難を知った今でも変わっていません。
そこで僕は考えました。
読書家の多くは、紙媒体で本を読むことに拘りを持っています。反面、「小説家になろう」というサイトでは毎日数え切れないほどの作品が、ネット上で読まれている。
紙媒体の書籍とネット上の書籍では、それぞれ異なるメリットとデメリットがあります。例えばそれは以下のようなものです。
【紙媒体の書籍】
◯メリット
→編集/校閲作業が入ることによる信頼。企画の段階から第三者の目が入ることによりクオリティが向上する。書店に置くことで比較的容易に認知される。
◯デメリット
→利益率が低い。作業に時間がかかる。
【電子書籍】
◯メリット
→いつでもどこでも誰にでも購入できて読める。作業が早い。好きなものを書ける。公開後も修正が容易。
◯デメリット
→作品数が多すぎるため認知が難しい。第三者の目が入らないことで信頼に欠ける。また、誤字脱字などについても作者自身の勘違いなど、見落としが増える。
出版社でのみ本を出して、それで生計を立てていくことができるのは一部の作家のみです。しかし、紙媒体の書籍を出版するならば出版社を介することが結果的に一番効率的です。
つまり、今後の小説家に求められるのは使い分けすることでしょう。
紙の書籍によって認知を得て、電子書籍をコンスタントに書き続けることでお金を稼ぐ。
このサイクルによって収益を上げていくことが、恐らく必要不可欠です。また出版社を介して仕事をすることは、講演会などの執筆以外の仕事にも繋がっていくでしょう。
章題にもある通り、出版社で本を出すことは出版社に飼い慣らされることとイコールではありません。
寧ろ逆に、僕たちこれからの小説家は出版社との関係性を自身でコントロールしていく必要があるのです。飼い慣らされるのではなく飼い慣らす。そのくらいの気概がなければ難しいかもしれませんね。
3.終わりに
今回の出版活動を通して、本当に多くのことを学ばせていただきました。
支援してくださった皆様に改めまして御礼を申し上げます。
さて、今回体験した様々な困難を通して、僕は2020年の目標を1つ立てました。それは五大新人賞すべての受賞作を読み、自身の作風と合った新人賞を選定。選んだ新人賞の受賞作についてその傾向を明らかにする、ということです。
今年から3カ年計画で新人賞を受賞、更に長期的には5カ年計画で芥川賞を受賞したいと考えています。
このように客観的に自身に必要なものが何か、ということを考えることができて、本当に良かったと思います。やはり何事も、体験してみないことには難しいものですね。
長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
来週2月9日(日)には『濾過』出版を記念したイベントを千葉県市川市で開催します。制作秘話などを話すトークショーや掌編小説の展示、その他簡単なお料理とお酒を用意して交流会などを行う予定です。
お待ちしておりますのでぜひよろしくお願いします!
それでは、ありがとうございました!
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